40.町に戻った二人
「冒険者ギルドに報告したら、驚かれたね。ゴブリンチャンピオンとゴブリンロードを提出したら、報奨金も貰えて、ランクアップのポイントも貰えちゃった」
「男爵からは褒章メダルを六枚貰ったし、今回は実入りが良かった。しばらくはこのお金で暮していけるだろう」
冒険者ギルドを出た私たちはホクホク顔で歩いていた。村で倒したゴブリンチャンピオンとゴブリンロードは冒険者にとって功績になるもので、その死体を提出すれば色々貰えた。
宴が終わった村では、ゆっくりと休んだ後、大量のゴブリンの死体を焼却処分した。これらを冒険者ギルドに持っていけば功績になるらしいんだけど、数が数だから無理だと判断してゴブリンチャンピオンとゴブリンロードだけにした。
千にも迫るゴブリンを倒したことを報告したが、それは証拠がなかったため冗談に受け止められてしまった。それは残念だった。だけど、あのゴブリンの死体を持って来るのは大変だったので、これで良かったんだと思う。
「これからはどうする?」
「褒章メダルを貰えるような依頼がやりたいかな」
「なら、貴族の依頼か国に貢献している大きな商会の依頼を受けるといい。そいつらは褒章メダルを持っている」
「じゃあ、その依頼を受けたいな」
褒章メダルは貴族だけじゃなくて、大きな商会も持っているんだ。それなら、その依頼を目当てで動くのがいい。
「そういえば、褒章メダルって何枚集まれば貴族になるの?」
「まず五十枚。五十枚貯めると騎士爵か冒険爵が貰える」
「騎士爵は聞いたことある! 冒険爵って何?」
「この国特有の貴族の位だな。冒険者が貴族の特権を持っていると思ってもいい」
「へー、そんな爵位があるなんて、この国は懐が深いね」
功績を上げた冒険者が貴族位になるなんて凄い! 冒険者をしながら、国に身分が保証された感じになるのかな?
「百枚で男爵、二百枚で子爵、三百枚で伯爵、五百枚で侯爵、千枚で公爵になれる」
「へー、そうなんだ。クロネは褒章メダルを集めてないのに詳しいね」
「まぁ……ちょっと学ぶ機会があったからな」
口ごもりながらそう言う。えっと、そんなに答えづらい質問だったかなぁ?
「沢山集めないと爵位って貰えないのは大変だなぁ」
「ユナなら魔力で作れるんじゃないか?」
「いや! そんな卑怯な事はしないよ!」
「まぁ、それでユナが貴族になったら嫌だな」
いやいや、そんな事は絶対にしない! ちゃんと自分で集めて、正々堂々と貴族になってみせるんだから!
「そういえば、ユナは強くなった?」
「ん? そうだなぁ、まぁまぁ強くなったかな。魔力操作のやり方が大分分かってきたし」
「そうか! なら、一緒に修行しよう!」
クロネが私の前に出て、訴えかけてきた。その目はキラキラと輝いて、とても興奮しているようだ。
そっか、クロネは私が強くなる時を待っていたんだ。そうだよね、クロネが私についてきた理由は自分より強い人と戦う事なんだから。
「そうだね、私もまだまだ力不足だし。クロネと一緒に修行したいな」
「そうか! なら、今からやるか!?」
「今日、町に戻ってきたばかりだよー。明日からにしない?」
「明日……。うん、いい」
私の言葉にクロネは何度も頷いて見せた。いつも冷静なクロネばかり見ていたから、子供のようにはしゃいだ姿がとても珍しい。
「クロネも年相応に喜ぶんだね。なんか、可愛い」
「可愛い? ……あんまり嬉しくない」
「えっ、嬉しくないの? じゃあ、なんて言われたら嬉しいの?」
「……別に」
マントに顔を隠して、プイッとそっぽを向く。うーん、クロネが言われて嬉しい言葉……。そういえば、カッコいいって言ったらしっぽが嬉しそうに振れていたな。
「クロネって冷静な感じがして、大人っぽくてカッコいいよね」
そう言うと、クロネの耳がピクピク動く。そして、そっと耳がこちらを向く。
「他の子と違って、そういうところがカッコいいと思うんだけどなー」
顔を背けているが、耳はしっかりとこちらを向いている。しかも、しっぽが嬉しそうに振れ始めた。ははーん、なるほどね。クロネはこういう言葉に弱いんだ。
「子供が喜びそうなところをクールに過ごすところがカッコいいなー。どうしたら、そんなにカッコよくなれるんだろう?」
ニヤニヤしながらはっきりと伝えると、クロネの体がフルフルと震える。そして、クロネの手が自分の耳を潰して閉じた。
「……あんまり、そういうこと言うな」
「どうして? 正直に言っただけだよ? それとも、クロネはこういう言葉が嫌い?」
「……嫌いじゃない」
「じゃあ、いいんじゃない?」
「……うぅ」
ふふっ、戸惑っている。少しずつクロネの事が分かってきて、楽しい。他に好きそうな言葉はないかな?
他の言葉を考えていると、クロネの鼻がピクピクと動いた。そして、耳から手を離して辺りを見渡した。
「この匂い……」
「どうしたの?」
「……血の匂い」
「えっ、血? どこかの誰かが転んで怪我をしたとか?」
「いや、そんなに少量の血じゃない。もう少し量がある。それに、血に混じってランカの匂いがある」
その言葉に緊張で体が固まった。それって、つまり――。
「ランカが大きな怪我をしているかもしれないってこと?」
「……あぁ」
「じゃあ、行って手当しないと! クロネ、場所は分かる?」
「分かる。こっちだ」
クロネが走り出すと、その後を私も追って行った。
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