39.村の英雄
「こ、これほどのゴブリンが潜んでいたとは……!」
翌朝、ゴブリンの死体で山になった光景を見て、男爵と村人たちはその数の多さに驚愕した。まさか、千にも迫るほどのゴブリンが潜んでいるとは思わなかったらしい。
「こんなに大量のゴブリンをこの子たちが倒したというのか。信じられない」
「しかも、森の入口で全てを止めている。村には全くの被害がない」
「こ、こんなことが……! 君たちは村を救ってくれた英雄だ!」
ゴブリンの死体の山を見た村人たちは私たちを取り囲み、声を上げて感謝をした。その感謝の熱量に私もクロネもタジタジになってしまう。
その感謝の熱量に戸惑っていると、村人をかき分けて男爵が近寄ってきた。
「二人とも……本当にありがとう! 村を救ってくれて、なんと感謝を言っていいか……。そうだ! みんな、宴をしよう! 宴を開いて、この子たちに我々の気持ちを伝えるべきだ!」
「おおっ! それはいいな! 宴を開こう!」
「村を救ってくれた英雄にこの気持ちを伝えなくちゃ!」
「最大のおもてなしをするぞー!」
男爵の言葉に村人たちは賛同した。こうして、村をあげて私たちに感謝を伝える宴が開かれることになった。
◇
夕暮れが近づくころ、村の広場はすでに活気に満ちていた。
広場の中央には大きな焚き火が焚かれ、パチパチと心地よい音を立てながら炎がゆらめいている。その周囲には丸太で組まれた簡易の椅子や机が並べられ、色とりどりの料理が次々に運ばれていた。
「すごい、こんなにたくさんの料理。どうやって?」
私は目を見開いた。焼きたてのパン、香草と肉の煮込み、炙り魚、地元の野菜で作られたサラダ、それに果実を煮詰めた甘いデザートまで。村中の食材が集まっているんじゃないかというくらい、広場はご馳走で埋め尽くされていた。
「村を救ってくれた英雄に感謝を伝える宴さ。本気を出してもらったよ!」
おばちゃんが景気のいい声を出して、私たちを席に案内した。私たちが席に着くと、男爵はコップを手に持ち話し始める。
「大軍勢のゴブリンたちを退けた英雄に感謝を! 乾杯!」
男爵の言葉に村人はコップ掲げて一緒に乾杯をした。すると、広場はいっきに賑やかになった。村人たちの笑い声が聞こえてきて、平和な光景が広がっている。
その光景を身ながら食べるご馳走はとても美味しくて、二人で笑顔になりながら食事を進めた。
すると、誰かが笛を吹き始め、太鼓の音が加わると、村人たちが輪になって踊り始めた。みんなとても楽しそうに踊っていて、心がワクワクした。
「ねぇ、私たちも踊ろうよ!」
「えっ? いや、でも……」
「ほら、いいから!」
私は戸惑うクロネの手を引っ張って、輪に加わった。二人で手を繋いで踊ろうとすると、クロネの方から動いてくれる。その動きはとても自然で、安心して一緒に踊っていられた。
村人たちの笑顔に囲まれているうちに、少しずつクロネの表情がやわらいでいくのが分かる。
「……こういうの、あまり慣れてないんだ」
小さくぼそっと呟いたクロネの声に、私はくすりと笑う。
「そのわりには、踊るの上手いよ」
「まぁ……嗜み程度だから」
嗜み程度で軽く踊れるなんて凄い。クロネは何でも出来て、本当に凄い。あの時だって――。
「クロネがね一人で残るって言った時、凄く不安だったの。もし、クロネの身に何かったらって思うと胸が張り裂けそうだった」
「……心配かけてごめん。だけど、あの時はゴブリンを村に入れる訳にはいかなかった。村を助けるためには必要なこと」
「うん、だから……あの時、クロネが一人で立っている姿を見たら、本当にホッとした」
私の言葉にピクリとクロネが反応した。
「……怖かっただろう? あんな獰猛なあたしは……」
とても悲しそうな顔をしてそんなことを言った。それに、私はすぐに首を横に振る。
「全然、怖くなかったよ。だって、どんな姿でもクロネはクロネだから」
笑顔で気持ちを伝えると、クロネが目を見開いて驚いた顔をした。そして、すぐにマントで顔を隠す。
「……嫌われると思った」
「えっ?」
「獰猛な姿を見られて、怖がられて、嫌われると思った……」
しゅんと落ち込むように耳がへたり込む。どうやら、クロネは普段の冷静な姿じゃない姿を見られるのが怖かったらしい。
それを気にしているクロネはまるで捨てられた猫の様。思わず手が伸びて、頭を撫でてしまう。
「……何を?」
「大丈夫! どんな姿でも嫌わないよ! だから、よしよし」
「……ただ、触りたいだけだろ」
「ふふっ、落ち込んでいるクロネを見たら、つい手が伸びちゃったんだよ」
「全く。ユナは触るのが好きだな」
「クロネだからね!」
「……また、そういうことを言う」
元気よく答えると、クロネは顔を隠しながらモゴモゴと喋る。気になって尻尾を見て見ると、嬉しそうにユラユラと揺れている。それを見て、つい私も嬉しくなってしまう。
「もし、私が落ち込んだ時にはクロネがよしよししてね」
「あたしが? ……考えておく」
「もう、そこは任せろって言わないと!」
「……やだ」
あー、拒絶をされちゃった。やっぱり、まだ仲良くなってないのかな? ちょっとだけ落ち込むと、クロネの手が私の手を引っ張ってリードしてくれる。
積極的になって、どうしたんだろう?
「……なんか、悲しい匂いがした」
そう言って、私を楽しませようとクロネがリードして踊ってくれる。その気遣いに心が温かくなって笑ってしまった。ちゃんと、友達になれる時は近いかも。
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