34.異変
「じゃあ、今日もゴブリンの駆除に行こうか」
「ん」
男爵の屋敷で朝食をご馳走になった後、私たちは森へと向かった。
「昨夜の監視には異常がなかったね」
「そうだな。何事もなくて良かったと思う」
「でも、どうしてゴブリンは森から出ようとしないんだろうね」
「さぁ、分からない。何かの機会を窺っているとかじゃないか?」
「機会ねぇ……」
森に行く道でゴブリンの事を考える。ゴブリンはどうして森の外に出ないのか、森に入った人だけを攻撃するのかその意図が見えない。
「ゴブリン程度の知能では、作戦を考えても程度の低いものばかり。だから、脅威ではないんだけど……不気味」
「今日はゴブリンの目的なんかも調べてみる?」
「まぁ、それがいいだろう。今日は森全体を調べてみよう」
ゴブリンが何を企んでいるか分かれば対処しやすい。今日はいつも以上に動き回ることになりそうだ。
そんな事を話していると、森の入口に辿り着いた。私たちは警戒をしながら森の中に入っていく。
すると、森の中では鳥の声や虫の声が聞こえてくる。これが森本来の雰囲気、昨日の張りつめた空気はなくなっていた。
だから、それが余計に不気味に思えた。
「……おかしい。昨日までの雰囲気じゃない」
「普通の森、だよね」
「昨日の今日でこれは変わりすぎている。昨夜までは緊張した雰囲気だったのに」
いきなり変わった森の雰囲気に私たちは戸惑った。こんなに変わりすぎているのにはきっと理由があるはず。
「とにかく、森を歩こう」
「うん。まずはゴブリンを見つけないと」
ここにいても埒が明かない。私たちは森の中を歩くことに決めた。
昨日なら歩き始めて、すぐにゴブリンの気配がして、少し時間が経つと襲い掛かってきた。今日は昨日と同じようになるのだろうか?
警戒しながら歩いていくが、ゴブリンの気配は感じない。その代わりに鳥の声や虫の声が聞こえてきて、本当に長閑な森の中だと思える。
「ゴブリンの気配が全くしない。一体、どこに行った?」
「昨日は私でもゴブリンの気配は分かったけど、今日は何も感じないね。昨日、沢山倒しちゃったから警戒して出てこないんじゃないかな」
「まぁ、それはあるけれど……。でも、倒した後もゴブリンの気配はしていた。だから、怖気づいて出てこないということじゃないと思う」
この森は一体どうしたんだろう? これが普通の森のあり方だが、昨日とは変わりすぎている。こんなに変わると、普通であっても不気味に感じてしまう。
「とにかく、動き回ろう。その内、ゴブリンに出会うはず」
「うん。ゴブリンの駆除は私たちの役目だからね」
私たちはゴブリンを求めて、森の中を歩き続けた。
◇
森の中を歩き続けた私たちだけど、とうとうゴブリンは見つけられなかった。森の中からゴブリンがごっそり消えた感じだ。
一体、ゴブリンはどこに消えたのか……それを突き止める事が出来なかった。
「とうとう、ゴブリンと出会わなかったね」
「あぁ。森の中には足跡がいっぱいあったのに、一体も見つからないのはおかしい」
「やっぱり、何か企んでいるのかな?」
「……そうかもな。もしかしたら、あたしたちが昨日沢山倒したから、作戦を実行したのかもしれない」
昨日の私たちとの戦闘が引き金になった可能性はある。
「私たちが強かったから逃げたとか?」
「まさか、そんな事があるわけない。きっと、頭のいい奴が指示をしたんだろう」
「じゃあ、あのゴブリンたちに指導者がいるってこと?」
「可能性はある。ゴブリンの上位種がいる可能性が高い。それとも、別の何かか……」
ここで話していても、出てくるのは憶測ばかり。不安が募っていき、萎縮してしまいそうになる。
ううん、萎縮なんかしちゃだめ。だって、私は冒険者なんだから。ここは、果敢に立ち向かうべきだ。
「とにかく、今日の事は男爵に話そう。そして、今後の対策を考える」
「そうだね。もしかしたら、何かを仕掛けてくるかもしれないし。準備は万端にしておかないと」
私たちはその話を一旦やめて、男爵の屋敷へと急いでいった。
◇
男爵の屋敷に戻ると、今日のことを詳しく話した。すると、男爵も不気味に思ったのだろう、対策を強化すると言い始めた。
今日から監視を増やして、森の異変にすぐに気づくようにする。これで、何かあった時はいち早く村に情報が行き渡るようにした。
そして、夜になった。
部屋で休憩を取っていると、クロネが立ち上がる。
「ちょっと、見てくる」
「じゃあ、私も行くよ」
「見てくるだけだぞ」
「それでもいいの。じゃあ、行こう」
クロネのことだから、行くと思った。私たちは部屋から出て、森へと向かった。
森の入り口の数か所にかがり火を置いて、村人が歩き回って森を監視していた。その所へ近づくと、村人がこちらに気づく。
「お嬢ちゃんたちは……。監視の手伝いをしてくれるのか?」
「あぁ。ちょっと、あたしたちも見回ってもいいか?」
「もちろん、助かるよ」
村人の了承を得て、私たちは森の中に入ってみた。森の中が暗くてとても歩きにくい。そこで私の魔力を明かりに変異させて、辺りを照らした。
その明かりを頼りに森の中を歩いている時――空気に緊張感が出てきた。これは、ゴブリンたちがいた時と同じ空気。
どうして、今になってそんな空気になったのか分からない。だけど、その空気は時間が経つごとにつれて重くなっていっているのが分かった。
その時、クロネの耳がピクピクと動き出す。
「遠くから、ゴブリンたちの声が聞こえる。……これは、かなりの数がいる。昨日の比じゃない」
「えっ、そうなの!?」
「……段々こちらに近づいてきている」
「沢山のゴブリンたちがこっちに? じゃあ、村が危ない!」
「ん。急いで村人に知らせよう」
ゴブリンの気配を察知した私たちは森を抜けて、村人にこの事を知らせに走った。
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