33.誠実なクロネ
その後もクロネは私の魔力操作に付き合ってくれた。一人で何十体ものゴブリンを引き付けて、手出しは一切しない。怪我をしそうでハラハラと見ていたが、クロネは怪我の一つもしなかった。
お陰で私は何度も魔法を使えて、良い練習になった。魔力操作も上手くなり、私の意思が乗った魔法はゴブリンに必中し一撃で仕留めてくれる。
十分に戦った後、日が傾き出して今日の駆除はおしまいになった。
「沢山倒したな。百以上は倒していたと思う」
「そんなに倒した? 夢中だったから、数えてなかったなぁ」
「あの魔法があれば、私が動いても大丈夫そうだ」
「うん。絶対にクロネに当たらないから、安心して」
クロネも私の魔法を見て、そう感じてくれたらしい。だったら、次はクロネとの連係を考えて動かなくっちゃ。
出来る事が増えて喜んでいると、クロネが周囲を警戒している様子に気づいた。
「どうしたの?」
「森を出ようとすると、ゴブリンたちの気配が緩くなった」
「そうなんだ。本当に森に入る人しか興味ないみたいだね」
「あぁ。やっぱり、ここのゴブリンはおかしい。何か企んでいるような気がする」
「ゴブリンってそういうことするの?」
「あまり難しい事はできないが、簡単な命令ならその通りに動くはずだ。もしかして、あのゴブリンたちは何かの命令を受けている?」
険しい顔をしてクロネはそう言った。ということは、このゴブリンたちには目的があるってこと?
「森を出ない事といい、森に入ってきた人を排除する動きといい……気がかりな事が沢山あるな」
「何か悪だくみを考えているのかな?」
「……そうかもしれないな。村に戻ったら、すぐに男爵に報告だ」
「うん、分かった」
私たちは足早に森を出て、屋敷へと向かっていった。
◇
私たちの報告を受けた男爵は困惑した様子だった。ゴブリンたちが何を考えているか分からないが、何かの目的があることに恐怖を覚えたみたい。
それで男爵様が考えたのは、森の監視をすることだった。監視をおけば、突然襲ってきても村中に知らせる事が出来る。もし、不可解な行動をすれば、その様子が分かる。
ゴブリンを警戒するに越したことはない。男爵はその日の内に村人を集めて、森近くに監視を置くことを伝えた。村人も話を聞いて怯えたのか、監視を付けることに賛成の様子だった。
そして、その日の夜から森近くには村人が交代で監視が置かれるようになった。
私たちは昼間の活動があるため、監視の役目には当たらなかった。だけど――。
「ユナ。ちょっと行ってくる」
「行くってどこへ? もう、寝る時間だよ」
「監視が気になって。すぐ、戻って来る」
そう言って、クロネは部屋を出て行った。すぐに戻って来るだろうと思い、起きて待っていた。だが、クロネはいつまで経っても戻ってこない。
流石に心配になり、服に着替えると、私も部屋を出て行った。
月明りを頼りに道を進んでいくと、森の近くに焚火の明かりが見えた。きっと、あそこで監視しているに違いない。そう思った私は焚火に向かって歩き出す。
すると、そこでは村人が二人座っているだけだった。
「あれ? お嬢ちゃんは確か……」
「冒険者です。あの、ここに猫耳獣人の子が来ませんでしたか?」
「あぁ、来たよ。ちょっと、周辺を見て回るって言ってたんだ。そろそろ、戻って……ほら、来たよ」
村人が指を差した方向を見ると、そこには見回りを終えたクロネの姿があった。
「お嬢ちゃん、どうだった?」
「森の中にはゴブリンの気配があったが、こちらが動かなければ何もしてこないと思う」
「そうかい。だったら、監視は続行だな」
「ユナも来たのか」
「うん、心配になって」
「大丈夫、もう帰るところ。じゃあ、おじさんたち、あとはよろしく」
そう言うとクロネは屋敷に向かって歩き出した。どうして、クロネは監視をしているのにここに来たんだろう? 何かがあったら知らせてくれるのに……。
そういえば、クロネって前の村で困っていたことがあったらすぐに助けに入っていた。もしかして、クロネって正義感が強い方なのかな?
まだそんなに時間はいないのに、私の事もちゃんと考えてくれる。クロネってちょっと冷たそうに見えるけれど、本当は思いやりに溢れた人なんだ。
「ふふっ」
「どうした?」
「クロネってカッコいいなって思ったの」
「……どうした、急に」
私の言葉にクロネは不思議そうに首を傾げた。
「困っている人がいたらすぐに助けに入ったり、自然と手を貸してくれる。それで色んな人が助けられているし、私もいっぱい助けてもらった。だから、カッコいいなって思ったんだよ」
自然とそういう事が出来るのって凄い事だと思う。クロネの誠実な態度は尊敬しちゃうし、見習いたいと思う。
すると、クロネはマントで顔を隠しながら答えてくれる。
「人に親切であれ、と父上と母上に教えられた。あと、困った人を助けられる人になりなさいとも」
「素敵なご両親だね」
「あぁ、尊敬している。とても立派な人だ」
そんな立派な両親に恵まれたから、クロネはこんなに素敵に育ったんだね。ここにはいないけれど、感謝をしたい気持ちになった。
「これからもカッコいいクロネでいてね」
「……だから、カッコいいは余計」
「照れてるの?」
「……別に」
そう言ってそっぽを向くが、しっぽはゆらゆらと嬉しそうに揺れている。クロネは私の感情が読み取れるように、私もクロネの感情が読み取れるよ。
もっと仲良くなったら、クロネの口から素直な気持ちが聞けるかな? その日がとても楽しみだ。
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