30.リオストール子爵家訪問
「ここが、あの時のお姉さんのお家だね。結構、大きいね」
「そうか?」
翌朝、私たちは約束通りに助けた貴族の屋敷を訪ねた。大きな門と塀に囲まれたその屋敷は、とても大きなものだった。
その屋敷を見ていると、近くにいた門番が話しかけてくる。
「嬢ちゃんたち、この屋敷に何か用か?」
「あの、これを……」
「これは……お嬢様の手紙?」
「読んでみて」
門番は驚いた顔をして、手紙の中を改めた。
「こんな小さな子供たちがお嬢様を助けた?」
「これでもBランクの冒険者だよ」
「ん」
信じられないような顔をした門番に冒険者のタグを見せると、さらに驚いた顔になった。
「本当だ! お前たちは凄い冒険者なんだな。今、確認を取って来るからちょっと待っててな」
そう言って、二人いた門番の内、一人が屋敷へと向かっていった。しばらく待っていると、門番がメイドを連れて戻ってきた。
「確認が取れた。どうやら、領主様が直々にお会いになりそうだ。このメイドについていってくれ」
「分かった」
「ありがとう」
「では、お客様はこちらへ」
メイドに案内され、私たちは屋敷の中へと足を踏み入れた。中は外観以上に豪華で、壁には高価そうな絵画が並び、床にはふかふかの絨毯が敷かれている。
この感じ懐かしい。かつての屋敷を思い出して、ちょっとだけ切なくなる。
「ユナ、どうした?」
「えっ?」
「今、寂しそうな匂いがした」
「えぇ、そんな匂いがした? なんか、恥ずかしい」
うぅ、感情がクロネに筒抜けっていうのが恥ずかしい。
「ちょっと、昔を思い出しただけ。なんでもないよ」
「……そうか」
そう言うと、クロネは深く突っ込んでこない。私の事を気にしながらも、無理強いはしない。その距離感がとても心地よく感じてしまう。
「どうぞ、こちらの部屋でお待ちください」
すると、メイドが一室の扉を開けてくれた。その中に入ると応接間で、高級そうなソファーやテーブルが並んでいた。
そのソファーに座ると、そわそわしながら領主様が来るのを待った。そうして、しばらくすると扉が開き、領主様とお姉さんが現れた。
「やぁ、待たせたね」
「ふふっ、久しぶり」
領主様とお姉さんはにこやかな顔をして私たちの前のソファーに座った。
「娘から話は聞いておる。貴殿らが、魔物どもから娘を助けてくれたそうだな。我が娘を救ってくれた恩は、一生忘れん。礼を言わせてくれ。ありがとう」
領主様が私たちに向かって軽く頭を下げた。そ、そこまでしてくれるなんて、なんだか恐縮だな。
「言葉だけではこの気持ちを伝えるのは不十分だと思っている。何か褒美を渡したい。何か望みの物はあるか?」
「だったら、褒章メダルをくれない?」
「おお、あれか! いいぞ!」
クロネがすぐに答えると、領主は分かったように頷いた。そして、傍にいた執事に指示をすると、その執事は一度部屋を出た。
しばらく待っていると、執事が何かを持って戻ってきた。それを領主様に渡すと、領主様は私たちに手渡してくる。
「これが褒章メダルだ。三枚、進呈しよう」
「ありがと。ん、ユナ」
「ありがとう!」
三枚もくれるなんて、なんていい人なの! えへへ、これで褒章メダルが四枚になった。
「それにしても、あなたたちがBランクの冒険者だなんて驚いたわ。とても強いのね」
「おお、そうなのか? この町にBランク以上の冒険者は少ないからとても助かるよ。最近は魔物の数が増えて、大変になったからね」
「魔物の数が増えた?」
「うむ。外からの商人から聞いた話なんだが、明らかに魔物の数が増えていっているらしい。被害も増えていて、困っていたところだよ」
そんな事になっていたなんて知らなかった。隣のクロネを見て見ると、その話に目を輝かせている。きっと、戦える相手が増えていると知って嬉しいのだろう。
「ウチの領以外にも魔物が増えているみたいだね。今まではそんな事がなかったのに、一体どうしてしまったんだか……」
「魔物と言えば、嫌な噂を耳にしたのよね」
「あー、あれだね」
「どんな話なんですか?」
増えた魔物以外にも何かがあるのだろうか? 気になって訪ねてみると、領主様は困ったような顔をして話し始めた。
「実はな、町の中で魔物を見たっていう噂が流れているんだ」
「町の中に?」
「外門はしっかりと閉まっていて、門番だっているはずなのに……まさかとは思ったよ。魔物が入る隙間がないはずなのにね」
「怖い話よ。取り締まりを強化しているのに、その噂は消えないの。まるで、壁をすり抜けて入ってきているようだわ」
壁で囲まれた町の中に魔物がいるなんて信じられない。魔物が町に近づけば門番が退治してくれるし、例え門番を通り抜けれたとしてもそこには頑丈な門や壁がある。
どう考えても、魔物が入る隙間はないというのに……。どうして、そんな噂が広がったのだろうか?
「本当に町の中に魔物がいたら大変な事になる。冒険者ギルドには町の中を冒険者が見回る依頼をしているのだが、魔物は一向に見つからない」
「それなのに、魔物を見たっていう噂は絶えないの。まるで、こちらの動きを見られているようで怖いわ」
「実害は?」
「今のところはない。それが救いだ」
険しい表情をしたクロネの問いに、領主様は首を横に振る。良かった、領民に被害があるってことじゃないみたい。
「冒険者ギルドには依頼をかけているから、君たちも時間があれば依頼を受けて欲しい」
「よろしくね、可愛いBランクの冒険者さん」
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