26.冒険者になるための試練(3)
「全く、開始前に詠唱をするなんて卑怯な。正々堂々、魔法の打ち合いで勝負だ」
「は、はぁ……」
回復ポーションを飲んだエルジャンが怒りながらそんな事を言った。そっか、今の勝負はどっちが相手を倒すかじゃなくて、魔法の威力を勝負するものだったんだ。
今のは一方的だったから、どっちが強かったなんて分からない。力の強さを証明するためには、力を見せつけないとダメなんだ。
「僕の魔法はどれもスマートで強力で威力の高いものだ。その魔法を見ると、君も僕の強さが分かるだろう」
「じゃあ、その強い魔法を全部打ち壊せば、私が強いっていうことになりますね」
「ははっ! 言うねぇ。そんな事、不可能だとは思うけど」
ここにいる皆はエルジャンの魔法の強さを知っている。その知っているものより強力な力で打ち壊せば、私の強さも分かるってことだよね。うん、分かりやすい。
私はそれで納得しているつもりだけど、隣にいるクロネがとても不機嫌だ。
「……今のはユナが勝っていたのに」
「さっきのは速くて分からなかったんだよ」
「速さは強さだ。強さの証明になる。なのに、それを信じられないなんて……どうかしている」
この調子だ。クロネはどうしてさっきの戦で私の強さの証明になっていないことに怒っている。私を思って怒ってくれることが嬉しい。
「ユナは強い。だから、自分の弱さを認めない奴をコテンパンにしてやれ」
「うん。どれだけのことが出来るか分からないけれど、全力を出すよ」
「絶対にユナが勝つ。あたしは信じている」
クロネがグッと拳を見せると、私はそれに自分の拳を合わせた。うん、勇気を貰ったし、私ならできる。
「準備はいいかい? じゃあ、始めようか!」
二度目の開戦だ。私はエルジャンが魔法の詠唱を唱えている間に自分の魔力を極限にまで高めて、防御魔法を展開させる。そして、その詠唱が終わるのを待った。
「――燃え上がれ、我が命を映す紅蓮の光よ! 世界を灼き尽くす皇炎となりて──その身を焼き払え!」
詠唱が終わると、巨大な炎が生まれ、物凄い速さでこちらに襲い掛かって来る。炎の魔法か……なら、こっちは水の魔法で対抗だ。
膨大に膨れ上がった魔力を水に変換し、渦巻き状になって放った。巨大な炎と大量の水の渦、力がぶつかりあい――水は炎を飲み込んだ。
大量の水はそのまま勢いよく飛んでいき、エルジャンに直撃した。
「ぐわぁぁっ!!」
やった、私の魔法が勝った! その様子に周りにいた冒険者たちが騒めいた。
「おい! あの嬢ちゃんがエルジャンの魔法をかき消したぞ!」
「マジかよ! 冒険者ギルドで一番強いと言われているエルジャンが負けた!?」
「これは現実なのか!?」
良かった……私の魔力の強さを分かってくれたみたい。じゃあ、これで戦は終わり?
「ま、まだだ! 次はこの魔法でどうだ!」
水に流されたエルジャンが戻ってきた。すぐに杖を構えて、詠唱に入る。
これじゃダメなの? だったら、諦めるまで私も魔法で対応するだけ!
「――天の高みに我が声届きし時、星の如く降り注ぐ裁きの礫よ。大地を穿ち、魂すら震わす魔の雨となれ!」
すると、杖の先から光が空に向かって飛び出していった。ということは、魔法は上から来る!?
空を見上げると、光り輝く魔力の塊が閃光のように落ちてきた。この数……全部は撃ち落とすのは無理!
私の体に魔力の閃光が次々と降り注いだ。
「エルジャンの奴、全然手加減なんてしてねぇぞ!」
「おいおい! あの嬢ちゃんはどうなった!?」
「今の……死んだな」
周りの冒険者たちのそんな声が聞こえると、自信満々なエルジャンの声も聞こえる。
「どうだ! 僕の最大にして最強の魔法は! これを受けて立っていられた者はいない! という訳で、僕の勝」
「何を言っている。よく見て」
「えっ?」
エルジャンにクロネが冷たく言い放つ。エルジャンは戸惑ったようにこちらを見てくると、私は上がっていた砂埃を風で吹き飛ばした。そして、私の無傷の姿がみんなの前で晒された。
「……え、無傷?」
「いやいやいや! 嘘だろ!? 今の直撃だぞ!?」
「俺だったら十回は死んでたぞ!」
今のは強い魔法だったけど、私の魔力を高めた防御魔法でなんとか防ぐことが出来たよ。どうなるかと思ったけど、これで証明になったかな?
そう思ってエルジャンを見て見ると、放心状態で膝から崩れ落ちていた。
「そ、そんな……僕の……最大にして最強の魔法が……無傷だなんて……」
どうやら、今の魔法が一番強い魔法らしい。それを無傷で生還出来たから、私の強さの証明になったかな? うーん、でも周りの盛り上がりが足りないから、まだ証明されていない?
「じゃあ、今度は私の全力の魔力を解き放つね! 最初の魔法よりももっと強いものを!」
「もう、やめてくれー! 僕の負けでいいー!」
エルジャンの悲痛な叫びがこだました。ということは、私の勝ち?
「やったな、ユナ! ユナの勝ちだ!」
離れたところで喜ぶクロネの声が聞こえる。すると、その声に我に返った冒険者たちが大声で騒ぎ出す。その言葉はどれも私を称えるもので、もう私が力のない子供だって思っている人はいない。
よ、良かったぁ。これで、私も冒険者になれる!
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