25.冒険者になるための試練(2)
私とエルジャンが戦って、私の強さを証明する。この事は冒険者ギルドによって承認され、場が設けられることになった。
どうやら、冒険者ギルドもこんな子供の私がヴォルグレイを倒したか懐疑的だったみたい。だから、実力を計れるこの話に乗った。
私たちは冒険者ギルドの裏手にある広場に移動をした。そんな私たちの一戦を見ようと、冒険者たちが周りに集まっている。まるで、お祭り騒ぎだ。
周りが浮かれている中、私は心を強く持った。これから冒険者として生きていくためには、自分の実力を証明しないといけない。ここが頑張り時だ。
広場でみんなが見守る中、私とエルジャンは対峙する。
「僕は魔法使い、君も魔法使いだね」
「魔法使いとはちょっと違うけれど、同じだと思う」
「ふーん、変わった子だね。だけど、僕は手加減なんてしないよ。だって、ヴォルグレイを倒したかもしれない子だからね。まだ、僕はヴォルグレイを倒したことがないっていうのに」
エルジャンの目が鋭く細まる。その奥にある感情は、ただの嫉妬だけじゃない。プライドの高い彼にとって、「子どもに負けるかもしれない」という現実が受け入れがたいのだ。
だが、私はひるまなかった。怖くなんて、ない。むしろ、燃えるような決意が胸を満たしていた。
「そっちこそ、手加減しないでね。これで私が勝ったら、ちゃんと認めてもらうから」
「……言うねぇ。これでも僕はこの冒険者ギルドで一番強いという自負がある。そう簡単に勝てたら困るんだけどね」
クロネの気持ちに応えるためにも、負けてなんていられない。チラッとクロネを見ると、目は真剣に私を見ている。あの目は私を信じている目。それを見るだけでも勇気が湧いてくる。
「じゃあ、始めようか」
「よろしくお願いします!」
エルジャンが杖を構えると、私は身構える。相手がどれだけ強いか分からない。相手の力を計るなんてことはせず、最初から全力を叩きこむ!
まだ私は魔法の精度が良くない。質では勝てなさそうだから、私は量で勝負。全力の魔法をぶちこんで、量で圧倒するんだ。よし、やることは決まった!
すると、合図の鐘の音が鳴り響く。その瞬間、私は魔力をたぎらせる。
「まずは《完全防御》!」
すぐさま、魔力を展開させ自分の身にまとわせる。これで、相手の魔法は貫通してこないはずだ。でも、威力が強ければ……ううん、今はそんなことを気にしてられない。
エルジャンの詠唱が完成される前に、私の魔法を叩きこむ!
魔力を空中に散布させ、それらを火の矢に作り変える。私の周りには十本の火の矢が宙に浮いた。その火の矢に風魔法を付与し、それを全力で解き放つ!
十本の火の矢は閃光のように飛んでいく。そして、火の矢はエルジャンに着弾し――多数の爆発を生み出した。エルジャンが爆発に巻き込まれ、黒煙が舞った。
「まだ、まだ!」
相手がこれで倒れるなんて思えない。私はすぐに次の魔力を展開させる。次はほとばしる雷をイメージする。
私の手のひらからほとばしる魔力が、空気を裂くようにして形を成す。雷は始めて使うけれど、考えがあっていたら威力は凄まじい。今は細かい操作なんて気にしてられない。とにかく、叩き込むだけ!
「いっけぇっ!」
雷の魔力が槍となって凝縮され、私の前に現れる。眩く光るその一撃を、ためらいなく投擲した。雷の槍はまるで音速を超えるかのように空気を裂き、黒煙の中へと突き進んでいく!
ドゴォォォンッ!
えっ……雷の槍が、すり抜けた!? 手ごたえがなかった……エルジャンはどこ!?
私は慌てて、魔力を風に変換して黒煙を吹き飛ばした。すると、視界にエルジャンの姿はなかった。まさか、さっきの即行の魔法を見切られていたっていうの!?
周囲に視線を向けるが、どこにもエルジャンの姿はない。まさか、透明化の魔法を使っているとか!? もし、そうだったらどこから魔法が飛んでくるか分からない。
「どこ、どこにいるのっ!?」
身構えて注意深く辺りを見渡した――その時、クロネの声が聞こえた。
「エルジャンは移動してない。そこに倒れている」
「えっ?」
その言葉に驚いてクロネを見ると、クロネはある場所を指差していた。その方向――地面に目を向けてみると、エルジャンが地面にめり込んで倒れていた。
「最初の一撃でそうなった」
「えっ!? 最初の一撃は防いだんじゃ?」
「詠唱中だった」
そうか! 魔法の発動には詠唱が必要だ。だから、詠唱が終わるまで魔法が発動しないんだった。ということは、エルジャンはまともに私の全力を受け止めたってこと?
私はぽかんと口を開けたまま、エルジャンが倒れている地面を見つめた。完全に気を失っているようで、彼の杖も手から離れ、傍らに転がっている。
勝った? 本当に……私、勝ったの?
その瞬間、静まり返っていた広場がざわめき始めた。周囲の冒険者たちが、今の状況を理解し始めたのだ。
「……う、うそだろ。あのエルジャンが……?」
「まだ詠唱すら終わってなかったぞ!? それだけの速度と威力で……?」
「ていうか、あの子、魔力の暴力じゃないか? 制御もできてねえのに、ぶっ放してんぞ……!」
「やべぇな……あれ、正面から受けたら俺らでもただじゃ済まねぇぞ」
「エルジャンって、確かこの支部じゃトップの実力者だったはずよ……それが、こんな……」
「本当にヴォルグレイを倒したって……マジだったのかよ……」
冒険者たちの視線が一斉に私に集まり、そのどれもが疑念ではなく、尊敬と畏れに変わっていた。さっきまでお祭り騒ぎのように浮かれていた空気が一気に変わった――その時。
「ま、待て……」
エルジャンが瀕死の状態で口を開いた。
「い、今のは……詠唱を先に、唱えていた、だろ。正々、堂々……じゃない。もう、一戦だ……」
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