24.冒険者になるための試練(1)
ヴォルグレイをみんなの前に出すと、冒険者ギルド内は大変な騒ぎになった。こんなはずじゃなかったのに……。
この場をどうやって収拾をつけるか悩んでいると――。
「その話、ちょっと待った!」
誰かの声が響いた。私を含めたみんながその声がした方向を見て見ると――一人の男性が立っていた。耳は長く、金髪の長い髪を流している。
「おいおい、アイツはこの冒険者ギルドで一番強いと言われているエルジャンじゃないか?」
「魔法使いのエルフだったよな? あいつの魔法、見たことがあるけれど……どれも威力の強いものだった」
「一体、何を言うつもりなんだ……」
その人を見て、周りがひそひそと話し始めた。この冒険者ギルドで一番強い人? そ、そんな人がどうしてこの話に?
「それは間違いなくヴォルグレイだろう。ここにその死体があるということは、誰かが倒した事になる」
「この嬢ちゃんが……」
「私は正直言って疑っている。本当にヴォルグレイと対して戦ったのかを」
どうやら、このエルジャンと言う人は私がヴォルグレイを倒したことを信じてないらしい。堂々とそういうと、他の冒険者たちも同調を見せた。
「確かに、倒した所は見ていないもんな」
「もしかして、寝込みを襲ったかもしれない」
「不意打ちだったかもしれないぞ」
先ほどまで驚いていた周りの冒険者が冷静になり、私を疑い始めた。本当に私が倒したのに、誰も信じてくれない。とても残念で萎縮していると、クロネが前に出る。
「これはユナが戦って倒した。あたしはこの目で見た」
「だが、見ていた者は親しい君しかいない。言葉は好きなように変えられるだろう?」
「嘘をついていると言っているのか?」
「その可能性はないとは言い切れないだろう?」
クロネがエルジャンを睨みつけるが、エルジャンは涼しい顔をしている。
「嘘なんてつかない! ユナは魔法でヴォルグレイを倒した!」
「ほう……魔法でね。だけど、ここにいる者たちはそれを見ていないから、その力を信じられない」
「ここにあるヴォルグレイがその証拠だ! どうして、分からない!」
「いやいや、普通は信じられない。だって、そんな小さな子供がねぇ……」
「お前っ……うるさいっ!」
嘲笑うエルジャンにとうとう耐えかねたクロネが双剣を抜いた。その瞬間、冒険者ギルドは騒然となった。これは、まずい!
「クロネ、そんな事をしなくてもいいよ!」
「ユナは悔しくないのか!? 誰も信じてくれないんだぞ! 本当にユナが倒したのに!」
「それは……」
クロネが私の気持ちを思って言ってくれているのが痛いほど分かる。だけど、誰も信じてくれないのが現実なんだ。子供だからと言って、無条件に優しくしてくれる人なんていない。それが冒険者なんだ。
「へぇ、君たちはそんなに証明したいの?」
「そうだ。ユナは強い。それを証明すれば、冒険者ランクも高い所から始められる」
「まぁ、ヴォルグレイを持ってきた冒険者の希望者が低ランクから始めるのはおかしな話だからね。じゃあ、こんな話はどう?」
エルジャンは杖を構えて、こういった。
「僕と一戦してその力を証明するっていうのは?」
その言葉に冒険者ギルド内がざわついた。
「この冒険者ギルドで一番の実力者を相手に? そんな無茶な!」
「おいおい、あの嬢ちゃん……死ぬぞ」
「まさか、そんな……手加減はするだろ?」
えっ……この冒険者ギルドで一番強いエルジャンさんと私が一戦? そ、そんなの無理だよ!
「ど、どうしよう……クロネ!」
「……ユナ」
「う、うん……」
「戦って証明するんだ」
えぇっ!? クロネは止めてくれないの!?
「不安だろうけれど……冒険者は舐められたら終わりだ。だから、ここは頑張って証明するんだ」
肩を掴まれ、真剣な眼差しで言われた。その目には色んな感情が見えてきた。周りに対しての怒り、私を心配している感情、私を信頼している目。その奥には、クロネの過去の経験が見え隠れしていた。
クロネも子供で冒険者をやっている。冒険者になりたての頃は苦労してきたのだろう、その言葉には私が知らないクロネの過去の気持ちが籠められているような気がした。
クロネは本当に私の事を思って、そう言ってくれている。これから冒険者をやっていくためには、ここで折れていたらダメだ。
「クロネ……私、やるよ」
「それがいい。きっと、ユナなら証明出来る」
決意の目を向けると、クロネが強く頷いて私の手を強く握ってくれる。そのぬくもりが私に勇気をくれる。私も手を握り返して、深呼吸をして心を落ち着かせる。
そして、手を離してエルジャンに向き直った。
「私……あなたと戦います」
絶対に負けないんだから!
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