18.譲れない思い
異空間に出来た、私たちだけの部屋。それはとても快適で、快適すぎるからもっと欲が出てきてしまう。
この際だから、この部屋をもっと整えよう。そう思った私は、早速レイアウトに力を入れた。
まずは、食事を取るスペース。外で食べるのも美味しいけど、やっぱり落ち着いたところで食べたい。というわけで、テーブルとイスを新たに作る。
今度はすぐに消さなくてもいい物だから、ちゃんとした形にした。ダークブラウン調の落ち着いた色合いにして、イスは背もたれと座るところにクッション性を持たせる。これで、座っている時は痛くないはずだ。
次に欲しくなるのは、やっぱり浴室だ。浴室と脱衣所分のスペースを広げると、必要な物を揃えていく。
脱衣所には吸水マット、服を入れる籠、タオルを入れる籠を設置。浴室には大きなバスタブ、シャワー、風呂イス、アメニティ、その他もろもろの道具。
これだけ揃えば、快適な旅生活を送れそう。どんどん整っていく環境を見ていたクロネはとても驚いていた。だけど、風呂が出来たことで凄く嫌な顔をされた。
「風呂……毎日入らないからな」
「えー、それじゃあ汚いよ」
「ユナの魔法で綺麗にすれば問題ないだろう」
「じゃあ……二日に一回?」
「……ひと月に一回」
「あー! 全然入らない気だー!」
「それぐらいでも平気」
お風呂に関してはお互いに譲れない思いがあったので、白熱した言い争いになった。どうにかして。もふもふを綺麗にしたい私の気持ちと。どうにかして、濡れるのを避けたいクロネの気持ち。二つの気持ちが反発しあった。
話は平行線を辿り、決着がつかない。すると、クロネがこんなことを聞いてきた。
「どうして、そんなにお風呂に拘る?」
「もふもふをこの手で綺麗にしたいから!」
「もふもふ……だったらこの案はどうだ? この部屋にいたら、もふもふに触りたい放題」
「さ、触りたい放題!?」
「髪でも耳でも……しっぽでも、いい」
「えぇ!? 至れり尽くせりー!」
この部屋にいたら触りたい放題だなんて、ご褒美過ぎる! でも、綺麗にするのも楽しい! あぁ、私はどちらをとればいいんだー!
「くっ……なら、週に二回、お風呂にっ」
「三週間で一回はどうだ?」
「じゃ、じゃあ! 十日に一回は!?」
「十日に一回……ひと月に三回か……。よし、じゃあ、十日に一回で決まり!」
こ、これって勝ったの!? それとも負けたの!? どっちか分からないけれど、もふもふする権利を手に入れたー!
「じゃあ、今日はお風呂に入る?」
「昨日入った。だから、あと九日は入らなくてもいい」
「くっ……! しばらく、もふもふは洗えないって事ね。でも、綺麗にする魔法はかけるからね」
「それなら大丈夫」
だったら、お風呂から上がったら思う存分もふもふしてやるんだからー!
◇
翌朝、秘密の部屋で一晩を明かした私たちは外界へと出てきた。
「んー、気持ちのいい朝。部屋の中だと、清々しい空気が吸えないのは残念だね」
「窓があればいいな。でも、それだと安全性が失われる」
「なら、この気持ちよさは外に出た時に取っておこう」
秘密の部屋の入口を閉じると、私は原付バイクに跨った。
「クロネ、乗って」
「それに乗ると、体が鈍る。だから、しばらくは走って行く」
「そう? 分かった、じゃあクロネの速度に合わせて進むね」
「あぁ。じゃあ、行くぞ」
そう言って、クロネは走り出した。結構速く走り出すから、私は慌てて車体を宙に浮かせてクロネの後を追って行く。
◇
順調に道を進んでいた時、突然クロネが立ち止まった。
「クロネ、どうしたの?」
「道の先……誰かが襲われている」
「えっ!? そうなの!? だ、大丈夫なの!?」
「……いや、劣勢みたいだ。助太刀してもいいか?」
「もちろん、いいよ!」
こんな時にクロネはすぐ助けたいといった。そういえば、村の時でもすぐに助けようとしていた。もしかして、クロネって正義感のあるタイプなのかな?
ちょっと冷たいように見えるけど、内側は熱い気持ちがあるってことだよね。へー、そういうのカッコよくていいね。少しクロネの事が知れてよかったな。
クロネが全速力で駆け抜けると、私はその後を追って行く。今までとは比べようもないほどに足が速い。クロネってこんなに走れたんだ……。
このバイクを作っておいて良かった。そうじゃなかったら、今頃私は足手まといになっていたよ。
クロネに置いて行かれないように原付バイクを走らせていくと、道の奥の方に何かが見えてきた。近づいていくと、その姿が鮮明に見えて来る。
「馬車がオークの集団に襲われている。オークの数は……二十くらいか」
えっ、こんな遠くからそんな事まで分かるの? クロネの視力が良いことに驚いていると、クロネの速度が一段速くなった。えっ、もっと速くなるの!?
私は慌てて速度を上げて、クロネに付いていった。
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