17.野宿的チート活用術
「完全に暗くなる前に泊るところを探そう」
「だったら、あの一本の木の下はどう?」
「いいな。そこにしよう」
道を夕日が照らし出し、夜が近づいてきていることを教えてくれる。クロネの助言を参考に私は近くに見えた一本の木に向かっていった。
小高い丘になっていて、丁度辺りを見渡せる絶好の場所だ。
「身を隠すのが一本の木だけなのは心もとないが、何もないよりはいいな」
「じゃあ、ここで一晩を過ごすんだね」
「あぁ。本当なら野宿の食事のために狩りをするんだが、ユナがいるとその必要性がなくていいな」
「ふふん。私の魔力は料理にもなるからね」
「本当に規格外だ」
木の影に魔力で作ったイスとテーブルを設置する。そして、そのテーブルの上に料理を作る。今日はちょっとジャンキーな気分だから、ハンバーガーセット!
魔力を変異させると、魔力は前世でよく見たファストフードが現れた。
「くん……。パンに肉にポテト。それに……この飲み物は炭酸か」
「クロネは炭酸が分かるの?」
「父上と母上が炭酸入りのお酒を飲んでいたことがあったからな、知っている」
なるほど。この異世界には炭酸も出回っているみたいだ。だったら、説明は不要だよね。
「じゃあ、食べようか。いただきます」
「いただきます」
イスに座り、食事を始めた。ハンバーガーを包んでいた紙を剥がすと、分厚いハンバーガーが見えた。このハンバーガーはちゃんとした料理屋さんで作られた物を創造したから、高級ハンバーガーだ。
それを口いっぱいに頬張ると、パティから肉汁が溢れて旨味を強く感じた。シャキシャキのレタス、瑞々しいトマト、カリッと上がったオニオンリング、そして酸味の効いたソース。全てが合わさって極上の旨味に昇華した。
「んー、美味しい!」
「……これは美味い! パンに色々挟んだものを食べた事はあるが、これは格別だな」
「でしょー? 私の想像のお陰だね」
「ユナは想像力が豊かだな」
「でもねー。私の想像力にも限界があるんだよね」
そう、自分が経験したものは簡単に出せるけど、自分が経験してない事は出すのが難しい。このハンバーガーセットだって、前世で食べた物を思い出して出しただけだ。
もう少し、想像豊かだともっと美味しい料理が出せるのにな。
「だったら、町で色んなものを食べるといい。その地方ならではの料理もあるから、色々と食べ歩くのは楽しい」
「それ、いいね! クロネと一緒に食べ歩きしたい!」
「なら、決まりだな。といっても、あたしは町に詳しくないから、オススメは出来ない」
「別にいいよ。二人で探して歩くっていうのも楽しそうじゃない」
異世界で食べ歩きかー……一体どんな食べ物に出会えるのか楽しみ。
◇
「食事も終わったし、寝る準備をしよう」
そう言って、クロネはマジックバッグの中からテントを取り出した。私も野宿用の物を出そうとした時、マジックバッグを見てハッとした。
「ねぇ、クロネ。マジックバッグって魔法の力で沢山の物が入るようになったんだよね」
「そうだぞ。重量だって変えられる」
「ということは。魔力をどんなものにも変異させられる私の力があれば、マジックバッグみたいに別次元も作れるわけだ」
「……どういうこと?」
私の話を聞いたクロネは不思議そうな顔をした。
「まぁ、見てて」
私は目の前に魔力の塊を浮かべた。そして、その魔力に異次元の空間になるように意識を籠める。すると、魔力はうにょうにょと動き出し、形を変えていく。
魔力は内側から外側に向けて広がっていった。内側から見ていると、中に空間が出来ているように見える。だけど、魔力の外側から見ていると、そこには何もない。
そのまま、どんどん内側の空間を広げていく。しばらくすると、魔力で広げた空間は広い白い部屋になっていた。
「どれどれ……うん、いい部屋」
中に入って確認すると、部屋の大きさはまずまずと言ったところ。じゃあ、次はこの部屋のレイアウトを決めて行こう。
壁紙は薄いグレーにして、小さな花模様が描かれている感じにする。部屋の隅にベッドを二つ並べておけば……これで寝床が完成だ。
あとは床にフワフワの絨毯を作って、その上に人をダメにするクッションを作る。小さなテーブルも作れば……野宿用の秘密の部屋が完成だ。
「見て見て、クロネ! こんな部屋が出来たよ!」
空間から出てクロネを呼ぶと、クロネは不思議そうな顔をして部屋を見ていた。
「な、なんだこの空間は……。外から見ると何もないのに、内側から見ると、部屋に見える」
「いいでしょー。マジックバッグみたいに別空間を作ってみたよ」
「作ってみたって……ユナの魔力がこんな事も出来るのか」
「ねぇ、一緒に中に入ろ?」
「……う、うん」
私たちは空間の前で靴を脱ぎ、中へと入る。敷かれていた絨毯の上を歩くとフワフワして気持ちがいい。
「このクッションも気持ちいいよ。こうやって、自分で好きなように形を変えて……えいっ」
人をダメにするクッションに腰を下ろすと、クッションがいい感じに体にフィットした。そうそう、こんな感じ。とっても気持ちがいい。
「……こうか?」
クロネがおっかなびっくりにクッションの形を変え、腰を下ろす。
「お、お、おぉ?」
「どう、いい感じでしょ?」
「……不思議だ。でも……悪くない」
どうやら気に入ってくれたみたいだ。
この部屋なら魔物に怯える事はないし、外よりも清潔だし、何よりもベッドで寝れる。ふふっ、私って天才!
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