16.町に向けて出発!
澄んだ朝の空気が、肌にひんやりと心地よい。それを胸いっぱいに吸うと、ワクワクした気持ちが膨らんできた。
振り向くと、そこには男爵や村人たちがいて、私たちを見送ってくれる。
「隣町まで三日はかかる。それまでの道中、気を付けていきなさい」
「うん、分かった。良くしてくれてありがとう」
「いいんだ。村を救ってくれた英雄だからね。本当はもっと歓迎をしたかったが、行くのであれば引き留めない」
男爵様の気遣いがとても嬉しい。お陰で何も憂いなく旅立てるのだから。
「じゃあ、行ってきます」
「……じゃあ」
私たちがそういうと、男爵と村人たちは声を上げて見送ってくれた。歩き出した私たちの背には沢山の声援が木霊する。その声が私たちの背を押して、先へと足を進ませた。
「とりあえず、目標は隣町だね」
「あぁ。そこでユナの冒険者登録をする。それから、修行を重ねる」
「ここで生きていけるくらいには強くなりたいよね」
「……ふぅ。ユナは志が低すぎる」
こう見えてもまだ十歳だから、そう簡単には強くならないよね? あとはどれだけ私の魔力の可能性を広げられるかだ。何かいい使い方が思い浮かべばいいんだけど……。
「天下無双に強くなる、これだ」
「えぇ、そこまで強くなるのは無理だよ」
「あたしたちはまだ若い。だから、いける」
今の私たちは若すぎるよ! そんな風に突っ込みたいけど、目をキラキラさせているクロネには言い出せなかった。
天下無双か……なれるかなぁ? まぁ、出来るだけ頑張ってみようかな。なんてったって、私たちは若い!
◇
「疲れたー! 歩けなーい!」
私の意気込みもすぐに費えてしまった。地面にへたり込み、弱音を吐いている。
「ユナは歩くのが苦手か?」
「今まではお貴族様だったからね、体を動かすことに慣れていないの」
「そうか……。なら、おぶろうか?」
「えっ、悪いよ!」
「いい。修行になる」
クロネはいいって言っているけれど、私が気にするんだよね。私の魔力でどうにか解決出来ないかなぁ。乗り物があれば便利なんだけど……そうだ!
折角、自由に物を作れるようになったんだから、空想上の乗り物も作れるんじゃない?
「クロネ、そんな事をしなくても平気! 見てて!」
「?」
立ち上がり、手を構える。しっかりとイメージして。原付バイクのような形が宙を浮いて自由自在に飛び回る。動力は私の魔力、浮力は私の魔力。それで補えるような乗り物。
「来た! こうだ!」
イメージがしっかり固まった。私は魔力を変異させて、物を作る。すると、手から出てきた魔力が物質に変化していく。ハンドルがあり、大きなサドルがあり、車輪がない。
そこに出来たのは、二人乗りが出来る車輪のない原付バイクだった。
「わっ、凄い! 想像通り!」
「……ユナの魔力は規格外」
「規格外でも便利でしょ?」
クロネが若干引いているが、そんなの気にしない! 早速私は原付バイクに跨り、機体に魔力を通した。すると、機体はふわっと浮かび上がる。
次は移動だ。魔力を推進力にすると、原付バイクは前に進んでいった。
「クロネ、見て! 動いたよ!」
「宙に浮いている……」
クロネは信じられないものをみたような顔をしている。ふふっ、私の魔力は万能だからこんなことも出来ちゃうのだ!
「これで移動が楽ちんに出来るよ。さぁ、クロネも乗って!」
「えっ!? そ、それに乗るのか?」
「うん!」
後ろのシートを叩いて座るように促すが、クロネは警戒して中々乗ってくれない。
「いい。あたしは歩いていく」
「えー! 結構早く飛んじゃうよ?」
「……だったら走る。行くぞ」
すると、クロネは道を走って行ってしまった。この乗り物、そんなに怖いかなぁ? まぁ、少しずつ慣れていけばいいよね。
私は原付バイクに魔力を流すと、クロネを追って行った。
◇
初めの内は順調だった。クロネの走る速度に合わせて原付バイクの速さを調節する。クロネにはかなりの体力があるみたいで数時間はそのまま走っていけた。
だけど、ある地点から急激に速度が落ちていった。それもそうだ。数時間も走っていたのだから、体は疲れてきたのだろう。
「ねぇ、クロネ。諦めて、原付バイクに乗ろ?」
「はぁ、はぁっ。だ、大丈夫……まだいけるっ」
「まだいけるって……大分へばっているよ?」
「これは、普通の……呼吸」
普通には見えないけどなぁ。うーん、意地を張られちゃうとこっちも強引な手段をするしかなくなるよ?
クロネの体を私の魔力で覆うと、その体を宙に浮かせた。
「な、何を!?」
ジタバタともがく、クロネを私の後ろに座らせた。
「ぬっ……」
「ほら、全然大丈夫でしょ?」
「うーん……」
「まだ怖い?」
「……そんなに怖くない」
良かったー、怖くないって! これなら、クロネを乗せて素早く移動できるね。
速度を上げて原付バイクを進ませると、クロネの腕が私の腰にまきついてきた。
「あ、速くて怖かった?」
「い、いいや! 怖くない!」
「少し速度を緩めようか?」
「……まぁ、ユナがそういうのなら仕方がない」
ふふっ、やせ我慢しちゃって。私はクロネが怖くない速度まで緩めると、私の腰にまきついていたクロネの腕が解かれた。しばらくすると、クロネの鼻歌なんかも聞こえてきた。
「これくらいが丁度いい?」
「……まぁ、いいんじゃないか」
ということは、合格らしい。クロネが見えずとも、言葉だけで感情が分かってきた。これはただの同行者から、友達になった証じゃない?
友達……いい響き。クロネと早く友達って言える間柄になりたいな。
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