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【書籍化決定】転生したら魔法が使えない無能と捨てられたけど、魔力が規格外に万能でした  作者: 鳥助
第一章 捨てられたけど、万能な魔力があるお陰でなんとかなりそう!
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15.夜のひと時

「……」

「もう、そんな目で見ないでよー。ほら、乾かすよ」


 作っておいたパジャマに着替えて、部屋に戻ってきた。ベッドに腰かけるクロネはジト目で私を見てきて、大変居心地が悪い。


「早く乾かして。調子が出ない」


 プイッとそっぽを向かれてしまう。強引に濡らして洗った事、恨まれているなー。でも、あーしないと綺麗にならなかったし、何よりももふもふに触れられなかった。


 私は大変満足したけれど、クロネに距離を置かれたこの状況は寂しい。これは、即刻乾かしてあげないとね。


 魔力を風のように流して、水分が蒸発するように調節して。まずは自分を練習台にする。


 温かく乾いた風が私の髪に吹き付け、一瞬で水分が飛んだ。風が止んだ後、髪の毛を触ってみるとサラサラになっていた。これなら、クロネもすぐに乾かせそう!


「じゃあ、行くよ」


 合図をすると、クロネが小さく頷いてくれる。それから、クロネの頭としっぽを包み込むような温かな風が吹き付けた。すると、濡れた髪や毛が一瞬で乾いて、サラサラな髪とフワフワな毛並みになった。


「んん?」


 すぐにクロネが自分の髪と毛を触って確認する。


「……許す」


 乾いた途端、耳がピコピコ動き出し、しっぽがゆらゆらと揺れ出した。本当に濡れた髪と毛が嫌だったんだね。


 それにしても、洗うと分かるけど……髪の毛は艶やかで指通りが良さそうだし、耳としっぽの毛がフワフワだ。物凄く、触りたい。


 ダメダメ! 嫌な思いをさせた後にわしゃわしゃしたら迷惑だよ! ……でも、ちょっとだけなら。いや、これ以上嫌がられるのは寂しい。……ちょっとだけなら……。


「えい!」

「にゃっ!」


 後ろからクロネの頭を抱き込む。艶やかな髪の毛に頬ずりしたあと、耳の毛にも頬ずりする。こ、これは!


「ふわぁっ、気持ちいい!」

「な、何をして……」

「クロネの髪の毛と毛がツヤツヤでフワフワだー」


 凄く気持ちがいいし、いい匂いもする。クロネの髪に顔を埋めると、手でわしゃわしゃと髪や毛を触り続けた。


 クロネは大人しくされるがままで、苦情も言って来ない。それを良いことに、私は手の動きを止めなかった。なんか、触っていると気持ちが落ち着いてくるというか……。なんだろう、この満たされる気持ちは?


「ふー……もう満足したんじゃないか? そういう匂いがする」

「匂い? ……私、臭かった?」

「そうじゃない。ユナから寂しいっていう匂いが漂っていた」


 私から寂しいっていう匂い?


「ずっとそんな匂いがしてた。ユナは寂しいんだろう?」


 私が寂しい? そんな感情はなかったはずだけど、不思議とその言葉が私の胸に自然と滲んだ。まるで、寂しかったと言われて初めて自覚したみたいだ。


 見知らぬ土地に捨てられて、一人で生きて行こうと思っていた。なんとか生きていく力は手に入れたけれど、いきなり一人になった衝撃は私の知らないところで心を蝕んでいたらしい。


 だけど、突然クロネという同行者が出来た。それは、私にとってとても大きな心の支えになっていたらしい。だから、自然と甘えてしまったのだろう。


「……うん。私、寂しかったみたい」

「気づいてなかった?」

「えへへ、そうみたい」

「自分のことなんだから、しっかりしろ」


 クロネが呆れながら笑っていた。転生者の私の方が大人だと思っていたけれど、これじゃあクロネの方が年上に見える。その頼もしさに、寄りかかりたい気持ちが膨らんだ。


「クロネは私が寂しいって気づいたから、好きにさせてくれたの?」

「まぁ……そうだな」

「そうなんだ! クロネって優しい所があるんだね。お陰で元気になったよ」

「……別に」


 プイっとクロネが顔を背ける。だけど、今は顔を隠すマントがないから照れた顔が良く見える。それは、年相応のとても可愛らしい顔をしていた。


「へー。照れた時はそんな顔をしているんだー」

「……見るなよ」

「ふふっ、隠さなくてもいいのに。全然気にしないよ」

「あたしが気にするんだ」


 クロネは私に背を向けて完全に顔を隠してしまった。そんな様子が可愛らしいけれど、そんな事をされちゃうと寂しくなる。


「……また少し、寂しい気持ちになった?」

「クロネがそっちを向いたからね。じゃあ、寂しいまま寝ちゃおうかな」

「……待て」


 ちょっと意地悪をしてみると、クロネが振り向いた。視線を逸らしながら、少し言いづらそうに口を開く。


「……寂しくないように、一緒に寝てやる」

「えっ?」

「ほら」

「わっ!」


 腕をグイっと引っ張られると、ベッドの上に寝転がった。すると、隣にクロネが横たわり、布団をかけてくれる。


「ほら、これでいい」

「……どうして、そこまでしてくれるの?」


 クロネがこんなに積極的だなんて思わなかった。訊ねてみると、また言いづらそうに口を開く。


「……その気持ち、分かるから」

「あっ……」


 クロネの事情は分からないけれど、一人で旅をしていた。だから、一人の孤独をよく知っているのだろう。


 自分が寂しい思いをしたから、私が寂しい思いをしていたのが見過ごせなかったってこと? そこまで考えると、私の胸の奥が温かくなった。


「えへへ、クロネは優しいね」

「……別に」


 私の心はクロネがくれた優しさでいっぱいになった。今日はいい夢が見れそうだ。

お読みいただきありがとうございます!

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