14.お風呂タイム
「あー、お腹いっぱい。もう食べられないね」
「そうだな」
案内された部屋のベッドに横たわり、お腹を擦りながら満足げに呟いた。男爵に食事に招待されたけど、その食事がとても豪勢だったのだ。
つい、はしゃぎながら食べてしまったけど、行儀が悪かったかな? あっ、でも……クロネは豪勢な食事を前にしても平静だったなぁ。
なんか、慣れているようなそんな感じがした。カトラリーを使う手も、姿勢も綺麗だったよなぁ。本当にクロネって何者?
「黙ってどうした?」
「えっ? クロネが食べる姿勢が綺麗だったなぁって思って、感心してたんだよ」
「そうか? あれくらい普通。ユナは落ち着きがなかったな」
「うぅ、お行儀悪かったよね?」
「男爵も笑っていたし、大丈夫だろう。……ん?」
クロネの耳がピクリと動き、扉に視線を向けた。すると、扉がノックされる。私たちは入室を許可すると、メイドが入ってきた。
「お客様、お風呂の準備が出来ました」
そういえば、お風呂を用意してもらっていたんだっけ。えへへ、楽しみ!
「クロネ、行こ!」
ベッドから飛び降りて、クロネの服を引っ張る。だけど、クロネはびくともしない。
一体どうしたんだろう? 顔を覗き込むと、その顔が嫌そうに歪んでいた。あっ、もしかして……お風呂嫌い?
◇
「ほら、クロネ! 一緒に入ろう!」
「……やだ」
「服を脱いでー!」
「……脱がない」
嫌がるクロネを引っ張ってきて、なんとか脱衣所に来たけれど……クロネは頑なにお風呂を拒否した。
服を脱がされないようにしっかりと掴み、体を丸めている。耳もペタリと倒れていて、しっぽにも元気がない。本当にお風呂が嫌みたいだ。
「クロネの髪がごわごわしているよ? 洗ってサラサラになろうよ」
「……これで問題ない」
うー、問題なくないんだけど。どうにか、クロネの服を剥ぎ取ることが出来ないかな? こう……服をパッと脱がせられるような魔法……。転移の魔法とか?
物は試しだ。クロネを私の魔力で包み込むと、クロネは何かを察して驚いた表情をこちらに向ける。
「何をする!」
その言葉を無視して、私は服を転移させるイメージを固め……魔法を発動させる。すると、クロネの服がパッと床に落ち、そこには裸のクロネが立っていた。
「な……にっ!?」
「これでお風呂に入れるね。さぁ、入ろう!」
「何をどうした!? おい、ユナ!」
驚くクロネの背を押して、ようやく浴室へと入る。中は広い洗い場と大きなバスタブがあり、壁にはシャワーヘッドが掛けられてあった。
「じゃあ、まず頭と体を洗おう」
そう言って、シャワーにお湯を出す。うん、丁度いい湯加減だ。振り向くと、クロネが部屋の隅に怯えた顔をして逃げていた。
「……濡れるの、やだ」
「濡れないと綺麗に出来ないよ?」
「だったら、このままでいい」
そういう訳にもいかない。クロネの髪はかなりごわごわしていて、このままではまずい。耳もしっぽも汚れがついているから、綺麗にする必要がある。
これは強引に洗わないといけないみたいだ。クロネは逃げるだろうから、拘束するような魔法が作れればいいんだけど……。よし、やってみよう。
再度、クロネを魔力で覆うと、全身を拘束するように圧力を掛けた。
「な……にっ! 体が……動かない!」
「まずは頭から洗うね」
「や、やめろ!」
動けないクロネをシャワーに近づかせ、シャワーのお湯をかけた。
「にゃーーーっ!!」
途端に叫び出すクロネ。だけど、私は気にせずに魔力をシャンプーに変異させると、クロネの髪の毛に付けて洗い出す。すると、クロネの体が脱力した。
クロネが大人しくなった! これなら、拘束をしなくても平気そう。
拘束していた魔力を解放すると、クロネの全身をくまなく洗ってあげた。
◇
「お湯も気持ちいいね!」
「……」
全身を洗い終わった私たちは大きなバスタブに入ってお湯を堪能した。クロネは放心状態になって、全く動かない。そんなに濡れるのが嫌だったのかな?
「もう、クロネ。しっかりして、お湯を堪能しようよ」
「……」
凄くクロネのテンションが低い。目が死んでいる。むぅ、これじゃちっとも楽しくない。洗っている時は楽しかったけど……もふもふを綺麗にするのはとてもやりがいがあった。
虚ろなクロネだったけど、ハッ! と我に返ると、真剣な目でこちらを見てきた。えっ……何?
「もしかして、ユナの魔力を使えば、濡れずに綺麗になるんじゃないか?」
「あー、なるほど。ちょっと、やってみるね」
バスタブから出ると、魔力を土に変える。その土で片腕を土まみれにして汚した。その後、魔力でその腕を包み込む。そして、意識をする。汚れよ、取れよ!
すると、腕は土が綺麗になくなり、洗いたての肌のように綺麗になった。おお! 私の魔力ってこんなことも出来るんだ!
「やった、成功したよ!」
「そうか! なら、今度からはその魔力で私を綺麗にしてくれ! そうすると、濡れなくても済むだろう!?」
凄く嬉しそうにしているクロネがいた。ふーん、そんな魂胆だったんだね。
「これは緊急事態の時に使おう。お風呂がある時は、お風呂に入るよ」
「な、なんでだ!?」
「クロネを洗うのが楽しかったから、また洗いたいな」
「あたしは全然楽しくない!」
もふもふはこの手で綺麗にしないとね!
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