135.決闘の詳細
私たちは応接室に連れていかれた。ソファーに座り、一息着くと司祭は口を開く。
「決闘の事を知っているという事は、負けたらどうなるのかも知っているんですね」
「はい。決闘に勝った者がこの教会を治める事が出来ると聞きました」
「そうですか……。全てを知っていそうですね。これは隠し事が出来ません」
そう言って、司祭は力なく笑った。
「そうです。今、この教会をかけてオルディア教とカリューネ教が決闘を始めようとしているところです。期日は明後日。その日に全てが決まると言ってもいいでしょう」
「明後日……早いですね」
「はい……。でも準備をする時間を頂いたので、我々の中から強い者を選びました」
良かった、まだ期日まで時間があったみたいだ。これならば、私たちは力になれる。
「あなたたちはそれを心配して来てくださったのですか?」
「いいえ。私たちは力になりに来たのです」
「力?」
「私たちを決闘に出してください!」
「えっ、あなたたちを決闘に?」
目的を伝えると、司祭はとても驚いた顔をした。そして、すぐに怒ったような表情をする。
「なりません! こんな幼子をどうして決闘に出さないといけないのでしょうか。あなたたちの身に何かがあれば、心配する人はいるでしょう」
「お気遣いありがとうございます。でも、大丈夫です。私たちはこう見えても強いですから」
「強いとかいう話じゃありません! もし、何かがあった場合、あなたたちの将来を潰してしまうことにもなりかねません。こんな、未来ある若者に我々の試練を与えるような真似はさせません!」
司祭は頑なに私たちの協力を拒絶した。それもそうだ、十歳の女の子を決闘に出すなんて、危険すぎるからだ。それも、司祭という立場のある人がそれを許すはずもない。
「決闘は私たちの試練です。無関係なあなたたちを巻き込むわけにはいきません」
「……いえ、もう無関係ではいられないんですよ。この手紙を読んでください」
「これは……他領の子爵様からの手紙ですか?」
頑なな司祭にダランシェ子爵からの手紙を渡した。司祭は不思議そうな顔をしながらも、その手紙を読み始める。
すると、すぐに驚くような表情になり、食い入るように手紙を読み始めた。そして、その表情が怒りに変わる。
「こ、こんなことが……。疑う様で申し訳ないのですが、真実ですか?」
「もちろんです。嘘ではありません」
「……そうですか」
はっきりと言うと、司祭はようやく状況を飲み込んだ。
「だから、私たちは無関係ではいられないんです。この町のことも救いたいと思います」
「その気持ち……とてもありがたいです。ですが、これは我々に与えられた試練だと思うんです」
「試練、ですか?」
「バルガル様はおっしゃってました。領民を守るためには、祈りでは不十分な出来事もあると。そのためにも、教会にはその危険から守る力があるほうがいいと」
そういえば、バルガルは言っていた。教会にも力が必要だと。だけど、本来ならば役割分担がされているはずだ。その役割以上の事を求められるのは強引すぎる。
「バルガル様が求めているのは酷だと思うんです。だって、領民を守る役目はバルガル様のお仕事ではないのですか?」
「私たちも領民を守る力を行使している以上、バルガル様と同じような立場だとおっしゃっておられました。だから、教会にも領民の生活を脅かす者と戦わなければいけません」
「ですが……」
「それだけ、今の状況を憂いているのでしょう。魔物が増えて脅威が増している今、我々の考えも改めなければいけません」
魔物が増えて、被害が多くなっているのが現状。その現状を変えたくて、バルドルは教会にも戦う力を求めたみたいだ。
「あなたたちの気持ちはありがたいです。ですが、これは我々の問題です。我々で解決しなければいけません」
「いえ、私たちの問題でもあります。協力させてください!」
「あなたたち……」
私はめげずに司祭にお願いをした。その姿を見て、司祭の表情が緩む。
だが、その時――。
「し、司祭様!」
扉が急に開いて、神官が飛び出してきた。
「なんですか。今、接客中ですよ」
「し、失礼しました。で、ですが……それどころでは!」
「……何があったのですか? 落ち着いて、話をしてください」
司祭が落ち着くように言うと、神官は深呼吸をして話始める。
「先ほど、カリューネ教の決闘者と名乗る者たちが現れて、我々の決闘者を出せと言ってきたのです。我々は拒否したのですが、相手の決闘者が煽ってきて、我々の決闘者が我慢できないと出て行ったのです」
「そんなことが……!? それで、どうなったんですか?」
「決闘者同士での乱闘が発生して、その……我々の決闘者が負けました」
「な、なんてこと!?」
なんと、カリューネ教の決闘者が先に乗り込んで来たみたいだ。しかも、それだけでなく、先に決闘者を倒してしまった。
「これでそっちの負けは確定だな、って言って去って行きました」
「……なんてこと」
神官の言葉に司祭は頭を抱えた。
「……信徒には見られましたか?」
「……はい。今、騒ぎになっています」
「……そうですか。ならば、私が説明に出ましょう。もう隠すことは出来なくなりました」
そう言って、司祭は立ち上がり、申し訳なさそうな顔をして私たちを見た。
「申し訳ありません、用事が出来てしまいました。今日はお引き取り下さいませんか?」
司祭は頭を下げると、慌ただしく部屋を出て行った。




