表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【書籍化決定】転生したら魔法が使えない無能と捨てられたけど、魔力が規格外に万能でした  作者: 鳥助
第四章 ロズベルク公爵領

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

126/143

126.友達のしるし

 戸惑うランカの手を引きながら、私たちは人で賑わう大通りを進んでいった。行き交う人々の笑い声や商人の呼び声が溢れていて、その場に立っているだけで胸が弾むような活気がある。


 ちらりとランカを見やると、まだ周りを怖がるように視線を落とし、遠慮がちに歩いていた。私はそんな彼女を安心させるように、そっと手をぎゅっと握り直す。


「ランカは、気になるものとかある?」


 問いかけると、ランカは少し困った顔をして首を傾げた。


「気になるもの……。でも、どんなものがあるか分からないから」

「そっか。なら、一つずつお店を見て回ろうか。ゆっくりでいいから」


 私が笑顔で言うと、ランカは小さく頷いた。その表情はまだ強張っているけれど、ほんの少しだけ肩の力が抜けたように見える。


 まず足を止めたのは、果物を山のように積み上げた店先。赤や黄色の果実が太陽の光を受けてきらめいている。


「わぁ、綺麗……」


 ランカがぽつりと漏らした声は小さかったけれど、その瞳には確かな興味が宿っていた。


「ここは果物屋さんだよ。甘くて美味しい果物がいっぱいあるんだ」

「それぞれ色んな味や食感がするんだ」


 クロネと一緒になって順に説明すると、ランカは驚いたように目を瞬かせていた。その視線がふと、一つの赤い果物に吸い寄せられる。


「ランカはこれが気になる?」

「……うん。どんな味をしているのか気になる」

「じゃあ、これにしようか。おじさん、この果物をひとつください。それと、三人で分けられるように切ってもらえますか?」

「はいよ!」


 お金を渡すと、おじさんは大ぶりな赤い果物を手際よく切り分けてくれた。三等分された果実を受け取り、私たちは自然と輪を作るように並んだ。


「わぁ……甘酸っぱい匂いがする」

「ほんとだ。香りだけで食欲がそそられるな」

「……どんな味なんだろう」

「食べてみようよ」


 そう言って、三人で小さく目を合わせる。まるで合図のように、同時に果実へとかぶりついた。


 途端に、口いっぱいに広がる甘酸っぱい果汁。じゅわっと零れる甘みと酸味が、喉を通るたびに心まで満たしていく。


「んっ……美味しいね!」

「これは……旨いな」

「……美味しい!」


 三人の声が重なり、同時に顔を見合わせて、思わず笑ってしまった。


「ふふっ……三人とも同じこと言ってたね」

「しかも声まで揃ってたぞ」

「そんなことって……あるんだね」


 互いの笑顔が連鎖して、自然とまた笑みが零れていく。私たちが笑うほどに、ランカの緊張が少しずつ解けていくような気がした。だったら、もっと笑顔になれるものを一緒に探そう。


 そう思って、三人で再び手を繋ぎ、通りを埋め尽くすお店を一つずつ見ていく。


 立ち止まったのは、色とりどりの布を並べている店。艶やかな青、落ち着いた緑、眩しいほどの黄色。ランカは初めて見る鮮やかな色に目を丸くして、そっと手を伸ばした。指先に触れる柔らかさに驚き、ほんの少しだけ頬が緩む。


 次は、香ばしい匂いの漂うパン屋。店先には焼きたての丸パンが山のように積まれていて、思わず鼻をひくひくと動かししっぽを振るランカ。その仕草が小動物みたいで、私もクロネも思わず笑ってしまう。すると、恥ずかしそうに肩をすくめつつも、彼女も小さく笑みを返してくれた。


 さらに進んでいくと、道具屋の前では不思議な形の瓶や金属の道具が並んでいる。ランカは少し怖そうに見つめていたけれど、クロネが軽口を叩いて見本を持ち上げると、くすりと小さな笑い声を零した。最初は警戒で固かった表情が、段々と柔らかくほどけていくのが分かる。


 少しずつランカは街の賑わいに溶け込んでいく。戸惑いと緊張でいっぱいだった顔が、今は楽しさで淡く染まっている。それを横で眺めながら、胸の奥がじんわりと温かくなった。


 きっと、この時間は彼女にとって初めての思い出になる。そう思うと、なんだかとても尊くて、もっともっと大事にしたくなった。


 そうして歩いていくと、また違うお店の前で足が止まった。そこは、以前にも立ち寄ったことのある――アクセサリー屋だった。


「わぁ……キラキラしたものがいっぱい!」


 店先に並べられたアクセサリーを見て、ランカの瞳が輝きを帯びる。その無邪気な喜びように、胸の奥から自然とランカにアクセサリーを贈りたいという気持ちが溢れてきた。


 ふと横を見ると、クロネも同じように私を見返してくる。次の瞬間、クロネが自分のマントに付けたピンを指で示した。……どうやら、クロネも同じことを考えていたらしい。


 思わず頬が熱くなる。けれど、嬉しくて仕方なくて、私は小さく頷いてみせた。ランカが夢中でアクセサリーを眺めている間に、私たちはこっそりと彼女に似合うものを探すことにする。


「……これなんかどうだ?」

「あっ、いいね。でも、こっちも可愛いと思う」

「うん……確かに、それも悪くないな」


 二人して、あれこれと意見を交わしながら選んでいく。あーでもない、こうでもないと真剣に話し合う時間が、なんだか楽しくて仕方がなかった。そしてついに、これだと思える、ランカにきっと似合うアクセサリーを見つけ出した。


 こっそりと店主にお金を渡して受け取ると、私はそっとランカの肩を叩いた。


「ん? なに?」


 不思議そうに首を傾げるランカの前へ、小さなイヤリングを差し出す。金色に輝くイヤリングで、繊細な細工が施されていて、先端には小さな宝石がちょこんと揺れている。光を受けるたびにきらりと瞬き、まるで星のかけらを閉じ込めたようだった。


「これ……ランカに似合うと思って」

「あたしたちからのプレゼントだ」


 そう言って差し出すと、ランカはぱちぱちと瞬きをして固まった。驚きと戸惑いが入り混じった表情。けれど、やがて宝石に映る自分を見つめて、ゆっくりと頬が赤く染まっていく。


「……ラ、ランカに?」

「うん。さっきすごく嬉しそうに見てたから」

「絶対に似合うと思う」


 言葉を重ねると同時に、私は微笑んで付け加える。


「これはね……友達のしるしとして贈りたいの」


 その一言に、ランカは目を大きく見開いた。まるで信じられないことを聞いたように、宝石よりも揺れる瞳でこちらを見つめる。


「……とも、だち……?」


 掠れる声でつぶやいた後、ランカは両手でイヤリングを受け取った。まるで壊れやすい宝物を抱くように、震える指先で包み込む。その瞳はまだ揺れていて、信じたいけれど信じきれない、そんな迷いが滲んでいた。


 私はそっと一歩近づき、真っ直ぐに言葉を紡ぐ。


「ランカ……私はね、君と友達になりたい。最初に会ったときから、そう思ってたんだ」


 隣でクロネも静かに頷き、力強く言葉を添える。


「あたしも同じ。ランカと一緒に笑って、一緒に冒険して、同じ景色を見ていきたい。だから、友達になってほしい」


 ランカの瞳がさらに大きく見開かれる。胸に抱いたイヤリングを見下ろし、そしてゆっくりと二人を見返す。その表情は驚きから戸惑いへ、戸惑いから――やがて抑えきれない喜びへと変わっていった。


 ランカの目からぽろりと涙が零れる。けれど、口元には誰よりも柔らかく、温かな笑顔が浮かんでいた。


「……ラ、ランカ……。ユナとクロネと、友達になりたい! なりたいよ……!」


 その言葉に、私たちは同時に笑みをこぼす。自然と手を伸ばして、三人の手がぎゅっと重なり合った。


 それはまるで、小さな約束の証のように、温かく結ばれていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
ううっ。。なんて、ささやかで幸せな。。。 トモダチ。。イイネ!!!
彼らからもプレゼントがあるみたいだよ! 良かったね♥️ ???『ソレ、足枷に見えるんですけど・・・』 信者A「さぁコレからデスマーチです。逃がしませんよ?」 ???『そっちは首輪に見えるけど・・・』 …
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ