12.創造神オルディア
「はっ」
一瞬、意識が飛んだがすぐに戻ってきた。だけど、周囲の光景に唖然とした。
「ここは……どこ?」
真っ白な空間に私が立っていた。どういう事? 今まで森の中にいたのに、どうやってこんな所に……。
「こんにちは」
その時、背後から声がした。ビックリして振り向くと、そこには金髪を流し、清楚な白い服を纏った綺麗な女性が立っていた。
「は、初めまして……」
知らない人に話しかけられて、咄嗟にそんな言葉が出た。すると、その女性は残念そうに眉を下げる。
「私たち、初めてじゃないんですよ」
「えっ、そうなの!?」
「えぇ。あなたの時間で十年前に会っています」
「十年前って……私が生まれているかいないかなんだけど……」
「あなたが生まれる前に会っていますよ」
私が生まれる前に会っている? そんな、不思議なことがあるのだろうか?
でも、不思議と私も初めて会った気がしない。一体、どこで……。
「私はオルディア。この世界の創造神です」
「オルディアって白い像の……」
「はい。その通りですよ、綾瀬美咲さん」
「えっ……。それ、私の前世の名前……あっ!」
前世の名前を言われて、頭の中に記憶が蘇った。
「転生する前に会っていた神様!?」
「ようやく、思い出してくださいましたか」
どうして今まで忘れていたんだろう? 今になって、転生する前の事が鮮明に思い出されていく。
三十二連勤をした後、家に帰ると急に胸が痛み出して、意識を失った。その後、気づくとこの場と同じような空間にいたんだった。その場にはオルディア様もいた。
「そっか、私を転生させたのはこの世界の創造神のオルディア様だったんだ」
「はい、その通りです。久しぶりですね。元気にしていましたか?」
「まぁ、色々あったけど元気だよ」
「そうですか! 私が授けた力を活用しましたか?」
「力……? そういえば……」
転生する前、オルディア様は私にどんな力が欲しいか聞いてきた。異世界転生については色んな小説を読んできたから、その意味は分かっていた。
その時、私は力を望まなかった。異世界で活躍すれば面倒事が沢山出てくるし、だったらその世界にあった暮し方の方が充実するんじゃないかと思った。
「私は力なんて望んでいなかったけど……」
「何もないまま転生するのはとても辛い事だと思いましたので、こっそりと力を付与しておいたんです」
「えっ! ……それってまかさ」
「はい。魔力に少し細工をしておきました」
私が普通の人とは違う魔力だったのは、オルディア様のせいだった!?
「オルディア様のせいで魔法が使えなくて捨てられたんだからね!」
「えぇ!? そ、そんな事になっていたんですか!? 今頃、無双の活躍をしていると思っていました!」
「何も教えられないままで気づくと思っていたの!?」
「確かに……。私の世界を楽しんで貰いたかっただけなんですぅ」
もう、この神様は! 力を勝手に付与しただけじゃなくて、何も言わないでいたなんて!
オルディア様はしょんぼりとして、目尻を指で拭った。えっ、やだ……泣いている?
「もう……オルディア様、泣かないで」
「……怒らないですか?」
「うん、怒らないから」
「ありがとうございます。ユナは優しいですね」
オルディア様はにっこりと微笑んでご満悦だ。もう……許すなんて言ってないのに。
「でも、どうして私がこんな場所に来たの?」
「私が下界に繋がる像があるんですが、その像がどんどん壊されていっているみたいなんです。それが気になって、白い像を使って下界を見ていたんです。そしたら、そこにユナがいたんです」
丁度あの時、オルディア様は下界を見ていたっていうことになるのか。そこに自分の手で転生させた子供がいたから、気になって呼んでみた感じかな?
「ユナ、私の像を守ってくださってありがとうございます」
「どういたしまして。でも、どうして白い像が壊されるようになったの?」
「その理由は分かりません。ただ、魔物が現れて私の像を壊していっているみたいなんです。そのせいで、ある地域の影響力が著しく低下しているようなんです。信仰も集まりにくくなっていて……」
とても残念そうな顔をして俯いた。もしかして……。
「信仰が集まらない原因は知っているよ。ある国の国教が変更になったんだよ」
「国教がですか? ちなみに、どの神を祭っているのですか?」
「確か……カリューネ教っていう名前だと思う」
「カリューネ? そんな名前の神はいませんが……。一体どういうことでしょう?」
オルディア様でも知らない神? そんな存在を神として崇めているってこと?
「もしかして、想像上の神様を祭っているんじゃ」
「人間って不思議ですね。想像上の存在を信じて祭っているなんて……。でも、もし想像上の神を祭っているとして、信仰が集まればそれは本物の神として誕生するかもしれませんね」
「えっ、想像上の存在が本当の神様になるってこと?」
「はい。信仰はそれだけ強い力になるんです」
異世界の信仰……恐ろしい。
「そうだ! 今後、何か気づいたことがあったら報告して貰えませんか?」
「カリューネ教のことで?」
「はい。本物の信仰が集まれば、いずれカリューネという神が誕生するかもしれません。そしたら、お祝いの宴を開いてあげないと!」
そんな、新入社員の歓迎会的なノリで……。
「まぁ、いいよ。何か気づいたことがあったら報告するね」
「ありがとうございます。では、ユナにこれを差し上げましょう。私と意思疎通が出来る、銀の首飾りです」
私の目の前に、銀で出来た首飾りが現れた。それを両手で受け取ると意識が薄れていくような……。
「何か困った事があったら頼ってください。私はユナの味方ですから」
そんな声が遠くで聞こえているような――。
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