表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
104/123

104.今後の動き

 町の住人を洗脳していた商会と教会関係者は摘発され、同時に住人たちの洗脳も解けた。


 カリューネ教の悪行が白日の下に晒されると、教会からは関連するすべての物品が撤去、廃棄された。代わって、かつて信仰されていたオルディア教の教義と装飾が戻り、オルディア教の神官たちが新たに教会を任されることとなった。


 こうして、人々は本来の信仰を取り戻し、心の安らぎを得ることができた。しかし、事態はそれだけで収束するほど単純ではなかった。


 ◇


「今までの調査結果を伝えよう」


 ダランシェ子爵が私たちを呼び出し、静かに口を開いた。


「カリューネ教が信者を増やすために洗脳を行っていたことは、すでに知っているな。その洗脳は――この町だけにとどまらないようだ」

「えっ……そうなんですか? 以前、カリューネ教が広まっていた町を見た時は、普通に見えましたけど……」

「どうやら、地方ではまだ洗脳の影響はほとんど出ていないらしい。問題は中央地方だ」

「中央地方……」


 クロネが悔しそうに顔をしかめる。彼女の生まれ育った土地が、カリューネ教の洗脳に蝕まれていたと知り、胸に去来するものがあったのだろう。


「今の中央地方は、ほぼカリューネ教の支配下にある。すべての始まりは、公爵家を騎士団長バルガが実質的に掌握したことだ。彼は教皇と深い繋がりを持ち、今では完全にその傘下にある」

「バルガの奴……あたしが暮らしていた場所で、そんなことを……!」

「今や中央地方は、教皇の手中にあると言ってもいい。だからこそ、カリューネ教が急速に勢力を広げているのだ」


 国教の教皇が、土地の実権まで握っているという異常事態。これは、到底見過ごせるものではなかった。


 本来、国を守るべき立場にある騎士団長が教皇と結託しているとなれば、もはや国を守っているとは言えない。


 カリューネ教は、表向きは信仰を掲げながら、裏では国家の中枢にまで影響を及ぼし、ゆっくりとその毒を広げていた。


 皇帝が立ち上がれば抑えられるかもしれない。だが現実は、教皇とバルガが皇帝の弟を担ぎ上げ、反旗を翻している状況。


 そのせいで、皇帝の権威は大きく揺らぎ、もはや国内をまとめる力を失いつつあった。今の皇帝は、自らの王座を守るのに手一杯なのだ。


「私は、地方の子爵に過ぎない。正直、この問題をどうにかできる力はない。せいぜい、自分の町を守るのが精一杯だ」

「そんな……」

「私だって悔しい。何もできずに、国がゆっくりとカリューネ教に侵食されていくのを見ているしかないなんて……。だが、国の中枢はもう頼れない。今の状況では、教団を止める術がないんだ」


 カリューネ教がもたらす数々の歪み。それに対処する力も手段も持てないという現実――それはあまりにも歯がゆく、悔しいものだった。


 でも、この問題を放置するわけにはいかない。このままでは、国そのものが崩壊してしまう。どうにかして、打開策を見つけないと。


「……いや、まだ頼れる人がいる」


 その時、不意にクロネが口を開いた。


「頼れる人? それは一体……?」

「地方の公爵家たちなら、この問題に対抗できるはずだよ」

「……なるほど。その手があったか。確かに、地方の公爵家なら国の中枢にも意見できる。複数の公爵家が結託すれば、十分に力になるかもしれない」


 地方の公爵家は、それぞれが強い権威と影響力を持っている。その独立性を逆手に取れば、中央に根を張るカリューネ教にも対抗できる可能性はある。


「だが、彼らも自領の統治に手一杯なはずだ。本当に動いてくれるだろうか?」

「それは……分からない。でも、国全体が危機に瀕していると知れば、きっと無視はしないと思う」

「いや、逆に国の危機だからこそ、独自に動いて領地ごと独立国家を名乗る可能性もある……」

「それは……そんなことを考えている人がいないことを願うしかない」


 二人の顔に、重たい影が差す。


 いくら地方の公爵家といえども、思惑や立場はそれぞれ異なり、一筋縄ではいかないことは明白だった。


「とにかく、私はある公爵家と面識がある。だから、まずはその方にカリューネ教の実態を伝えて、協力を仰いでみる」

「面識がある方がいて本当に良かった……。私もこちらで独自に動いて、協力してくれそうな人物を探してみる」

「助かる。どうか力を貸してくれ。今こそ、国を守るために一致団結すべき時だ」

「もちろんだ。この問題を、見過ごすわけにはいかない」


 国をどうにかしたい。その想いは、きっと誰の胸にもある。だからこそ、今こそ力をひとつにして、この国難に立ち向かわなければならない。


「公爵家への交渉は、君たちに任せるとしよう。そのための支援も用意してある。これを受け取ってくれ」


 そう言って、子爵は家令に軽く合図を送った。


 家令が静かに前に出てきて、美しい装飾の施されたトレーを差し出す。その上には、重みのある袋と、きらめく金属のプレートが並んでいた。


「旅の資金と、褒章メダル十五枚だ。本当に君たちには助けられた。改めて礼を言わせてくれ」


 丁寧に頭を下げる子爵の姿に、私たちは思わず背筋を正す。そして、差し出された品を慎重に受け取った。


 これで、褒章メダルは合計八十七枚。着実に増えてきている。手のひらの中で光るメダルが、これまでの努力を肯定してくれているようで、思わず胸が温かくなった。


「では、健闘を祈る」


 子爵に激励された私たちはこの町を旅立つことになった。

お読みいただきありがとうございます!

面白い!続きが気になる!応援したい!と少しでも思われましたら

ブックマークと評価★★★★★をぜひよろしくお願いします!

読者さまのその反応が作者の糧になって、執筆&更新意欲に繋がります!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ