10.三体の魔物
木の影に隠れて、そっと覗き込む。目の先には白い像を囲うように、大きな猿の魔物が三体いた。
しゃがんだ態勢で二メートルほどの大きさ。体は厚い筋肉が盛り上がり、黒い毛に覆われている。恐怖心を植え付けるような赤い目。鋭い牙や爪が見え隠れしている。
「あれはゴルガンだ。Bランクの魔物」
「Bランクってクロネと同じランクだ。じゃあ、それくらい強いってこと」
「まぁ……あたしの方が強いけど」
最初に倒した魔物よりも一ランク下がっているけれど、それでも強い部類に入る魔物だ。それが三体もいるんだから、厄介この上ない。
じっと様子を見ていると、ゴルガンは白い像に向かって攻撃をしていた。鋭い牙が生えた口で噛みつき。強靭な爪で切り裂き。連続で拳を叩きつける。
だけど、白い像はびくともしない。よく見ると、青白い膜に覆われている。どうやら、防御機能が働いているみたいだ。
「珍しいな。魔物が無機物に執着するなんて」
「そうなの?」
「あぁ。普通は像なんて見向きもしない。だけど、あのゴルガンたちは執拗に像に攻撃している」
「……像を壊そうとしているとか?」
魔物が像を壊して何か良いことがあるんだろうか? ……いや、ないな。本当にあの魔物の目的が分からない。
「とにかく、ゴルガンたちを倒そう。あれがいるから、村人はここにお祈りに来れないらしいからな」
「そうだね。三度目の戦闘、上手くいくかな……」
「困った時はあたしがいる。それに、ユナは強い。だから、大丈夫」
「……うん。私、頑張る!」
まだ戦闘になれていない私をクロネが勇気付けてくれる。その言葉だけで、勇気百倍だ!
クロネは剣を抜いて構えると、私と顔を見合わせる。私が強く頷くと、一緒に飛び出していった。
「ゴフッ!?」
「ゴガァッ!?」
「グルルッ!」
木の影から飛び出すと、ゴルガンたちがこちらに気づいた。突然現れた私たちに驚いた様子を見せるが、すぐに獰猛な笑みを浮かべた。赤い目がギラリと光り、喉の奥から低い唸り声が漏れる。
──来る!
三体のゴルガンが、一斉に地を蹴った。
「こっちに来い!」
クロネが私の前に飛び出し、中央のゴルガンの前に立ちふさがった。
「ガァァッ!」
そのクロネにゴルガンの鋭い爪が襲い掛かる。
ガキンッ!
その爪を片方の剣で受け止め、もう片方の剣でそのゴルガンに切りかかる。だが、ゴルガンは後ろに飛び、その攻撃を避ける。
そこに両脇で控えていたゴルガンが同時にクロネに襲い掛かった、挟み撃ちだ。
「クロネ!」
助けたほうがいい!? そうだ、クロネに私の防御魔法をかければ!
手を構えて、魔力を放とうとした時――ゴルガンが触れる寸前でクロネが高く飛んだ。攻撃する対象がいなくなり、ゴルガンたちは勢いよく衝突して地面に倒れた。
その倒れたゴルガンに向かって、クロネは剣を突き刺した。
「グガァァッ!」
「まずは一体」
凄い! こんなに早く一体を倒すなんて!
クロネの活躍に目を奪われた時、立っていたゴルガンがこちらに突進を仕掛けてきた。手ごわい相手よりも、弱い相手を標的に定めたみたい。
「えっと……とりあえず、防御魔法!」
私は咄嗟に絶対に攻撃を通さない魔力を体に纏った。これで、攻撃を受けても大丈夫。あとは、攻撃手段。まずは風魔法の連射だ!
構えた手のひらから無数の風の刃が飛び出す。その風の刃がグルグルと円を描きながらゴルガンに向かっていった。
これなら、当たる! そう思っていた――だが、ゴルガンは素早い動きで風の刃を避け切ってみせた。そして、一気に距離を詰めて、私に噛みついてくる。
「ゴフッ!?」
私の体を噛んだゴルガンは歯が通らないことに驚愕した。その隙に、ゴルガンに手を向けて強烈な風を当てた。ゴルガンの体は私から離れ、巨体は吹き飛ばされて木にぶち当たった。
「ユナ、大丈夫!?」
「うん! 防御魔法があったから平気だよ!」
大丈夫だったけど、ゴルガンの動きが速くて経験の浅い私じゃ攻撃を当てるのが困難だ。どうすれば……。
「どうした?」
「ゴルガンが速くて、攻撃が当たる気がしないの」
「そうか。だったら、私が攻撃をして動きを止める。その一瞬をつけ」
「うん、分かった」
クロネは私の前に立つ。目の前には衝突から起き上がったゴルガンがいる。
「ガァァッ!」
ゴルガンが叫び声を上げると、こちらに突進してきた。それを迎え撃つクロネは剣を構えて集中した。そして、私の前から一瞬でゴルガンの目の前に移動する。
「《月影舞》!」
またクロネの姿が消え、今度はゴルガンの後ろに現れた。その刹那――ゴルガンの体のあちこちから血しぶきが飛んだ。
「グガッ!」
ゴルガンの動きが止まった! これならいける!
手のひらに真っすぐ伸びる炎の矢を生み出し、風の反動で射出する! 閃光のように飛んだ炎の矢は動きが止まったゴルガンに突き刺さり、爆発した。
ドガァンッ!
ゴルガンの体は吹き飛び、地面の上に転がった。やった、残り一体!
そう思って、視線を向けた時――クロネに最後のゴルガンが迫っていた。
「クロネ!」
「くっ!」
ゴルガンが鋭い爪を振り下ろす。それをなんとか避けるクロネ。だけど、ここでゴルガンが一気に加速してクロネとの距離を詰めた。そして、もう一方の爪が鋭く振り下ろされる。
「ぐぅっ!」
爪はクロネを切り裂いた。私の目の前で、クロネが鮮血に濡れる。
「クロネ!」
私の叫び声を聞き、そのゴルガンがこちらを向く。そして、方向転換をしてこちらに向かってきた。
「クロネを……許さない!」
私は怒りで燃えていた。魔力を高め、ゴルガンが近づくのを待つ。
「ガァァッ!」
瞬時に距離を詰め、目の前に現れたゴルガン。その瞬間、高めた魔力を地面に解き放った。
魔力は地面を通り、そして――無数の硬い槍になって下からゴルガンを襲う! 予期せぬ方向からの攻撃にゴルガンは避けられず、その体は串刺しになった。
「ガァッ……!」
貫かれた硬い槍に身動きが取れず、ゴルガンの目から生気が消えた。もうこの場に動いている魔物はいない。
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