1.無能と呼ばれた少女
魔法の才能を試される特別な日。晴れ渡った空の下、学校の広場には子供たちの高揚と大人たちの期待が渦巻いていた。
次々と魔法が成功するたび、歓声が上がる。
「私は火魔法が使えるわ!」
「俺は水魔法が使える!」
「僕は土魔法だ!」
あちこちで魔法の発動が成功した子供たちが嬉しそうに声を上げていた。その子供たちを見て大人たちは大げさに喜んだり、落胆した様子を隠さずに見せる姿が見受けられた。
魔法の才能は、このカレディア王国ではすべてを決める。貴族社会においては、家の名誉も、地位も、子どもの将来すらも魔法で決まると言ってもいい。
だからこそ、両親は私に大きな期待をかけていた。私は、その期待に応えるために、何度も魔力を操作してきた。
そして今、いよいよ私の番が来た。深呼吸を一つ。心を落ち着けて、私は詠唱を口にする。
「炎よ、我が前に舞い降りよ。煌めく炎の輝きを放ち、悪しき者を蹴散らし、我が前に立ちふさがる敵を燃やし尽くせ!」
魔力が体の中を巡り、膨れ上がる。だが……手の先に、炎の気配はない。
魔力は確かにあるのに、何かが噛み合っていない。ぐるぐると回るような違和感だけが残る。
それでも、私は必死に魔力を押し出そうとするが、炎は現れなかった。
「ユナ、次の魔法だ」
「次は氷の魔法を出しなさい」
「分かりました」
私は指示通り、氷魔法の詠唱に切り替えた。けれど、結果は同じ。手のひらは空っぽのまま。
水、風、土、雷。知っている限りの魔法を唱え続けたが、どれも発動しなかった。
どんどん焦りが募っていく。失敗のたびに、周囲の視線が冷たくなっていくのがわかった。
「見て、あの子……魔法が発動しないみたい。もしかして、不貞の子なんじゃない?」
「貴族の血を引いているのに魔法が発動出来ないとは。欠陥品だな」
「汚らわしい! あんな子がこの魔法学校に通っているなんて!」
ひそひそと、しかし容赦なく投げられる言葉。
嘲笑。侮蔑。蔑み。
でも、私が一番怖かったのは、周りの視線じゃない。
この日を心待ちにしていた両親の反応。それを知るのが、何よりも怖かった。
「ユナ」
背筋が凍りつくような低い声がした。
見上げると、そこには私の父と母がいた。その顔は無表情。いや、何の感情も宿っていない、空虚な顔だ。
「帰るぞ」
それだけを告げ、私を連れ去った。
◇
まだ授業が残っているのに、家に帰ることになった。私の事を呼び止める人はいない。いつも仲良くしてくれた友達も、優しかった先生もだ。
みんなの目がとても冷ややかなのがとても怖かった。魔法が使えないという事の重要性を身をもって知る。
そして、両親はあれから何も喋ってくれない。それどころか、私を部屋に閉じ込めたままだ。
私が魔法を使えたら……。そう思って自分の魔力を巡らせてみる。私の魔力はしっかりと知覚できるもので、その事を話すとそれは凄い事だと両親が手放しに喜んでいた。
きっと、魔法が発動しなかったのは私の魔力が人とは違うからだ。もしかして、私が転生者だから? 転生者だから、この世界の魔法が使えないっていうの?
でも、魔力をどうにかすれば、きっと私も……。私は閉ざされた部屋でひたすら魔力と向き合った。
だけど、その時! 部屋の扉が勢いよく開かれた!
ビックリして振り向くと、そこには無表情の両親が立っていた。その様子がとても怖い。体が震えるの必死に耐え、両親の前に駆け寄った。
「お父様! お母様! 私が魔法を発動出来ないのは、きっと魔力に何か秘密が!」
そう言って近寄ると、二人の表情が醜く歪む。
「この欠陥品が!」
お父様の腕が素早く動いた後、頭に大きな衝撃が走った。その衝撃で立っていられなくなり、私は床に倒れる。
「お前のような欠陥品に、我が家の名を汚されてたまるか!」
「魔法が使えない無能! お前は貴族ではない! いいや、人ですらない!」
両親の怒号が響き渡り、私の意識はそこで途切れた。
◇
「……いたたっ……」
ぼんやりと意識が浮上する。痛む頭を押さえながら、私は体を起こした。
目を開くと――そこは見慣れた部屋ではなかった。
木々が生い茂り、小鳥のさえずりが聞こえる。土の匂い、湿った風。ここは……森だ。
「えっ……なんで?」
私は知らぬ間に、森の中へと捨てられていた。
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