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ついてない日

……。


しばらく沈黙が流れている。

が、そんな現実とは対照的に、俺の思考はとんでもなく慌ただしかった。


いやいやいやいや、ちょっと待ってくれ。女神?女神だって?漫画やアニメじゃあるまいし、そんな存在が目の前で一緒にカニ鍋を食っていたなんて言われてもそうそう信じられる訳がない。やはり今流行りの不思議ちゃんなのだろうか?それとも熱心に信仰をし過ぎて自分を女神だと勘違いしてしまった可哀想な子なのだろうか?どちらにしても非常にデリケートな問題だ。会って間もない俺が踏み込んでも良いのだろうか。キミ、言いにくいんだけど女神なんてこの世にいないんだ。そう思い込んでいるだけなんだよ。と優しく諭しても良いのだろうか。うーん。


俺が一人でブツブツ言っていると、それを見かねたのか、自称女神さまが先に沈黙を破った。


「急に言われてもなかなか信じれるもんと違うやんな。うちらはずっと、こっちとの行き来は禁じられてるから。まあ、たまーに黙ってこっちにくる神もいるんやけどな」


彼女は悪戯っぽく笑い、話しを続けた。


「でも、困ったなぁ。信じて貰えへんかったらこの先の話しもできひんねんけど……そうや!」


彼女がそう言った瞬間、目の前が真っ白な光に覆われる。


ーーこれは!

店で見たあの光だ!!


強烈な眩しさに咄嗟に腕で視界を覆った俺は、それが徐々に弱まり、ようやく落ちついた頃、恐る恐る目を開いた。


するとそこには、淡く光を纏った、どこまでも美しい純白の翼があった。


「これで、信じる気になった?」


微笑む彼女のあまりの神々しさに、俺は言葉を失い、しばらく茫然とした後、恐る恐る口を開いた。


「……わ、わかった。さすがにその姿を見たら、信じざるをえない……」


突きつけられた現実に、俺は観念したように言う。


「良かった。思ったより翼を出すのもしんどくて……」


彼女が少し辛そうな表情でそう言うと、瞬く間に翼は光となって消えた。


ーー普段、あの翼はどこにしまってあるんだろうか


こんな状況下でも意外と冷静な思考に驚かされる。

人はあまりの衝撃を感じると逆に冷静になると聞いたことはあったが、まさか自分が体験するなんてな……。


俺はゆっくりと深呼吸をしたあと、続けて頭に浮かんだ疑問を口にした。


「とりあえずキミの言うことはわかった。しかし、だとすると何故キミはこの下界にいるんだ?そして何故俺の前に現れた?」


矢継ぎ早に質問を重ねる俺に、彼女は少しバツの悪そうな表情を浮かべる。


「うーん、そうやね。それが一番重要なことなんやけど……」


な、なんだ?彼女が言葉に詰まるなんて余程のことじゃないのか?もしや俺の寿命!?いやまて、確かさっき歌の女神みたいなことを言っていたな。なら俺に音楽の才能が!?それは願ってもないことだ。何度も諦めようとしたが、やはり神は俺を見捨ててはいなかったのか。おお神よ、感謝します。女神がいるなら神もきっといるだろう。うんうん。


俺が若干ニヤけながらそんなことを考えていると、彼女がようやく重い口を開いた。


「うち……天界を追放されてん」


その口調はとても明るかった。


「ある日神様にな、お前は歌唱の女神としての役目を果たせてはいない。よって人間界に永久追放とするー。って言われて。あ、お兄さんの元に来たのはたまたまやよ。なんか気づいたらあそこにおったし助けてくれそうやったから」

「ってことで、うち行く場所も帰る場所もないねん。不束者やけど、今日からお世話になります」


心の中でDaniel Powterの"Bad Day"が流れている。

我ながら、とても良いチョイスだった。

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