表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/23

カニと女神さま

「ごめん、これそっちに置いてくれる?そうそう。で、これがカニ用のフォークね。それと、こっちがキミのお皿」


「カニ用のフォーク?こんなんあるん?」


ーーバイト先から歩いて三十分ほど。

カンカンとうるさいサビだらけの階段を上がった二階建てアパートの204号室、そこが我が家だ。


部屋は六畳のワンルーム。

玄関との間に五メートルほどの廊下があり、その途中にキッチンと呼べるのかも怪しい調理スペースと、反対側にはトイレと風呂。


ユニットバスは嫌だったので、不動産屋にお願いし、別れている物件を探して貰った。

そのおかげで家賃が上がってしまい、最終的にはこんなボロアパートに決まったのだが……。


いつ警察に声をかけられるかと、ビクビクしながらの帰り道。

なんとか無事我が家に辿り着くことができ、今はカニ鍋の真っ最中というわけだ。


「あれだけカニが食べたいって言っていたのに、カニ用のフォークを知らないのか?」


俺はふと疑問をぶつける。


「うん。うちが前に食べた時はな、まだカニを食べだして間もないって言ってたから。こんなもんは作られてへんかったと思う」


ーーでた、不思議ちゃんキャラだ。

これさえなければ完璧な美少女なのに……。


顔には出さないようにしたが、俺は内心かなり残念に思った。


「ま、それはそうと。お腹も減ったし、そろそろ食べるとするか!」


「うん!」


『いただきまーす』


二人仲良くハモって、俺たちは一心不乱にカニを堪能した。

カニを食べる時は無口になるって、あれ本当だったんだな。



「ごちそうさま」


ふぅ、とお腹をさすりながら俺は食事を終えた。

やはり久しぶりのカニは相当に美味く、大満足といった様子で顔がほころぶ。


彼女はというと、カニが上手に食べられず、ほとんど俺が殻をむき中身だけをお皿に入れてあげた。

苦労することなく美味しい部分を堪能できたようで、ご機嫌そうに食事を終え、今は謎の儀式?のようなものの真っ最中だ。


「ーー全ての命、創造主たる神に感謝いたします」


……やはり熱心な宗教家なのだろうか。

俺はしばらく黙って彼女を見つめていたが、いよいよ核心に触れることにした。


「よし。食事も終えたし、聞かせて貰うよ。キミはどうしてあんな時間に一人でいたんだ?家はどこなんだ?ご両親は?」


もうかなり時間も遅くなってしまったが、そこはハッキリ聞いておかないといけない。

そう質問を重ねる俺に対して


「あ、そういえば自己紹介がまだやったね」


彼女は改めて姿勢を正しながらこう言った。


「ーー申し遅れました。わたくし、古きミューズが一柱、歌唱を司る女神アオイデーと申します。以後お見知り置きを」

「ってことで、よろしくね」


カニがほっぺについたまま、満面の笑みで彼女はそう言ったのだった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ