第6章
私は玉座の間に立っている。
荒れ狂う戦場を駆け抜け、皇帝ルキウスとの死闘を制してから数日の月日が過ぎた。王都を包んでいた火の手や騒乱はひとまず収まり、多くの兵士や民衆が血と涙を流しながらも生き延び、街の再建に動き出している。
だが、玉座の間には奇妙な静寂が漂っている。まるで何か大きな災禍が過ぎ去ったばかりなのに、まだ鎮まりきらない余震が胸を軋ませるような……そんな重苦しさがある。
玉座は今、空席のままだ。国王は帝国との密約を取り付け、国を見捨てるような形で消え去り、貴族たちも大半が逃亡や投降を余儀なくされた。この国を最終的に守り抜いたのは、私とアレクシス、そして辺境や王都の一部の兵士たちだった。
「リリア様、本当にここで即位をなさるのですか?」
沈黙を破るように声を掛けてきたのは、騎士団長のクラウスだ。先の激戦で彼も負傷したが、幸い大怪我には至らず、今は私のそばで国の再建に尽力してくれている。
「正直なところ、私自身まだ迷っています。……戦場で勝利したからといって、すぐに王として民を導けるとは思えません」
実際、帝国軍を退けたことは大きい。圧倒的な大軍に抗して王都を守りきった功績は、民衆にとっても奇跡に近い出来事のはずだ。だからこそ、私を“真の王”と呼ぶ声はますます大きくなっている。しかし――いざ玉座を前にすると、胸の奥がざわつく。剣を振るうだけでは終わらない責任が、今まさにのしかかっているからだ。
「戦場の英雄であることと、国を治める王であることは違う。でも、今ここに王がいない以上、誰かが国を導かなければ復興は進みません」
自分でも歯がゆいほど、曖昧な言葉を口にしてしまう。クラウスはそんな私の心情を察したのか、小さく溜め息をついてから静かに視線を下げる。
「私たちがこれほどあなたを“王”と呼ぶのは、決して剣の強さだけが理由ではありません。あなたがこの国を、そして民を守りたいと心から願ったからこそ、私たちは命を懸けて戦ったのです」
「……ありがとう。あなたの支えがなければ、ここまで来られませんでした」
私は短く礼を言いながら、玉座の横に備えられた古ぼけた旗に触れる。エルヴェイン王国の紋章が刺繍されているが、色あせ、所々が焦げ付いてしまっている。この国が受けてきた苦難の証のようで、触れるたびに胸が詰まる。
ふと、足音が近づいてきて、アレクシスが厳しい表情で玉座の間に入ってくる。彼は未だ鎧姿で、戦場の傷痕をそのまま引きずっている。
「リリア、貴族たちの再編が思うように進まない。奴らはまだ、お前が本当に王になれる器なのか疑っているようだ。……戦場ならともかく、政治の場でもお前が力を見せなければ、連中は従わないだろう」
「分かっています。でも、彼らを無理やり服従させるのは……」
思わず言葉に詰まってしまう。“王威の審判”によって相手を膝つかせることはできても、政治や経済の実務まで力づくで動かすことはできない。戦場では圧倒的な威光で乗り切れたとしても、国を立て直すには人の心を掴む必要がある。
アレクシスは低く声を落とす。
「迷うのは良い。だが、やり切れ。……俺は黙って支えるだけだ」
少し乱暴な口調だけれど、それは彼なりの信頼の表現だと思う。一度は契約だけの夫婦関係と言われた私たちだけれど、今ではアレクシスが誰よりも近くで支えてくれる。
「ねえ、アレクシス……私、本当に王になれるのかな。剣を振るうだけでなく、言葉や知恵でこの国を変えていくって、どうすればいいのか分からなくなる時があるの」
私は玉座をちらりと見る。華やかだったはずの玉座は、今や艶を失い、まるで国の疲弊ぶりを象徴するかのように寂しげだ。そんな椅子に座る資格が、私にあるのかどうか――。
アレクシスは一瞬黙り込み、まるで何かを噛み締めるような眼差しを向ける。
「お前はもう、誰よりもこの国を知っている。貧しさを、戦争を、裏切りを、人の痛みを。……それは、王にとって必要なことだと俺は思う。強いだけの王や血筋だけの王より、ずっと信頼できる」
「……ありがとう」
彼の言葉で、ほんの少し気持ちが軽くなる。私が這い上がってきた道のりは、剣だけではなく、絶望や苦悩とも常に隣り合わせだった。そのすべてが無駄ではなかったと言われると、心の奥がじんと熱くなる。
そんなやり取りをしている最中、侍女が駆け込んでくる。
「失礼します! 帝国との講和会議を取り持っている使節団が、再びリリア様に面会を求めています」
「講和会議……」
一度、私は深い溜息をつく。帝国軍との最終決戦は私たちが勝利を収めた形とはいえ、皇帝ルキウスを完全に討ち取ったわけではない。致命傷を負わせたとは聞くが、彼自身が撤退命令を下し、何とか帝国本土へ引き上げたとの報告がある。帝国内部では皇帝の負傷により動揺が広がり、次の皇位をめぐる争いが激化しそうな雰囲気だという。
「こちらとしては、相手が真面目に和平を望むなら構わないんだけど……」
とはいえ、帝国が完全に降伏するはずはない。いずれ再び力を蓄えてくるかもしれないし、こちらが内政に手を取られている隙を狙ってくる危険もある。だが、これ以上の戦火を望まないのは事実だ。民衆も限界に近い。
「分かりました。会いましょう。帝国側がどういう条件を突きつけてくるにしろ、話を聞かないことには前に進めません」
私はアレクシスと視線を交わし、侍女に面会の場を整えるよう伝える。
ほどなくして応接の間に入ると、そこには帝国の使節団と名乗る数名の男たちが待ち構えている。どこか焦りを帯びた様子で、私が姿を見せるや否や深々と礼を取った。
「私はガルヴァニア帝国の宰相代理を務める者です。皇帝陛下ご負傷のため、陛下に代わり講和の席に臨むよう命じられました」
男の言葉には隠しきれない落ち着きのなさがにじんでいる。皇帝が負傷しているとなれば、帝国側の権力闘争はかなり熾烈なものだろう。
「あなた方が講和を望んでいるのは理解します。ですが、私たちも軽率に条件を呑むつもりはありません。……今回の戦争で、どれほど多くの民が苦しんだのかご存じでしょう?」
私が低い声で問うと、帝国使節は居心地悪そうに視線を伏せる。
「もちろん、すべての罪を否定するつもりはありません。しかし、このまま両国が消耗し続ければ、互いに不毛な結果を招くだけ……。わが帝国も、皇帝陛下の代わりに新たな勢力が台頭する動きがあり、国内が分裂しかねない状況です」
(帝国も一枚岩ではない……か)
その事実が、不思議と胸に一抹の安堵をもたらす。帝国側が内乱の危機にあるなら、早期の停戦や講和を望む派閥が出てきても不思議ではない。実際、今回の使節団もそうした穏健派のひとりなのだろう。
「私どもは、わが帝国が完全に王国を支配するよりも、共存の道を探るべきだと考えています。もし、あなたがたが新たな王として国をまとめ上げるのであれば、皇帝陛下もその立場を尊重する可能性があります」
男が告げるその言葉に、私は微かな違和感を覚える。
「可能性、ですか?」
「ええ。帝国全体が承認するには、あなた方が内部の問題を解決し、王国としての体制を盤石にしなければならない。たとえば、旧王族や貴族たちがどれだけあなた方を“真の支配者”と認めるか……」
そう――結局、そこに行き着く。私が“王”として公に認められるためには、王都や各地の領主たち、そして民衆の確固たる支持が必要だ。だが、腐敗貴族たちは未だ根を張っており、私が築く新体制に反発する者も多い。帝国との講和を得る前に、まずは国内の掃除が必要だと痛感する。
「分かりました。まずは私たち自身の国をまとめ、改めて講和の席につきたいと思います。……帝国内部が混乱しているのは理解しますが、私もこの国の混乱を放置するわけにはいきませんから」
使節は深く頷く。
「ええ。私たちも早期の和平を望む派閥として、あなた方が国を安定させることを期待しております。そうすれば帝国内でも、“リリア・エヴァレットを敵に回すより、同盟関係を築くべきだ”という声が強まるはずです」
“同盟関係”――まだ私たちには馴染みのない響きだが、もしそれが実現すれば、長い戦乱に終止符を打つ可能性もあるのかもしれない。
「ありがとうございます。ひとまず、私たちは内政に集中します。近いうちに正式な使節を改めて送りますので、その際は協力をお願いします」
使節は礼を尽くし、早々に退室していく。彼らが本当に誠意を持って動いているのか、あるいは帝国の内情を探らせるための策略なのか……まだ判断は難しい。
講和会議の話がひと段落すると、私はその足で王城の奥へと向かった。玉座の間から続く回廊を抜けた先の一室に、王国の元宰相・レオナール卿が幽閉されているという知らせを受けたからだ。王国を陰で牛耳り、帝国との戦を誘発した黒幕――そう噂される人物。貴族の中でも極めて狡猾な政治工作を得意とし、今も獄中から何かを企んでいるという話を聞く。
「……彼に直接会うべきでしょうか?」
廊下で同行しているクラウスが心配そうに問いかける。
「レオナール卿は陰謀の権化のような男です。刺激すれば、あなたに危害が及ぶかもしれません」
「それでも、私が国の頂に立つのなら、避けては通れない相手です。……彼が抱えている情報や、国の腐敗を生み出した根源を知るためにも、会っておくべきだと思います」
一筋縄ではいかないと分かっている。私を真っ向から暗殺しようと企んだ勢力を裏で牛耳っていたという噂すらある。けれど、レオナールがどんな思想を持ち、この国をどう変えようとしていたか――それを知ることは、私自身が国を治めるうえで必要だと感じる。
そう思いつつ、私は重い扉を開く。部屋は薄暗く、錠のかかった鉄格子を通して見ると、そこに一人の男が佇んでいる。白髪混じりの髪をきちんと撫で付け、顔には落ち着いた笑みを浮かべている。これが、かつて“宰相”と呼ばれたレオナール・ド・マルシェだ。
「おや、とうとうお越しになられましたか、リリア・エヴァレット殿」
鉄格子越しに向こうから声をかけてくる。怯える素振りはまるでなく、むしろ悠然とした態度だ。
「初めてですね、こうして直接言葉を交わすのは。あなたが私を何度も暗殺しようとしていたと聞いていますが」
私が静かに問いかけると、レオナールはむしろ愉快そうに笑う。
「暗殺? そうですねえ、断言はしませんが、結果としてうまくいかなかったのは残念です。あなたの“王の力”が想定外でしたからね。貧乏貴族の娘にしては上出来ですよ」
彼の嘲るような口調に、感情を昂ぶらせるわけにはいかない。この男が煽っているのは分かっている。
「あなたはなぜ、この国を好き勝手に操ろうとしたのですか? 帝国の侵攻を助長してまで、何を得ようとしたのか……」
レオナールはしばし沈黙し、薄暗い中で瞳だけをこちらに向ける。
「簡単なことですよ。王や貴族という旧来の支配構造を壊し、私の手で新しい秩序を築こうとしたのです。王家は国を守らず、腐敗しきっていましたからね。あなたもご存じでしょう?」
「だからといって、帝国を利用し、民を危険にさらしてまで……!」
抑えきれない怒りが滲む声を出すと、レオナールはまた笑みを深くする。
「人は混乱し、苦しみ、限界に追い詰められたときにこそ“大変革”を受け入れるものです。私はその転換点を作り出そうとしたに過ぎない。……あなたがこうして新たな王として担ぎ上げられたのも、私が王家を崩壊寸前まで追い詰めたからとも言えますよ?」
「……あなたのやり方は、あまりにも多くの犠牲を出しました」
私の言葉に、レオナールは肩をすくめる。
「犠牲なくして新しい秩序は生まれない。しかも、あなたはこれから王となる以上、私の思想を“完全に間違いだ”とは言い切れまい? 大勢を導くには力が要る。あなたが得意とする王威の審判も、結局は“力”で人を従わせる手段だろう?」
真正面から投げつけられる彼の言葉に、息が詰まる。確かに、私が戦場で兵士たちを跪かせたのは、王の威光という名の絶対的な力だった。そこに暴力性が皆無だとは言えない。
「でも、その力をどう使うかが重要なんです。あなたは利用し、私は守りたいんです」
そう言い返すと、レオナールは鼻で笑うようにして頭を振る。
「まあ、好きにすればいい。私はあなたがどこまで“きれいごと”を貫けるか、楽しみに拝見させてもらうとしましょう。新たな王が誕生したところで、この国の暗部は消えません。腐敗は形を変えて何度でも蘇る。それを潰し続ける覚悟があるのか、あなた自身も分かっていないでしょう?」
なぜか胸の奥をえぐられたような感覚に襲われ、思わず目を伏せてしまう。たしかに、私が“王”となっても、腐敗や陰謀は完全になくならないかもしれない。――でも、それを見て見ぬふりは絶対にしないと誓ったばかりだ。
私は沈黙を保ち、レオナールは「ふん」と鼻を鳴らして背を向ける。
「まあ、私が意見できるのはここまでです。せいぜい、あなたのやり方で新体制とやらを築いてみせてください。いつか限界が来るでしょうが……その時はあなたも私と同じ方法を選ぶかもしれませんね」
その言葉に背筋が寒くなるが、私は振り返らないまま扉を閉め、部屋を後にする。重厚な鍵の音が鳴り響き、闇の底に戻るようにレオナールの姿が遠ざかる。
廊下へ出ると、クラウスが心配そうにこちらを見つめている。
「リリア様、大丈夫ですか? あの男の言葉はほとんど呪いのようなもの。気になさらないでください」
「ええ、分かっています。……でも、本当のところ、私にはまだ手探りの部分が多いです。戦場のように、明確な敵を切り伏せれば済む話ではありませんものね」
その曖昧な不安を抱えたまま、私は歩き出す。これからやるべきことは山ほどある。王都の復興、周辺諸侯の説得、貴族の粛清や改革、そして帝国との講和交渉――どれ一つ取っても容易ではない。
けれど、私は決めた。王家が腐り、貴族がこの国を食い物にしてきたのなら、私が何もかも正してみせる。そこに“王威の審判”の力を使うかどうかは分からないけれど、少なくとも剣だけでなく“言葉”や“覚悟”でも国を動かしていく必要があるのは確かだ。
クラウスが足早に追いつき、小声で問いかける。
「リリア様は、本当に“王”として即位なさるのですか?」
私は彼をまっすぐ見据えて、小さく微笑む。
「今は“王”と呼ばれるには未熟だと思う。けれど、この国を救うために、私が先頭に立たなければいけないのも事実。……だから、私は“新たな王”として、一歩ずつこの国を正していくつもりです」
「承知しました。私も、あなたを“真の王”と信じた以上、どこまでもお仕えします」
その言葉に応えるように、私は剣の柄をそっと握る。血と汗に塗れた戦場でこそ輝いた“戦場の女王”としての力は、これからの政治や改革では直接的には役立たないかもしれない。けれど、これまでに得た経験や仲間への思い、それこそが私の武器になると思う。
――そうして、王城の石床を踏みしめ、再び玉座の間へと戻る。執務に追われ、問題が山積みの毎日だが、私の決意が揺らぐことはない。帝国との和平交渉には紆余曲折あるだろうし、旧貴族たちとの闘いもまだ始まったばかり。
(剣だけでなく言葉も尽くして、この国を変える――それが、今の私にできる戦いの続き)
王都の廊下には静かな空気が流れている。けれど、この沈黙は嵐の前の静けさと変わらない気がする。私が新たな王として立つのなら、必ず反発を覚える者が動き出すだろう。彼らを抑えるために、そして国をまとめるために、私はもっと多くのものを背負わなくてはならない。
ふと、玉座の高い背もたれを見上げる。以前の王が使っていたその椅子には、今、名札も王冠も置かれていない。ただ、そこに腰掛けるべき人間を待っているかのように、堂々と存在しているだけだ。
アレクシスが小さな声で私に問う。
「座らないのか? お前こそ、ここを治めるに相応しいと思うが」
「そうね……。でも、もう少しだけ時間をかけたい。私はまだ、心の整理がついていないし、国がこれほど荒れたままで“王”を名乗るのは、どうにも気が引けるの」
アレクシスは何も言わずに私の言葉を受け止め、そっと目を閉じる。それが否定ではなく、理解を示す仕草だと感じ、私は穏やかな気持ちになって小さく笑む。
――こうして、皇帝ルキウスを破った後の王都には一見穏やかな空気が戻っているように見える。けれど、傷ついた兵士や民の心はまだ癒えず、瓦礫の山や焦げた建物がそこかしこに残っている。そこには復興と改革の血のにじむ努力が必要だ。
さらに、帝国からの講和使節は引き続き駐留し、王国の情勢をうかがっている。もし私の体制が脆弱だと判断されれば、再び侵略の野望を燃やす将軍たちが帝国内で台頭するかもしれない。
そして何より、宰相レオナールのように国内の腐敗を利用しようとする者が、まだ潜んでいるに違いない。単純に“王になりました”では済まされない、複雑で困難な政治戦の時代が始まろうとしているのだ。
でも、私は決めた。「この国の民を救う」と心から願い、血を流し、剣を振り、たくさんの痛みを抱えた末に得た勝利だ。ならば、ここからは私が“新たな王”として、誇りと意志をもって国を立て直す。
「戦場で勝つだけでは王になれない……。でも、だからこそ私はこの先、剣だけでなく知恵や言葉で、そして仲間たちと共にこの国を守っていく」
玉座に手をかけながら、小さく誓う。私の中に眠る“王威の審判”は、人々を無理やり跪かせるための力ではなく、誇りを示すための光でありたい。剣を置いても決して失われない“王”の威光――そんな本当の力を育てていきたいのだ。
アレクシスが私の隣に立ち、声をかける。
「もう時間だ。兵たちと民衆が、次の布告を待っている。お前がどう国を動かすのか、みんなが注目しているんだ」
「ええ、分かっています」
私はくるりと踵を返し、玉座には座らずに歩き出す。私にとって王座は“最終的に辿り着く場所”かもしれないが、今はまだ通過点だ。この国を再建し、傷ついた民の心を癒やし、帝国との講和を形にする――それらをやり遂げて初めて、私は胸を張って“王”を名乗れる気がする。
こうして、王都に一時的な平穏が戻っても、私は決して油断しない。敵は外にも内にも潜み、私の力を利用しようとする者、あるいは倒そうと企む者がきっと現れるに違いない。そんな試練は戦場以上に厳しく辛いかもしれない。
けれど、誰かがやらなければ、この国はまた滅亡の危機に瀕するだろう。だからこそ私は、皆が見守る前で力強く一歩を踏み出す。
「私はリリア・エヴァレット。建国の女王の血を引く者。そして、この国を導く者として――剣だけではなく、全力でこの国の未来を勝ち取ってみせます」
廊下に待機していた兵士や侍女たちが、いっせいにこちらに視線を集める。彼らの中には疲弊しきった顔の者もいるし、笑顔の者もいる。でも、その誰もが“次”を期待しているのが伝わってくる。
(私は必ず、この国に安寧を取り戻してみせる。レオナール卿のような腐敗の根源も、帝国との不安定な関係も、きっと克服してみせる……!)
口には出さず、心の中でそう誓いながら、私は王都の廊下をまっすぐに進む。扉の向こうでは多くの人々が私の布告を待っている。仲間と共に戦ったあの日々を思い返すと、いつの間にか恐れよりも決意のほうが強くなっているのを感じる。
「行きましょう、アレクシス。これからが本当の始まりです」
「――ああ。お前が決めた道なら、俺はそれを守るだけだ」
彼の短い返事に安心を覚えながら、私は堂々と扉を開け放つ。まぶしい光が王城の通路に差し込み、外には再建に向けて慌ただしく動く人々の姿が見える。その奥で、帝国との新たな交渉や、貴族たちの反発が待ち構えているだろうが、私は逃げるつもりはない。
――力だけでは得られない真の支配。それをこの手で掴み取り、新たな王国の形を築いていく。それこそが、私が“新たな王”として果たすべき責務なのだ。
そしてこの道は、まだ誰も知らない次の戦いと希望へと続いている。私は確かな決意を胸に、その一歩を踏み出す。
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