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FUTURES  作者: ナル
16/42

中尾モモ⑨

 月曜日、この日は朝から晴れていたけれど、気分はもう最悪で、昼休みも午後から授業を受ける講義室へ先に入って一人でお弁当を食べていた。

 

 ママが作ってくれたお弁当には、私の好物である砂糖入りの卵焼きが入っていたけれど、全然味がしなくって、生理でもないのになんだか超ダルかった。

 

 教室には、私以外にも数組のグループがたむろして昼食を食べていた。


 特に男子学生のグループは売店で売っているおにぎりや唐揚げなんかを狭い机の上に並べて、がやがやと益体のない会話に興じている。けれど時より、その声が小さくなったかと思うと、クスクスと笑う声が聞こえてくる。


 私はミートボールを嚙みながら、無意識のうちに彼らの会話に耳を傾ける。


「あのすましたドヤ顔。マジで笑いこらえるの必死なんだけど」「ブスなのにねー」 


 そんな言葉がちらりと聞こえ、誰のことを言っているんだろう、と思う。

 

 私が一瞬だけそっと視線を向けてみると、彼らの一人と目が合った。彼は「しまった」とでもいうような感じでとっさに視線を逸らしたけれど、なんとなく、いろんなことがわかった気がした。


 ああ、もうなんなのよ! 


 私は心の中で叫んだ。


 なんで? どうして? 


 私は最高にかわいくて、頭もよくて、イケてる女子大生のはずなのに・・・。


 みんな最初から、私のことをそういう風に見ていたんだ。


 今までは周囲の人の視線が快感ですらあったのに、今この瞬間、それがとても怖いと感じはじめている自分がいた。

 

 そのまま弁当箱をしまって教室を出て行こうかとも思ったけれど、先週もこの授業をサボっていたので、単位のことを考えるとこれ以上は休めなかった。

 

 そのとき、教室の前方のドアが開いて、一人の女の子が入ってきた。その瞬間、室内の空気が一瞬にして変わるのがわかった。男子学生たちは一様に黙り、その視線を彼女に向ける。

 

 それは、去年の学園祭でミスキャンパスに選ばれた同学年の女の子だった。薄い水色のシャツを着てベージュのチノパンを履いた彼女はいかにも女の子って感じのポニーテールで、前髪から覗く二重の目は大きく私が見ても綺麗な顔立ちをしていた。


 私は後ろの方に座っていたから、みんなの視線の先がよくわかる。教室にいる誰も彼もが、魔法にでもかかったように口をぽかんと開けてその子が席に座る様子を見ていた。もう誰も私のことなんか見ていなかった。

 

 脳裏にユミの言葉が蘇る。


「結局あんたは、他人からの率直な評価や批判を受けるのが怖いだけの臆病者じゃない」


 この上なく恥ずかしくて惨めな気持ちになった。

 

 コンテストに出れば、いろんな人の目に晒されて、誰が一番かわいいのかがはっきりと投票という名の数字としてわかってしまう。仮にミスに選ばれたとしても、自分に投票しなかった人、つまりは自分のことをかわいいと思わなかった人の数まではっきりとわかる。この子はそれを覚悟でコンテストに出てミスキャンパスの称号を得た。

 

 私にミスコンに出ることを勧める友人はいた。


「モモが出れば絶対ミスに選ばれるって」


 そんな言葉を浴びるのが心地よかった。


 今ならわかる。私がコンテストに出たとしても、彼女には勝てなかっただろう。いや、そんなことは最初からわかっていたのかもしれない。私は他人から評価を受けるのが怖かったのだ。


-----------------------------


 授業が終わり、私はこのどうしようもない気持ちを少しでも薄めるために、一人繁華街へと繰り出した。アクセサリーや雑貨、それから洋服など、私好みのかわいいアイテムでも見れば、少しは嫌なことも忘れられる。そう思った。

 

 けれど、お店に入って目の前に並ぶキラキラした商品を眺めても、私の心はいくら磨いても向こう側が見えないすりガラスのように曇っていて、いやな記憶だけが脳裏を支配していた。もうどうでもよくなって、帰ろうと思った。


「モモちゃん?」


 背後から声をかけられたのは、ちょうどそのときだった。振り返ると、バイト先の常連客で、いつも私にチップをくれる芦田さんが立っていた。高そうなスーツに身を包み、片手を上げて挨拶する彼に、私も軽く会釈を返す。


「今日はバイトないの?」


と彼は言った。


「まあ・・・今日はシフトに入ってないので」


 私はそう答えたが、高木くんとユミのこともあって、自分で答えてて歯切れが悪い。そんな様子を察したのか、


「どうしたの? なんか元気ないね」


と彼は優しく私に言った。


「困ってることがあるなら、相談に乗るけど」


 その言葉を聞いた途端、私の曇ったすりガラスがすう~っと晴れていくような感覚を覚えた。

 

 そうだ。と思った。私にはこんなにお金持ちのお客さんがついているんだ。

 

 失いかけていた自己肯定感が、にょきにょきと再び持ち上がってきた。



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