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ケイラー侯爵家のその後

◇◆◇◆


 ────ケイラー侯爵家の騒動から、早一週間。

私は皇城の執務室にて、事件の後処理や今後の対応に関する書類を読みふけっていた。


 あいつら、身分制度撤廃の件以外にも色々していたみたいだな。


 『叩けば埃が出そうだ、とは思っていたが……』と考えつつ、私は一つ息を吐く。


「ケイラー侯爵は生け捕りにするべきだったかもしれないな……さすがに罰が軽すぎる」


 『死ぬだけで済むとは、運のいいやつだ』と肩を竦め、私は来客用のソファに腰を下ろした。


「まあ、その分ケイラー侯爵夫人に責任を負わせればいいか。一応、全ての悪事に関与していたようだし」


 『しかも、積極的に』と述べ、私はやれやれと(かぶり)を振る。


 この中で一番マシなのは、ケイラー侯爵夫人の息子達だけか。


 馬鹿すぎるが故に悪の片棒を担げなかった二人に、私は苦笑を漏らした。

『騎士や使用人まで一枚噛んでいることにもほぼノータッチなんて、ある意味凄いな』と思って。


「とりあえず、ケイラー侯爵家はしばらく皇室の管理下に置いてより詳しい調査を行うとしよう」


 他に悪事を働いていないか気になるというのもあるが、今手を引いたらハイエナ共に(たか)られそうなので。

その結果、新たな争いの種を生むのは目に見えている。

だから、セドリックが学校を卒業して領地に戻るまでは時間を稼ぎたかった。

『あいつは将来有望だし、先行投資だと思えば悪くない』と判断する中、私は書類をテーブルの上に置く。


「────それで、貴様は何の用だ?」


 おもむろに天井を見上げ、私はスッと目を細めた。

すると、上から赤髪の男が降ってくる。


「お忙しいところ、すみません。でも、一応お耳に入れておいた方がいいかと思って」


 着地と共に膝をつくアランは、いつになく神妙な面持ちだった。

普段はもっと、飄々としているのに。

『それほど、重要な案件なのか』と思いつつ、私は足を組んだ。


「話せ」


 クイクイと人差し指を動かして話の先を促すと、アランは『はっ』と短く返事する。


「ソラリス神殿の者達が今────全速力で、こちらへ向かっているようです。部下の話によると、祈祷の最中いきなり血相を変えて『イザベラ皇帝陛下のところへ行こう!』という流れになったみたいで……」


 『具体的に何が起きたのかは、分かりません』と言い、アランはそっと目を伏せる。

情報収集を担う立場でありながら詳細を把握出来ていないことに、負い目を感じているようだ。

どことなく暗いオーラを放つ彼の前で、私は自身の顎を撫でる。


「そうか。なら、迎えに行ってやれ」


 ────と、指示した数時間後。

アランはソラリス神殿の者達を拉致し、こっそり皇城へ連れてきた。

拘束されて苦しそうなソラリス神殿の者達を前に、彼はパンパンッと手を叩く。

まるで、手の汚れを払い落とすみたいに。


「今更ですけど、何で秘密裏に(・・・・)連れてくる必要があったんですか?」


 『別に正式に訪問されても良かったんじゃないか』と零すアランに、私は小さく肩を竦めた。


「こいつらの目的がアレ(・・)関連なら、外野に知られる訳にはいかないからだ」


 『情報管理を徹底したい』と主張する私に対し、アランはパチパチと瞬きを繰り返す。


「『アレ』って、なんですか?」


「それはそのうち、分かる」


 『こいつらに聞けば、な』と述べ、私は自室の床に転がるソラリス神殿の者達を見下ろした。

と同時に、パチンッと指を鳴らす。

すると、彼らの手足を拘束していた縄や目元に当てられた布が消えた。


「発言を許可する。だから、さっさと用件を言え」


 『社交辞令や挨拶も不要だ』と告げ、私は銀髪を手で払う。

その刹那、ソラリス神殿の者達は一斉に口を開いた。


「「「我が神ソラリスより、『イザベラ・アルバートを神殿に連れてくるように』との神託を受けました。なので、本日は訪問の要請と日程の調整をお願いしたく……」」」


「────断る」


 間髪容れずに拒否すると、ソラリス神殿の者達はもちろんアランまで呆気に取られた。

動揺のあまり目が点になる彼らの前で、私は足元を指さす。


「この私を呼びつけるなど、何様のつもりだ。貴様の方から、来い────ソラリス」


 信者の目を介してこちらの様子を窺っているであろう神に、私はそう呼び掛けた。

が、あちらから反応は返ってこない。

無視ということなのか、それとも拒絶ということなのか。


「なんだ、引き摺り出されたいのか?」


 神の召喚など本来不可能なのだが、多少無理をすれば一応出来る。

無論、『私なら』という注釈つきで。


「あまり手荒な手段は取りたくないが、致し方ない」


 ゆるりと口角を上げ、私はソラリス神殿の者達に手を伸ばした。

召喚の媒介にするために。

『神と繋がりのある者や物があると、便利なんだよな』と思案する中────突然、周りの空間が歪む。


「ソラリスのやつ……天界と下界の時空をいじって、無理やり繋げたな」


 降臨や召喚とはまた違う現象に、私は溜め息を漏らした。

────と、ここでオレンジ髪の男が姿を現す。

それも、瞬きの間に。


「頼むから、これで勘弁しておくれ……天界に居る神は様々な制約により、なかなか地上に降臨出来ないんだ」


 金の眼に憂いを滲ませ、オレンジ髪の男は目頭を押さえた。

『本当はこういう形で会うのも、ダメなんだよ』と語る彼の前で、私はハッと乾いた笑みを零す。


「出来ないんじゃなくて、しないんだろ。降臨の際、かなりの負担を強いられるからな」


 世界と一体化しているクソ皇帝のようなケースを除き、神は下界(地上)へ降りる度に体を小さくしたり力を封印したりしないといけない。

そのままの状態だと、世界が神という存在を受け入れられないため。

『最悪、世界崩壊に繋がる』と思案していると、オレンジ髪の男が大きく瞳を揺らした。


「神のことに詳しいんだね、君」


「まあな」


「つまり、降臨のリスクを諸々把握した上で僕にあんな脅しを……」


 サァーッと青ざめるオレンジ髪の男は、後ろに仰け反る。

『この人間、普通じゃない……』と呟きながら。


「どうしよう……?接触したのは、軽率だったかな……?いや、でも……」


 悶々とした様子で頭を抱え込み、オレンジ髪の男は狼狽えた。

『一回、出直そうかな……』と悩む彼の前で、アランが手を上げる。


「あの〜」


 おずおずと声を掛け、アランはオレンジ髪の男に視線を向けた。


「失礼ですが、どちら様で?」


 『いや、何となく察しはついてますけど』と述べつつ、アランはポリポリと頬を掻く。

と同時に、オレンジ髪の男が顔を上げた。


「あぁ、そういえばまだちゃんと名乗ってなかったね────僕は太陽神ソラリスだよ」

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