皇室主催のパーティー
「何故、貴様らはそんなに死に急ぐんだろうな」
我が城で誤解を招く発言然り、空中で暴れまくる行為然り……少し考えれば、危険だと分かりそうなことばかりする。
『自殺願望でもあるのか?』と疑うほどに。
「やはり、貴様らのような無能は早めに排除するべきだな。貴様ら自身のためにも」
『このままでは、命がいくつあっても足りないぞ』と零し、私は肩を竦める。
哀れで無様な子豚共を眺めつつ、アリシアに合図を出した。
と同時に、浮遊したままの王冠を被る。
「さて────パーティーを始める前に、重大な発表がある。心して聞け」
『貴様ら全員に関係のあることだからな』と告げ、私は危機感を煽る。
ゴクリと喉を鳴らす貴族達の前で、私は不敵な笑みを漏らした。
「貴様らも薄々感じ取っているとは思うが、アルバート帝国は今後完全実力主義を掲げていくつもりだ。つまり────無能な権力者は必要ないということ。言いたいことは分かるな?」
「「「!!」」」
『実力を誇示出来ない者はその座から引きずり下ろす』という宣言に、貴族達は表情を強ばらせた。
血筋に頼り切って力を培ってこなかった自覚が、あるにはあるらしい。
だからこそ、焦りを覚えているのだろう。
こいつらはきっと、『新興貴族が増えるだけで、自分達の地位を脅かされることはない』と読んでいただろうからな。
反逆など愚かなことを企まなければ、将来は安泰と思っていた筈。
だが、残念だったな?我が国は無能な権力者が甘い汁を吸えるほど、優しくない。
「権力というのは、優れた者が持ってこそ真価を発揮する。ただ振り翳すだけの道具としか思っていない奴らには、勿体ない。与えるだけ、損だ。よって、私はここに────当主承認制度を設けることを宣言する」
手を横へ薙ぎ払うようにして動かし、私は新たな政策を発表した。
その途端、貴族達はどよめく。
『承認って、まさか……』と狼狽える彼らを前に、私はパンッと一回手を叩いた。
すると、辺りは一瞬にして静まり返る。
「詳しい説明は宰相のアリシア・オースティンから、聞け」
そう言ってヒラヒラ手を振ると、貴族達は茶髪の少女へ注目する。
『早く教えろ!』と無言で圧を掛けてくる彼らに対し、アリシアは苦笑を漏らした。
かと思えば、優雅に一礼して口を開く。
「では、僭越ながら私からご説明を────当主承認制度とは、各家の次期当主を決める上で適用されるものです。まずは従来通り、家の中でどなたを次期当主にするか決めていただき、陛下に謁見……もしくは文を送っていただきます。そして、陛下が次期当主として相応しいと判断されれば、承認手続きを行います。ですが、もし相応しくないと判断されれば」
そこで一度言葉を切り、アリシアはスッと真顔になった。
「爵位と領地を返却して頂きます。財産も七割は没収されると思ってください」
「「「なっ……!?」」」
顎が外れそうなほど口を開き、貴族達は絶句した。
『なんだ、その制度は……』と当惑する彼らを前に、アリシアはふわりと柔らかく微笑む。
「ちなみに現当主の死後半年まで、次期当主の承認手続きを行うことは可能です。血縁であれば、候補を何人連れてきていただいても構いません。また、挑戦回数に制限もございません。もちろん、陛下にもお仕事があるため返事に時間を要する場合はありますが」
『なので、出来るだけ余裕のあるスケジュールを』と主張し、アリシアはエメラルドの瞳を細めた。
ちょっと楽しそうな様子の彼女に対し、貴族達は目を白黒させる。
『そんな笑顔で言うことじゃないだろ!』とでも言うように。
「へ、陛下……!これはあまりにも、横暴です……!」
「いくら皇室と言えど、家のことにまで口を出してくるなんて……!」
「イザベラ皇帝陛下はまだ幼いので分からないのかもしれませんが、我々貴族は代々請け負った土地を守ってきたのです!」
「その功績を……歴史を!全て無視するおつもりですか!?」
堪らずといった様子で苦言を呈する貴族達は、人数が多いこともあって強気だ。
その様子は虎の威を借る狐にちょっと似ている。
はぁ……こいつらはアホなのか?
小物がどれだけ、のさばったところで私に敵わないことは戦争を通して知っている筈なのだろう?
それなのに、まだ服従しないとは……。
『野生の動物の方がまだ賢い選択をする』と呆れ、私は耳障りな反論や説教を聞き流した。
が、いつまで経っても静かにならないため、強硬手段に出る。
先程と同じ魔法を無詠唱で展開し、私はおもむろに手を握り締めた。
すると、その動作と連動するかのように────貴族達の首が絞まる。
途端に静まり返る会場を前に、私は
「おい────私がいつ発言を許可した?貴様らに意見していいなんて、言ったか?」
と、問い掛けた。
薄ら笑いを浮かべながら。
「いいか?貴様ら犬は黙って、飼い主の言うことだけ聞いていればいいんだ。それが嫌なら、国を捨てるんだな。もしくは、私を殺してみせろ」
逃亡か決闘かという二択を突きつけると、貴族達は一気に青ざめる。
そのどちらも嫌なのだろう。
決闘は言わずもがな、逃亡は今ある地位や権力を全て捨てることになるから。
これでもかというほど甘い汁を吸ってきた彼らに、今更平民のような暮らしなど出来るまい。
まあ、そんなの私の知ったことではないが。
「それから、当主承認制度について一つ補足しておこう。私は────有能であり、身の程を弁えている者なら全員承認する。この制度で排除したいのは、あくまで無能な権力者だ。貴様らの腹の中がどうであれ、条件を満たしている者を除外するつもりはない」
『私の個人的感情は一切抜きで、決断を下す』と明言し、少しばかり貴族達の不安を和らげた。
が、本人達は窒息寸前でそれどころじゃないのか喉元を掻き毟っている。
『助けて……!』と視線だけで訴え掛けてくる彼らの前で、私は僅かに手の力を緩めた。
「まあ、よく考えて行動しろ」
そう釘を刺してから魔法を解くと、貴族達はケホケホと咳き込む。
必死になって酸素を貪る彼らを他所に、ジークはいそいそとグラスを持ってくる。それも、二人分。
『飲み物の運搬など、使用人にやらせればいいのに』と苦笑する中、彼はこちらへ一つグラスを差し出した。
『どうぞ』と微笑むジークに頷き、私は果実水の入ったグラスを受け取る。
と同時に、前を向いた。
「それでは、アルバート帝国の未来がより良いものになることを願って────乾杯」
「「「乾杯」」」
ジーク、アリシア、リカルドのみが復唱し、手に持ったグラスを軽く持ち上げた。
それを合図に、ずっと待機していたオーケストラが慌てて音楽を奏でる。
ある意味凄い現場に居合わせたからか、若干音はズレているものの、何とか役割をこなしていた。
さて、ウチの駄犬共はここからどう立ち回るかな?
疲れ切った様子の貴族達を眺め、私は果実水を一気に飲み干した。




