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解放

「お、お前達────この場に居る者達を皆殺しにしろ!」


 取り繕うのはもう無理だと判断したのか、オスカーは『死人に口なし』という諺を実行するつもりのようだ。


 まあ、現状を考えるとある意味最適解かもな。

頑張って疑惑を晴らすより、全てを握り潰す方が容易いのだから────私さえ敵に回していなければの話だが。


 『私を敵に回したのが、運の尽きだ』と嘲笑い、魔法陣を作り出す。それも、同じやつを何個も。


 オスカーの性格からして、恐らく魔法陣は使い回しのもの。

それぞれ全く別の言語や数字を使っている、というケースは考えにくい。

よって────


「────こうなるんだ」


 結界の中で泣きながら暴れる異世界人達を見据え、私はパンッと手を叩いた。

その途端、作り出した魔法陣はそれぞれ転送されていき、異世界人達の胸元にピッタリくっつく。


「ま、待て……!」


 魔法陣を見て何か察したのか、オスカーは堪らず声を上げた。

恐怖に染まった顔でこちらを見つめ、プルプルと震える。


「お、お前の望みはなんだ……!?何でも叶えてやるから、それだけはやめてくれ……!」


 柱の陰から出てきて頭を下げるオスカーは、必死に懇願してきた。

優秀な人材に掛けた枷を外すと、どうなるか……彼も何となく察しているのだろう。

誘拐に加えて、過重労働まで強いてきたのだ。

主従契約魔法が解けるなり、報復を受けてもおかしくない。

まあ、私の知ったことではないが。


「貴様のような外道に叶えてほしい望みなど、ない」


「なっ……!」


「それに私は基本────自分の力で望みを叶える派なんだ。他人にその役を譲ってやるつもりは、毛頭ない」


 『勿体ないじゃないか』と語り、私はスッと目を細めた。

闇夜を彷彿とさせる真っ暗な瞳に侮蔑を込め、手のひらを上に向ける。


「貴様ごときが、私の望みを叶えられると思うな」


 『思い上がるな』と釘を刺し、私はグッと手を握り締めた。

それを合図に、魔法陣は光り輝き銀の鍵へ姿を変える。

拳サイズのソレはゆっくりと異世界人達の胸へ……いや、主従契約の魔法陣へ入り込み────カチャリと左に回った。

と同時に、彼らの自由を束縛していた魔法は解除される。


「これで、我々は自由だ」


 一語一語噛み締めるようにそう呟き、ギデオンは胸元を強く握り締めた。

一足先に魔法の効果を打ち消していたとはいえ、完全に解除されるのとされないのとでは訳が違うのだろう。

『嗚呼、良かった……』と胸を撫で下ろす彼の前で、私はパチンッと指を鳴らす。

すると、彼らの体に残った魔法陣の痕も綺麗に消えた。

いや、治ったと言った方が正しいか。


 別に放置しても良かったんだが、今の私は『慈悲深い君主』で通っているからな。

治せる力を持っているのに、何もしないのは不味いだろう。


 『これでより株が上がる筈』と思案する中、異世界人達は驚いたように目を剥き、涙ぐんだ。

ただ一人、ギデオンだけはこちらの狙いを知っているため平然としているが。

でも、悪夢の象徴とも言える主従契約の痕が消えたのは素直に嬉しいようだ。

ちょっと頬を緩めている。


「なんだか、生まれ変わったようだ」


「分かる!過去を消し去ったかのような解放感よね!」


「もう無理やり働かされることもないし、思う存分のんびり出来るな!」


「自分らしく生きられるって、素敵!」


 キャッキャと子供のようにはしゃぎ、異世界人達は花が綻ぶような笑みを浮かべる。

結界で行動範囲を制限してなければ、胴上げでもしそうな勢いだ。

『こいつら、本当に元気だなぁ』と半分感心していると、顔面蒼白のオスカーが目に入る。


「嗚呼……嗚呼、やはり────イザベラ・アルバートは儂の天敵だった。こんなにも簡単に主従契約魔法を打ち消すなんて……人間じゃない」


 『化け物だ……』と震え上がり、オスカーは頭を抱える。

目の前の現実を直視したくないのか蹲り、ギシッと奥歯を噛み締めた。


「アルバート家の血筋が尋常じゃないのは知っていたが、まさかここまでとは……多少強引にでも、消しておくべきだったか」


 意味もなく反省の弁を述べ、オスカーは過去の決断を悔いる。心の底から。

『この化け物が生まれ落ちる前に滅ぼしていれば』と嘆く彼を前に、私はようやく納得した。

アルバート帝国ではなく私自身を狙った理由はソレか、と。


 恐らく、風の噂で私が優れた魔導師であることを知り、また他国を侵略しまくっている話も聞いて『そのうち、我が国にも牙を剥くかもしれない』と……それで、『異世界人のことがバレて、魔法を解除されてしまうかもしれない』と警戒していたんだ。


「正面切っての戦闘に持ち込まなかったのは、目的を隠すため……今のような状況になれば、皇室は危機に陥るから」


 ソラリス神殿をスケープゴートに使った理由にも合点が行き、私は失笑した。

『なんだ、こいつはただの小心者だったのか』と呆れてしまって。

また、結果的に墓穴を掘っているという状況に言いようのない失望感を抱いた。


 先手必勝だと思わず、こちらの動向を探る程度に留めていれば、こうはならなかったのにな。

こちらは三ヶ国を滅ぼしたことで、裕福になったのだから。

もう積極的に戦争を起こすつもりはなかった。相手が舐めた真似さえしなければ。


 『自ら虎の尾を踏みに行くなんて』と肩を竦め、私はふわりと地上に降り立つ。

ついでに異世界人の奴らも、下ろした。

もうオスカーの命令で暴れる心配が、ないため。

『騒ぎに乗じて逃げたいなら、それでもいい』という意味合いも込め、自由にした。


「さて、オスカー。そろそろ、決着を付けようじゃないか。まあ、貴様の手駒はもう居ないようだが」


 絶対に裏切らない……いや、裏切れない(・・・・・)異世界人で側近()を固めた影響か、オスカーにはもう味方など居ない。

少なくとも、この場には。


 慎重になるあまり確実性を優先し、心を通わせるという行為を疎かにした結果だな。

せめて、一人くらい本当の意味での腹心を持てていれば話は別だったのに。


 『所詮、契約で結ばれた絆などそんなものだ』と目を細め、私はゆっくりと前へ進んだ。

────と、ここで全開になった屋根から誰かがひょっこり顔を出す。


「あのー、何の騒ぎですかー?さっきからうるさくて、眠れないんですけどー?」


 『静かにしてもらえますー?』と言いながら、壁を乗り越えてきたのはフードを深く被った人間だった。

声の高さからして、恐らく女性だろうが……


「なんか、聞き覚えがあるんだよな」


 嫌な予感を覚えつつ(かぶり)を振り、私は嘆息する。

『いや、そんな……まさかな?』と思案する中、オスカーはパッと表情を明るくした。


「────り、リズベット様……!」


 慌てて立ち上がり女性の元へ駆けていくオスカーは、『いいところに!』と歓喜する。

どうやら、かなりの実力者らしい。

そうでなきゃ、こんな反応はしないだろう。


 聞き覚えのある声に加えて、リズベットという名前……しかも、オスカーが敬称をつけるほどの強者。


「おい、ギデオン。もしや、あの女も────異世界人なのか?」

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