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アンヘル帝国に宣戦布告

「ジーク、今すぐアンヘル帝国に宣戦布告してこい」


 ────と、指示した五時間後。

私は速攻でアンヘル帝国の辺境に乗り込んだ。

当然、あちらは寝耳に水状態なので後手に回る。

というのも、正式に宣戦布告した五分後の出来事だから。

『恐らく、辺境(ここ)まで話は来ていないだろうな』と思いつつ、私は防壁の旗を眺める。


 本来であれば、降伏の余地を与えるためにも時間を置くべきだが……


「生憎、私はそこまで暇じゃない」


 戦争においての暗黙の了解より己の都合を優先する私は、天に向かって人差し指を向けた。

その途端、体は宙に浮いて防壁と同程度の高さまで上昇する。

と同時に、私の拳よりやや大きい火球を複数顕現させた。


「さあ、戦争を始めよう」


 誰に言うでもなくそう呟くと、私は振り上げた人差し指を防壁へ向ける。

すると、それを合図に火球は発射し────アンヘル帝国の国旗を全て射抜いた。

ボンッと軽い爆発音を立てて弾け飛ぶ旗を前に、私は地上へ目を向ける。


「露払いは任せた」


「「「はっ!」」」


 リカルド率いる我が国の騎士達は、恭しく(こうべ)を垂れて応じた。

かと思えば、物凄い速さで防壁へ向かっていく。

意外にも、先頭を走っているのはセザールだった。

『リカルドの指示か?』と首を傾げる中、彼は閉まり切った門を見据える。

と同時に、懐から短剣を出し────大きく振るった。

その瞬間、剣の刃先から真っ赤な炎が出てきて門を焼き払う。


 なるほど。魔剣を使わせるために、セザールを前に行かせたのか。

リカルド達でも魔剣を扱うことは出来るだろうが、こういう場での使用は慣れている奴に任せた方が確実だもんな。


「というか、炎系の魔剣ってまだ残っていたか?」


 『確か、使い切ってなかったか?』と疑問に思う私に、アランが下から声を掛ける。


「あれは追加で作ったやつですよ」


「あぁ……そういえば、元奴隷の鍛冶師達が工房の使用を申請して来ていたな」


 数日前に見た書類を思い出し、私は『魔剣を作っていたのか』と少し驚いた。

あいつらはもう武器など作らないと思っていたから。

『何か心情の変化でもあったのか』と思案していると、アランが少し屈んで自身の靴をいじる。

靴紐でも解けたのかと思いきや────彼は突然空中に浮いた。


 ……ん?こいつ、風魔法なんて使えたか?


 などと疑問に思う中、アランは私の隣までスイスイやってくる。


「この魔道具、やっぱムズいな」


 『バランスが……』とボヤきながら腰を捻り、アランは足元に目を向けた。

釣られて私も視線を下げると、靴下から蒸気のようなものが噴き出しているのが見える。

『なるほど。飛べたのはこの靴のおかげか』と納得しつつ、私は軽くアランの膝裏を蹴った。

その途端、彼はバランスを崩し────


「うあああぁぁぁぁあああ!?」


 ────落下していく。それも、通常より早いスピードで。

恐らく、足裏から出ている蒸気が仇となって加速を強いられているのだろう。


「ふむ……移動手段としては使えそうだが、戦闘には不向きだな。まさか、これしきのことで空中浮遊を維持出来なくなるとは」


 『下手すれば、膝カックンで負けることになるぞ』と語り、私は顎に手を当てる。

改良の余地はありそうだと思案する私の前で、アランは慌てふためいた。


「ちょっ……!冷静に言ってないで、助けてくださいよ……!俺、ほん……死ぬ……!」


「大袈裟なやつだな。この程度の高さから落ちても、死にはしない。余程、打ちどころが悪くなければな」


「最後の一言!それ、超不安になるんですけど!?てか、俺はイザベラ様の手足なんでしょ!怪我しちゃって、いいんですか!?」


「治せるから、別に問題ない」


 『死んでなければ、大体プラマイゼロになる』と述べると、アランは面食らう。


「そんな横暴な……!俺、生きた人間で機械じゃないんですけど……!?」


 『修理すれば全て元通りという訳じゃない!』と反発し、アランは半泣きになる。

出会った頃と比べて随分と感情豊かになった彼を前に、私は小さく肩を竦めた。

その途端、アランの体はピタッと制止し、落下の危機を免れる。


「分かっている。さっきのは、ただのジョークだ」


「いや、分かりづら……!!」


 『本気かと思ったよ!』と叫び、アランは額に手を当てた。

と同時に、大きく息を吐く。


「マジで死ぬかと思った……」


「さすがに娯楽で部下を殺すことはないから、安心しろ。まあ、貴様は反応がいいからまたからかうかもしれないが」


「心臓に悪いんで、やめてください……」


 『もう勘弁』と言い項垂れるアランに、私はフッと笑みを漏らす。


「ところで、その魔道具を開発したのは誰だ?」


「キースですよ。ほら、ちょっと大人ぶっている生意気なやつ」


「あぁ、あいつか」


 俗に言うツンデレという性格のマセガキを思い浮かべ、私は腕を組む。


「じゃあ、そいつに伝えておいてくれ。その靴と合わせて使う用のサポートアイテムでも作っておけ、と」


「えっ?靴に機能を追加するんじゃなくて?」


「ああ、この形態で体の重心を支えるのは無理があるからな。腰なんかに補助魔道具を追加して、機能アップを図った方がいい」


 効果を一つの魔道具にまとめるのは大事だが、無理そうなら潔くバラすのもまた大事。

そこにこだわって、本当にやりたかったことを疎かにするのは愚行そのものだ。


 『何より、そういう縮小化は後でも出来るからな』と思いつつ、私はふと顔を上げる。


「────そろそろ、あっちは片付く頃か」


 雑談している間も着々と侵攻を進めていたようで、我が軍はあっさり辺境を制圧していた。

『なんだか、呆気なかったな』と拍子抜けする中、リカルドはこちらへ一礼する。

どうやら、私の視線に気づいたらしい。

『この距離でよく分かったな』と感心しながら、私は風魔法でアランを引っ張り上げた。

と同時に、リカルドの近くまで転移する。


「状況は?」


「一先ず、辺境を占拠いたしました。ご指示通り、敵にも極力怪我を負わせないようにしております。なので、今のところ死人は0です」


 捕虜となっている敵の者達を一瞥し、リカルドは『丁重に扱います』と断言した。

何となく、こちらの狙いを悟っているのかもしれない。


「よくやった。では、その調子で進軍を続けろ。アラン、貴様は連絡係だ。城で留守番しているジークやアリシアに逐一情報を伝えろ」


「「はっ」」


 リカルドとアランは最敬礼で了承の意を示し、散開する。

その後ろ姿を見送ると、私は大きな山のある方角を見据えた。


 では、私も動き出すとするか。哀れな子羊共を救う英雄として、な。


 『我ながら似合わない配役だ』と肩を竦めつつ、私はパチンッと指を鳴らす。

と同時に────アンヘル帝国の皇城上空へ転移した。

ちなみにここへ来るのは、二回目(・・・)である。


 一回目(前回)はあくまで、偵察。そして、二回目(今回)は────


「────異世界人(・・・・)の解放のために来た」

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