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元奴隷達の変化《アラン side》

◇◆◇◆


 ────元奴隷のケアに、ウチのガキ共や嘆願書の奴らを使い出してから早二週間が過ぎた。

みんな真心を込めて世話しているからか、元奴隷達も徐々に口数が多くなり、表情も豊かに。

まだ完全に心を開いてはくれないものの、ちょっとした立ち話や挨拶はしてくれている。

おかげで、元奴隷達の住まう別館はかなり明るい雰囲気になった。


 まあ、中には頑なに心を開かない者やこちらを訝しむ者も居るけど。

例えば────あいつとか。


「僕のことは放っておいてくれ」


 ウチのガキ共の手を振り払い、二階の居住スペースへ向かう緑髪の少年────キースは仏頂面を晒す。

とにかくこちらの厚意を尽く無下にしてくる彼に、ウチのガキ共は頬を膨らませた。


「どうして?仲良くしようよ!」


「お前らはどうせ、あの化け物の手先だろ」


「化け物って、まさかイザベラ様のこと!?もし、そうなら怒るよ!私達を助けてくれたのは、あの方だもん!」


「ハッ!どうだか……わざと恩を売って、言うことを聞かせる算段かもしれねぇーだろ」


 長年の奴隷生活ですっかり根性がねじ曲がってしまったらしく、キースは舐め腐った態度を取る。

────でも、俺達には何となく分かった。敢えてそうしているんだ、と。

多分、『助かる』という希望を……『幸せになれるかもしれない』という期待を打ち壊してほしいのだ。

このまま誰かの優しさに甘えてしまったら、裏切られた時とても辛くなるから。

『上げて落とすくらいなら、最初から優しくしないでくれ』と、思っているのだろう。


 ったく……ガキだな。


 天井裏にある覗き穴から様子を窺う俺は、やれやれと(かぶり)を振った。

と同時に、ウチのガキ共が口を開く。


「それはないよ!だって、イザベラ様は一人で何でも出来るもん!」


「俺達の助けなんて、必要ない!」


「それでも、こうやって傍に置いてくれるのはイザベラ様なりの優しさ!居たいなら、ずっとここに居ていいって言ってくれたの!」


「無論、嫌ならいつでも出て行ってくれて構わない……とも、言っていたぜ!」


「!?」


 何の迷いもなく淡々と考えを……懸念を否定され、キースは押し黙る。

『本当に利用するつもりじゃないのか……?』と戸惑い、ギュッと自身の腕を掴んだ。


「僕、鍛冶師で……魔剣を作れるんだけど、あの化け物は……イザベラ皇帝陛下は僕が『もう作りたくない』って言ったら、許してくれるの?」


「うん!イザベラ様に魔剣は必要ないもん!」


 『魔法で大抵解決しちゃうんだから!』と力説する少女に、キースはパチパチと瞬きを繰り返す。


「ほ、本当に……?本当に必要ない?」


「ええ!だって、イザベラ様は魔剣のことを『ガラクタ』って言っていたから!あってもなくても、気にしないと思うよ!」


「が、ガラクタ……」


 無理やり作らされていたとはいえ、ガラクタ呼ばわりは心外なのか微妙な反応を示す。

でも、それが……それこそが、キースの本心を表しているように見えた。

『きっと、こいつは物作りが好きなんだろう』と思案していると、不意にウチのガキ共がキースを取り囲む。


「まあ、それはそれとして」


「イザベラ様を化け物って、呼んだ件には」


「責任を取ってもらわねぇーとな」


 ゴキゴキと手の骨を鳴らし、ウチのガキ共はニッコリと笑った。

かと思えば────キースの脇や首に手を入れ、こちょこちょと擽る。

『悪い子にはお仕置きだー!』と言わんばかりに。


「ちょっ……待っ……あははははっ!」


 堪らず笑い声を上げるキースは、腰をクネらせながらその場に座り込む。

が、ウチのガキ共は容赦ないので更に追撃。


 いつも、イタズラしたときはああやって叱っていたから、移っちまったみたいだな。

キースはちょっと可哀想だが……まあ、集団リンチよりずっとマシだろ。


「にしても、やっと年相応の顔になったな」


 正確には『された』と言うべきだが、きっともう大丈夫だろう。

今ある環境を、幸せを、友人を振り払うことはない筈だ。


 『目には目を、歯には歯を、ガキにはガキを』って、ことだな〜。


 などと呑気に考えていると、マークしていた人物が階段を上がる。

そこは基本、元奴隷と使用人しか入っちゃいけない決まりになっているのに。

臨時スタッフとして派遣された外部の人間は、立ち入り禁止だ。

元奴隷のプライバシーを守るために制定されたルールを思い返し、俺も素早く移動する。


 ウチのガキ共から上がった報告によると、あの女は元奴隷の世話そっちのけで城のことをしつこく聞き回っていたらしい。

つまり、間者である可能性が高いってこと。

特に今日は大きなイベント(・・・・・・・)があるし。何か仕掛けるつもりかもしれない。


 『だからこそ、俺が警備に当たっている訳だけど』と肩を竦め、間者について行く。

無論、気づかれないように一定の距離を空けて。

『偵察だけなら一先ず見逃すが、そうじゃないなら……』と警戒心を強める中、間者は懐から丸い玉を取り出す。

赤黒く光るソレを廊下の端っこに置こうとする彼女の前で、俺は天井裏から降りた。

と同時に、暗器を構える。


「────悪いけど、爆発物(・・・)の設置は看過出来ないわ」


 魔道具の一種である魔法爆弾を奪い取り、俺は間者の首筋に剣先を宛がった。

その瞬間、相手はピタッと身動きを止め、震え上がる。


 予想通り、素人みたいだな。自害の兆候もなさそうだし、ちょっと話を聞くか。


 いつもならさっさと気絶させるところだが、魔法爆弾なんて穏やかじゃないため事情聴取を優先させる。

『忙しくなりそうだな』と考えつつ、俺は間者の耳元に唇を寄せた。


「他に魔法爆弾は?」


「も、持ってない……それだけ」


「他の奴が、違う場所に魔法爆弾を設置している可能性は?」


 『確実にお前一人じゃないだろ』という本音を押し殺し、俺は淡々と質問した。

すると、相手の女は少し迷った末に


「ある、と思う……でも、確証はない。私はただ、これを元奴隷の居る建物へ設置して来いって言われただけだから……」


 と、正直に明かす。

『本当にただの下っ端なの……』と述べる間者を前に、俺はスッと目を細めた。


「分かった。一先ず、その言い分を信じる。だから、最後に教えてくれ。お前の背後に居る奴は誰だ?」


 黒幕を教えるよう告げると、間者はさすがに躊躇う素振りを見せる。

が、首に当たるひんやりとした暗器の感触に恐れを成したのか、案外すんなり口を開いた。


「────そ、ソラリス神殿……」


 絞り出すようなか細い声でそう言い、間者は目を伏せた。

カタカタと震える彼女を前に、俺は暗器を下ろす。

と同時に、手刀をお見舞いした。

おかげで間者は気を失い、床に倒れる。


「ソラリス神殿、か……厄介なことになったな」


 大陸最多の信者数を誇る宗教組織の介入に、俺は頭を抱える。

きっと一筋縄ではいかないだろう、と辟易しながら。


 ソラリス神殿は一言で言うと────自作自演の害悪集団だ。

わざと災いを振り撒いて人々が困窮したところに、救いの手を差し伸べる。

『神を信じれば全て解決します』とか、何とか言ってな。

それで、折を見て本当に問題を解決する。

このプロセスを踏むことによって、多くの信者を獲得してきたのだ。


 多分、今度もわざと騒ぎを起こして『神の怒りを買った』だの何だの言うつもりなんだろう。

もしくはイザベラ様を悪者に仕立て上げ、排除……そのまま国を乗っ取る、とか。


 『最近、政治への介入が激しいし』と考え、俺は深い溜め息を零した。

あいつら本当に変わってないな、と呆れながら。

イザベラ様に仕える前はソラリス神殿からの依頼をよく受けていたため、俺達『疾風』は裏の事情をかなり知っている。

それこそ、災いの原因を作り出したり民衆を扇動していたりしたから。

『今はもうやってないけど』と思いつつ、定期報告に来たNo.4へ間者を託す。

あと、魔法爆弾も。


「他にも、コレが仕掛けられているかもしれない。騎士団と連携して、探し出してくれ。俺は予定通り、ここに残って元奴隷と一般人を守る」


 まだ間者が紛れ込んでいるかもしれないので、ここを離れる訳にはいかず……俺はNo.4にあとのことを頼んだ。

すると、No.4は大きく頷く。

と同時に、音もなく消えた。

残ったのは、頬を殴るような風のみ。


「さて、一階()に戻るか」

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