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斬首《アリシア side》

「何もないようなので、このまま処遇を言い渡します。シックザール帝国も不合格。よって、公開処刑になります」


 ある意味嘘から出た真のような事態に、私は皮肉を感じる。

『せめて、素直に懇願していれば良かったのに』と思案する中、セザールが再び剣を構えた。

が、特殊体質持ちのイアン殿下だけ手刀で気絶させる。

彼の血を浴びたり、うっかり飲んだりすれば一大事だから。

『最悪、死ぬ』と危機感を抱きながら、私はゆっくりと立ち上がった。


「では、三ヶ国の処遇も決まりましたし────早速、仕上げに取り掛かりましょう」


 そう言うが早いか、私はパンパンッと手を叩いてホール外に待機していた騎士達を呼ぶ。

『手筈通りにお願いします』と述べる私に、彼らはコクリと頷いた。

かと思えば、床に転がる王族達を担いでこの場から連れ出す。

私やセザールもそのあとに続き────一旦、アルバート帝国を後にした。


「まずは、ここから一番近いフィーネ王国に向かってください」


 ────と、馬車の御者に指示した数時間後。

私達は無事フィーネ王国の首都へ辿り着き、城の広場に王族を並べた。

すると、ここへ集められた民衆はどよめく。

足から血を流し、涙で顔をぐちゃぐちゃにする王族の姿に衝撃を受けているようだ。


 私達にとって、王族は……権力者は絶対的存在だったもんね。

敗戦しても、逆らえない程度には……。

私は運良くイザベラ皇帝陛下に拾われたから、彼らの呪縛を断ち切ることが出来たけど、国に残った者達はそうも行かない。

だから────今、ここで私が権力の脆さを……社会の変化を教えてあげる。


「フィーネ王国の皆さん、よく聞いてください。私は元奴隷のアリシアです。今はアルバート帝国の宰相見習いとして、働いています」


「「「!?」」」


 『宰相』という単語に強く反応し、民衆はまじまじとこちらを見つめた。

言葉も出ない様子で困惑する彼らを前に、私は声を張り上げる。


「イザベラ皇帝陛下は血筋や外見で人を判断しません。純粋にその人の能力や才能を見て、待遇を考えてくださいます。もちろん、無能だからと言って邪険に扱ったり虐げたりはしません。出しゃばりさえしなければ」


 冷めた目でフィーネ王国の王族を見下ろし、私は軽く手を上げた。

それを合図に、セザール達は王族一人一人の横へ並び、剣を構える。

ギロチンを使わないのは、『元奴隷が王族を処刑した』という印象を強めるため……また、元戦闘奴隷である彼らの気を晴らすためだ。


「この者達はアルバート帝国に戦争を起こし、惨敗したにも拘わらずまだイザベラ皇帝陛下の首を狙う不埒な輩です。陛下はそれなりの価値があり、忠誠を誓うなら生かしてやってもいいと仰っていたのに……その厚意を無下にした!だから、こうなるのです!」


 『よく見ておきなさい!』と指示し、私は振り上げた手を勢いよく下ろした。

その瞬間、王族達の首は一様に切り落とされる。

と同時に、民衆は呆然とした様子で────涙を流した。


「終わっ、た……悪夢が、終わった……」


 誰かがそう呟くと、民衆は堰を切ったように泣き出す。

これまでの苦労や葛藤を思い返しながら。

普通、斬首の瞬間なんて見たら悲鳴を上げそうなものだが、誰一人として王族の死にショックを受けなかった。

むしろ、歓喜すら覚えていることだろう。


「皆さん、よく聞いてください。今この瞬間よりここはフィーネ王国じゃなくて、アルバート帝国の辺境になります。なので、これからはアルバート帝国の法律や制度が適用され、完全実力主義を余儀なくされます。言いたいことは分かりますね?」


 僅かに身を乗り出し、私は民衆一人一人の顔を見ていく。

これでもかというほど、表情を引き締めながら。


「皆さんもその気になって努力すれば、成り上がるチャンスはあるということです。もちろん、一筋縄では行かないでしょうが。でも、これだけは覚えておいてください────才のない者が、国を支配する時代は終わりました。無能な権力者は自然と淘汰されていくことでしょう」


 『もう恐れることはないのだ』と訴え掛け、私はほんの少しだけ表情を和らげた。


「最初は混乱も大きく大変でしょうが、きっと以前より住みやすい国になると思いますよ。皆で力を合わせれば」


 上でも下でもなく同じ志を持つ仲間として、手を取り合っていこう。


 ────と、私は強く主張した。

だって、これが……これこそが、イザベラ皇帝陛下より課せられた本当の(・・・)初仕事だろうから。

『王族の処遇は多分オマケ』と予想しつつ、私は手を後ろで組む。

すると、後方に置いた箱から────狸が姿を現した。


「ただ、一つだけ注意していただきたいのが……イザベラ皇帝陛下はとても公平なお方です。別に『我々に甘い』という訳ではありません。悪さをすれば、それ相応の報いを受けます。ここに居る、アルバート帝国の元宰相のように」


 そう言って、こちらへ駆け寄ってきた狸を抱き上げた。

指示通りグッタリした様子を見せる元宰相を高く掲げ、私は一歩前へ出る。


「実は元宰相のブラウン・チェイス・バーナードは、先の戦争の立役者でして……イザベラ皇帝陛下の手によって、このような姿にされてしまったんですよ」


 『まさに罪人の成れの果てですね』と言い、私は民衆の危機感を煽った。

と同時に、狸を地面へ下ろす。


「既にご存知の方も居るかもしれませんが、アルバート帝国で罪を犯した者は損害を与えた分だけ、国に貢献しなければなりません。主に研究の実験材料として」


 『その代わり、被害者への補填や賠償は国がするので』と語り、私は表情を硬くした。


「皆さんもあんな風になりたくなければ、ルールやマナーをしっかり守りましょう」


 まあ、元宰相の変貌については研究とあまり関係ないけど。

表面上は『ご褒美』となっているし。

でも、イザベラ皇帝陛下の研究によって生み出された薬を飲み、狸化したのだからギリキリ嘘にはならないだろう。多分。


 足元で毛繕いする狸を一瞥し、私は胸元に手を添える。


「それでは、皆さんが王族の方々のようにイザベラ皇帝陛下のご厚意を無駄にしないことを願っています」


 『同じ轍は踏まないように』と言い聞かせ、私はサッとお辞儀した。

すると、民衆も釣られて頭を下げる。

私は元奴隷だというのに。


 どうやら、民衆の意識改革は上手くいったみたい。

もちろん、全員ではないだろうけど。

でも、何かが変わり始めているのは確かだ。


 『残り二ヶ国の演説も頑張ろう』と奮起し、私は踵を返した。

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