突撃
「────こちらとしては、好都合」
諸悪の根源を一網打尽に出来るチャンスなので、私は気を良くした。
ぶっちゃけ、三ヶ国それぞれ回って王の首を討ち取るのは面倒だったため。
「よし、そこへ案内しろ」
「はっ」
間髪容れずに頷いた敵のリーダーは立ち上がり、馬へ駆け寄ろうとする。
────が、それを制し、宙に浮かせた。他の者達も同様に。
「馬を使って移動していたら、日が暮れる。空から、行くぞ。進むべき方角を指させ」
「はっ。あちらでございます」
恭しく頭を垂れながら、敵のリーダーはある方角を手で示した。
それに一つ頷き、私は風魔法を用いて移動する。
「イザベラ様、彼らも連れてきて良かったのですか?」
『置いてきても良かったのでは?』と意見するジークに、私はニヤリと笑ってみせた。
「洗脳状態にあるこいつらを、敵国の王達が見たらどんな反応をするかと思ってな」
『きっと寝返ったと思って大騒ぎするぞ』と言い、私は愉快げに目を細める。
「あと、戦意喪失したとはいえ国の前で敵を放置する訳にはいかないだろ」
「確かにそうですね」
納得したように頷くジークは、チラリと後ろを振り返った。
もう既に豆粒サイズとなったアルバート帝国を見つめ、『イザベラ様の考えに間違いはない』と零す。
まさか、この程度のことで株が上がるとは。
ジークの判断基準は甘いんだな。
『育った環境のせいか?』と首を傾げる中、フィーネ王国の国境付近へ到着する。
「恐らく、この辺りだと思います」
そう言って、敵のリーダーは地上を見下ろした。
ターゲットを探すように視線をさまよわせ────『あっ』と声を上げる。
と同時に、ある場所を指さした。
「あそこです」
「ほう……これはまた随分と派手に遊んでいるな」
黒い瞳に嫌悪感を滲ませ、私はパチンッと指を鳴らす。
と同時に、その場所へ転移した。
そして、真っ先に目に入ったのは────体格の引き締まった若い男と派手な装いの老婦人、それから小太りな中年男。
見るからに異色のメンバーである彼らこそ、クリーガー王国・フィーネ王国・シックザール帝国の王達だ。
「一応、『初めまして』と言っておこう。人を人とも思わぬ外道共」
我々の登場に呆然としている三人へ声を掛け、私はニッコリと微笑む。
一歩前へ出て、テーブルらしきものに触れると────魔法で王達を吹き飛ばした。
日除けのパラソルを貫通し、真上へ上昇していく彼らは『ぎゃぁぁあああ!!?』と絶叫する。
それを一瞥し、私はテーブルや椅子として活用されていた────人間達を見つめた。
「楽にしていろ。今、治療してやる」
半泣きでガタガタ震えるだけの彼らにそう告げ、私は治癒魔法を展開する。
十数年に渡って受けてきた暴行の痕を消すように癒していき、浄化も施した。
驚いたように目を見開く彼らへ、植物魔法で作った大きな葉っぱ────もとい、タオルを渡す。
さすがにすっぽんぽんで放置するのは、忍びなかったため。
本当は服を用意してやりたかったんだが、あいにくサイズの合うものがなくてな。
亜空間に仕舞ってあるのは、私の服だけだから。
『とりあえず、それで我慢してくれ』と思いつつ、彼らの周囲に結界を張る。
と同時に、王達が落ちてきた。
ベシャッと結界に体を打ちつける彼らは、痛みに喘ぐ。
「こ、この……化け物めが!」
「そういう貴様らは、外道だがな。人間同士で、よくこんな真似が出来るものだ」
半ば呆れながら言い返す私に、シックザール帝国の皇帝は顔を顰めた。
「こいつらは人間なんかじゃない!奴隷だ!」
「ついに人の見分けすら、つかなくなったか」
「なんだと……!?」
敢えて殺さぬよう落下距離を調整したからか、中年男はまだまだ元気である。
『ガキのくせに生意気な!』と喚き、こちらへ手を伸ばした。
────が、敵のリーダーによって手首を斬り落とされる。
「うがぁぁぁぁあああ!?」
「我らが神になんたる無礼を……あなた方が無闇に触れていいお方ではない」
静かに……でも、どこか威厳のある声で敵のリーダーは吠えた。
すると、後ろに控えていた部下達も『立場を弁えろ』『人間ごときが』と吐き捨てる。
すっかり天使になり切っている彼らを前に、王達はたじろいだ。
「き、貴様らは我が軍の精鋭じゃないか……!?」
「何故、そちら側についているの!?」
「まさか、我々を裏切ったのか!?」
怪我の痛みなど忘れて喚き散らす王達は、『寝返ったな……!?』と怒りを露わにする。
さて、そろそろ洗脳が解けてもいい頃合いだな。
ジーク用に結界を展開しながら、私は戦争に駆り出された者達をそっと見守った。
すると────彼らの翼は消えていき、正気を取り戻す。
でも、誰一人として王達を守ろうとはしなかった。
「もう────あなた方には、うんざりだ……!」
王達に剣先を向けたまま、敵のリーダーは目に涙を浮かべる。
恨めしそうに王達を睨みつけ、クシャリと顔を歪めた。
「私達全員!戦闘奴隷として、育った!幼い頃から厳しい訓練を受け、出来なければ殺されて……!人権なんて、なかった!でも────」
幾度となく声を詰まらせながらも、敵のリーダーは言葉を続ける。
「────貴様らが化け物だと罵ったお方は……イザベラ様は!私達を人間として、扱ってくれた!放置してもいいのに怪我を治し、道中の負担を気にして結界だって張ってくれた!まるで、それが当たり前のように!」
洗脳されていた時の記憶は一応残るため、敵のリーダーはソレを引き合いに出した。
『うんうん』と頷く部下達を背に、彼は一歩前へ出る。
「確かにこの方は化け物じみた強さを持っている!性格だって、決して良いとは言えない!でも、外道に成り下がったあなた方よりずっといい!」
そう言うが早いか、敵のリーダーは地面を蹴り上げた。
重い鎧を身につけているとは思えない跳躍を見せ、結界に飛び乗る。
そして、唖然とする王達に殺意の籠った目を向けると、迷わず斬りつけた。
まさかの反逆へ走った彼を前に、私とジークは瞬きを繰り返す。
いやはや……そう来るか。
誤解だのなんだのと弁解する展開を期待していたため、私は暫し呆気に取られた。
王達の人望のなさというか、クズさを目の当たりにし、『まあ、裏切りたくもなるよな』と納得する。
────と、ここで王達の護衛がようやく動きを見せた。
「へ、陛下達をお守りしろ……!」
「裏切り者を取り押さえるんだ!」
急いで抜刀し、結界に駆け寄ってくる彼らは何とか王達を守ろうとする。
だが、しかし……
「そうはさせるか!」
「隊長を守れ!」
「あいつらに邪魔をさせるな!」
こちらに寝返った者達により、行く手を阻まれる。
護衛の人数より、進軍へ投入された人数の方が圧倒的に多いため、早くもあちらは不利な状況に。
おまけにこっちは魔剣もあるからな。
まず、負けることはないだろう。
『どれだけ被害を抑えて、勝つか』という局面になり、私は一つ息を吐いた。
『私の出る幕がなくなった』と。
完全に内乱状態へ突入した現状を前に、パチンッと指を鳴らす。
仕方ない。私はこっちを相手するか。
そう思い立ち、私は目の前に転移させた狸────改め、宰相のブラウン・チェイス・バーナード伯爵を見下ろす。
尻もちをついた状態でポカンとする彼は、目を白黒させていた。
こっそり逃亡する筈が、見事失敗して驚いているのだろう。
私が転移してきた時点で、必死に身を隠していたからな。
存在を認識されたら、自分に矛先が向くと思って。
「アルバート帝国の宰相が、戦争を仕掛けてきた王達と密会とは何事だ?」
「そ、それは……」
「立派な裏切り行為だよな?」
「っ……!わ、私はアルバート帝国のためを思って……!捨て身で諜報活動を行っていたのです!」
必死に身の潔白を主張し、宰相は僅かに身を乗り出す。
『行動だけ見れば、そう見えるかもしれませんが……』だの、『敵を騙すには、まず味方から……』だのと苦しい言い訳を並べ、縋ってきた。




