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開戦

「必ず勝利をもぎ取ってくるから、いい子で待っていろ」


 『他のやつに尻尾を振るなよ』と注意し、私はパチンッと指を鳴らした。

その瞬間、彼らはあるべき場所に戻り、ここから姿を消す。

『これでよし』と満足しつつ、私はジークの手を引いた。


「さあ、私達も行くぞ」


「えっ?『行く』って、どこへ……」


「決まっているだろう────戦場だ」


 そういうが早いか、私は結界外へ転移を果たした。

無論、ジークも一緒に。


「はっ……?何でもう進軍を……」


 眼下に広がる光景を前に、ジークは動揺を示した。

空中浮遊していることに、気づかない程度には。


「宣戦布告を受けてから、まだ一時間も経っていないのに……」


 呆然とした様子でそう呟き、ジークは目を白黒させた。

『有り得ない……』とでも言うように前髪を掻き上げ、苛立ちなのか困惑なのかよく分からない感情を見せる。

そんな彼の視線の先には、優に五十万を超える兵士の姿があった。


「先手必勝のつもりなんだろう。もしくは、降伏させないための措置か」


 通常であれば、宣戦布告に対する相手の反応を見てから戦へ発展する。

このように一方的な開戦は、ほとんどない。

というのも、降伏の余地を与えることで終戦後の対応や周辺諸国からの反応が良くなるから。


 ただ、今回は『私情で(・・・)国を混乱に陥れた女王の惨殺』という大義名分がある。

つまり、彼らはこれを『国同士の戦争』ではなく、『化け物の狩り』と捉えているのだ。

なので、多少無作法を働いても問題なかった。

なんせ、化け物に人の流儀は必要ないのだから。


「全く……私も舐められたものだな」


 闇に染まった瞳をスッと目を細め、私は『キツいお灸を据えなければ』と思案する。

────と、ここでようやく敵がこちらに気づいた。

かと思えば、何やら話し合っている。

恐らく、どうやって攻めるべきか考えているのだろう。


 あちらからすれば、予想外の事態に他ならない。

先手を取る筈が、当たり前のように待ち構えられているなんて思いもしなかっただろうから。


 『さて、どう出るかな』と考えつつ、私は周囲に三枚ほど結界を展開する。

普段はここまで用心しないんだが、今回はジークも一緒なので。

『念には念を』と防御を固める中、敵はやっと作戦会議を終えた。

と同時に、何かを手に握り込み、こちらを見上げる。


「人間の皮を被った化け物イザベラ・アルバート!」


「なっ……!?イザベラ様になんて口の利き方を!」


 軍隊のリーダーと思しき男が放った一言に、ジークは過剰なほど反応を示した。

『無礼な……!』といきり立ち、苛立たしげに敵を睨みつける。

────が、相手に全く通じない。


「お可哀想に。化け物に騙されているのですね……今、助けて差し上げます。さあ、皆の者!あの化け物に神の裁きを!」


 ジークを洗脳された子供と判断し、敵のリーダーは更に闘志を燃やした。

かと思えば、物を投げつけてくる。

部下達も、それに続いた。

飴玉よりやや大きめの物体を前に、私は


「くくっ……くはははははっ!」


 と、大笑いしてしまった。

だって、その物体の正体が────ニンニク(・・・・)だったから。


「くくくくっ……!嘘だろ?本当にあの話を信じたのか?」


 『馬鹿にも程があるだろう』と零し、私は結界に激突するニンニク達を見つめる。

地面へ落ちていくソレを一瞥し、敵のリーダーに視線を向けると、彼は呆然としていた。

『信じられない』とでも言うようにこちらを凝視し、固まっている。

でも、気を取り直したかのように今度は銀製の食器を投げつけてきた。

────が、こちらも結界に阻まれる。


 じゃあ、次は十字架か?


 なんて考えていると、本当に十字架が飛んできた────ものの、結界を通過出来ず撃沈。

おかげで、彼らの足元はかなりカオスになっていた。

『ちゃんと後で片付けてくれるんだよな?』と訝しむ中、敵のリーダーはガクンッと膝を突く。


「な、何で……?貴様の弱点(・・)は、ニンニクと銀と十字架じゃなかったのか……!?それらがあれば貴様の魔法を無効化出来ると聞いたのに、全然話が違うじゃないか!」


 真っ青な長髪を振り乱しながら、リーダーの男は喚いた。

海色の瞳に困惑を滲ませ、『何がどうなっているんだ……!?』と視線を右往左往させる。

全く状況についていけない様子の彼を前に、私はニヤニヤと口元を歪めた。


「貴様ら────あの話を本気で信じていたのか?」


「はっ……?」


 戸惑いがちに顔を上げる敵のリーダーは、怪訝そうに眉を顰めた。

見事な間抜け面を晒す彼に対し、私は『くくくっ……!』と笑い声を上げる。


「分かっていないようだから、教えてやる。あの通信(・・)で話した情報は全て────嘘だ」


「!!?」


 懇切丁寧に種を明かしてやると、敵のリーダーは言葉を失った。

が、直ぐに噛み付いてくる。


「そ、そんな訳ない……!だって、あれは確かに私の部下の声だった!」


 あのとき通信用魔道具を通して連絡してきたのは彼なのか、随分と詳しい。

『ということは、指揮を執っていたのもこいつか』と確信しつつ、私は口元を歪めた。


「ウチの()にはな、他人の声を真似るのが得意なやつが居るんだ。見事にそっくりだっただろう?」


 『変装なんかもするから、鍛えたらしい』と言い、私は腕を組む。

ちなみにアランは、そいつを襲っている役だ。


「本当はな、『部下の失言により、企みがバレてしまった』ということだけ伝えられれば良かったんだ。そしたら、貴様らは開き直って宣戦布告を叩きつけてくるだろうと思ったから────こちらに考える時間を与えないために」


 『貴様らの考えていることなんて、お見通しだ』と主張し、私は自身の顎を撫でる。


「ただ、ウチの影が調子に乗って色んな嘘情報を吹き込みまくってな」


 『ニンニクや十字架もその一つだ』と言い、私は髪を耳に掛けた。

と同時に、首を傾げる。


「なあ、死の間際にしては喋り過ぎだと思わなかったか?」


 その時の設定である『瀕死の中、何とか情報を伝える』というのを話題に出し、私は笑った。

相手を小馬鹿するように。


 普通の設定だと、どんなに声が似ていても違和感を持たれるから敢えて危機的状況にしたのだが、まさかここまで上手くいくとはな。

合言葉をスルーした時点で、少しは警戒しろよ。


 『今はそんな余裕ない!』と一蹴していたNo.5を思い出し、私は愉快げに目を細める。

すっかり気を良くする私の前で、敵のリーダーはもちろんジークまでポカンとしていた。


「い、イザベラ様……そんなことをしていたんですか?」


「ああ。だって、面白いだろう?」


 敵をおちょくるのが一種の趣味となっている私は、何の気なしに敵を指さす。

すると、ジークは暫く下を見て


「……確かに」


 と、呟いた。

先程の敵の発言に激怒していたこともあり、言い表せぬ快感を覚えているようだ。

悪い遊びを覚えしまったジークに、私はご満悦。

『よし、この調子でどんどん悪に染めていこう』と考える中、敵のリーダーは顔を真っ赤にする。


「こ、この化け物め……!人を騙すなど、最低の行いだ!」


「他人の()に忍び込んで暴れるより、マシだと思うが?」


「そ、それは……今、関係ないだろ!」


 一応詐欺より暴力の方が悪いという認識は持っているのか、敵のリーダーは若干声のトーンを落とした。

かと思えば、勢いよく立ち上がり、部下達に何か指示を出している。

どうやら、戦闘を再開するらしい。

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