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待ちに待った知らせ

◇◆◇◆


 ────送り込まれてきた間者を撃退してから、早一週間。

リカルドの復帰手続きや『疾風』の戦力強化に追われつつも、私は楽しく過ごしていた。

だって、もうすぐアレが届く筈だから。


 ここまで来て、まだ焦らすつもりか?早くしろ。

じゃないと、こちらから仕掛けるぞ。


 自室のソファに腰掛けながら、私は『何を躊躇っているんだ、あいつらは』と眉を顰める。

アラン達のおかげでお膳立ては完璧なのに、まだ二の足を踏んでいる敵に腹が立った。

『カモはカモらしく、カモられておけ』と考える中────突然、ノックもなしに扉が開け放たれる。


「い、イザベラ様……!大変です!」


 『ぜぇぜぇ……』と息を切らして、中に飛び込んできたのはジークだった。

黄金の瞳に焦りを滲ませ、駆け寄ってきた彼は何故か半泣きだ。

『一体、どうしたんだ?』と首を傾げていると、ジークは口を開く。


「クリーガー王国とフィーネ王国、それにシックザール帝国から────宣戦布告(・・・・)を受けました!」


 『国の一大事です!』と叫び、ジークは前髪を掻き上げた。

『まだ内部のいざこざだって、片付いていないのに』と零す彼の前で、私は席を立つ。

と同時に、笑みを漏らした。


「────やっとか。待ちくたびれたぞ」


「へっ?」


 予想と全く違う反応だったのか、ジークはパチパチと瞬きを繰り返す。

ポカンとした様子で固まる彼を他所に、私は自身の顎を撫でた。


 タイミングからして、恐らくあちらは同盟を組んでいる筈。

一気に三ヶ国を潰せるとは、運がいい。


 すっかり上機嫌になる私は、『複数国で話を進めていたから、時間が掛かったのか』と納得する。

と同時に、少しばかり興味を唆られた。


「ジーク、この私に愚かにも……いや、勇敢にも戦いを挑んできたのはどういう国なんだ?」


 勝利した後のことも考え、私は国の特徴を尋ねた。

すると、ジークはハッとしたように顔を上げ、こちらを見る。


「えっと……クリーガー王国は武力に秀でていて、建国十年にも拘わらず着実に領土を広げています」


「ほう?それは潰し甲斐がありそうだな」


 『早く戦いたい』といきり立ち、私は爛々と目を輝かせた。

子供のようにはしゃぐ私を前に、ジークはポリポリと頬を掻く。


「それから、フィーネ王国は資源豊富で食料から鉱物まで色々あります」


「くくくっ……!一番のカモはフィーネ王国とやらで、決まりだな」


「あと、シックザール帝国は魔剣作りに力を入れていて……」


「あんなガラクタを一生懸命、作っているのか。随分と暇なんだな」


 半ば感心する私に対し、ジークは『あはは……』と苦笑を零す。


「自由自在に魔法を操れるイザベラ様からすればガラクタかもしれませんが、魔法を使えない者達にとっては強力なアイテムなんですよ。実際、シックザール帝国は魔剣を武器に様々な戦争で勝利を収めていますし」


「なるほど」


 『魔剣如きで戦況が変わるのか』と瞠目しつつ、私は腕を組んだ。

と同時に、ふわりと宙へ浮く。


「なあ、ジーク」


「はい」


「今更だが、魔導師って結構希少なのか?」


 この世界の基準がいまいち分からず、私はジークに意見を仰いだ。

『率直な感想を聞かせてくれ』と述べる私に、彼は困ったような……呆れたような表情を浮かべる。


「そう、ですね……魔法を使える人間自体はそれなりに居ますが、戦闘に活かせるほどの人材はなかなか居ないと思います。少なくとも、イザベラ様のようにホイホイ魔法を使える人間は今まで見たことがありません」


 『日常生活に応用しているのも驚きですし』と零し、ジークは首の後ろに手を回した。

きっと、こちらの世界の魔法はいざという時に使うものという認識なのだろう。

それは前世でも同じだが、私以外そういう使い方をしていないのは驚きだ。

『一人くらいは居ると思ったんだが……』と思案しつつ、私は天井を見上げる。


「魔剣の利用価値が高いのは、そういうことか」


 『合点が行った』と納得し、私は一つ息を吐いた。


 となると、戦いにならないかもしれないな。

前回同様、私の無双状態で終わりそうだ。


 『つまらん』と肩を竦め、私は銀髪を手で払う。


「どうせなら、ジークと戦場デートでもするか」


「えっ……!?」


 ずっと握り締めていた書類を取り落とし、ジークはカァッと赤くなった。


「で、デート……」


「あぁ、嫌か?」


 無理強いするつもりはないため、ジークの心を優先させた。

『血飛沫は苦手か?』と考える私の前で、彼はブンブンと首を横に振る。


「い、いいいいいいいい、いいえ!凄く楽しみです……!」


「そうか。なら、良かった」


 退屈しのぎの人材を確保し、私は少しばかり安堵する。

『これで、暇を持て余すことはなさそうだ』と。


「────さてと、そろそろ戦争の準備でも始めるか」


 そう言うが早いか、私は大掛かりな結界魔法を展開した。

半透明の壁でアルバート帝国を覆い、防御体制を整える。

これなら、隕石が来ても耐えられるだろう。


 無論、こちらに矛先が向かぬよう気をつけるがな。

今の帝国民はただでさえ不安定だから、余計な負担を掛けたくない。


 『それで夜逃げするやつが増えたら困る』と考えつつ、私は転移魔法を駆使して味方の集結を図る。

もう既に慣れてしまったのか、彼らは大して驚くことなく現状を受け入れ、跪いた。

『ご命令を』と促す彼らの前で、私は床に広がった資料を引き寄せる。


「手短に言う。クリーガー王国、フィーネ王国、シックザール帝国から宣戦布告を受けた。恐らく、同盟を組んでいるものと思われる」


「「「!!」」」


「安心しろ。どれだけ束になろうと、私の敵ではない。適当に蹴散らす」


 どよめく使用人や騎士を宥め、私は『問題なく、勝てる』と宣言した。

その途端、彼らは一気に大人しくなり平静を取り戻す。

私の実力を目の当たりにしてきたため、『勝てる』という言葉に説得力があったのだろう。

『イザベラ様がそう言うなら』と安堵する彼らを前に、私は銀髪を耳に掛けた。


「矢面には、私とジークが立つ」


「「「えっ!?」」」


 『何でジーク様まで!?』と言わんばかりに目を剥く彼らは、動揺を露わにした。

心配そうにジークを見つめる彼らの前で、私はあっけからんとこう言い放つ。


「ついでにデートしてくるだけだ。危険な目に遭わせるつもりはないから、安心しろ」


「「「はい!?」」」


 思わずといった様子で声を荒らげる彼らに、私は小首を傾げた。

『何かおかしいことでも言ったか?』と。


 恋仲の二人が出掛けることを、デートと言うのだろう?

何故、そんなに驚く?

もしや、私が『釣った魚に餌をやらない』タイプだとでも?


 『心外だな』と眉を顰め、私は大きな溜め息を零した。

正直、今すぐ文句を言ってやりたいところだが……開戦まで時間がないので諦める。

『さっさと指示を出して、追い返そう』と思い立ち、私は宙に浮いたまま足を組んだ。


「カミラ達は基本自衛。終戦するまで、城に閉じこもっていろ」


「「「は、はい!」」」


 慌てた様子で首を縦に振る使用人達に、私は『しっかりな』と声を掛け、紺髪の美丈夫へ視線を移す。


「リカルドは騎士団を率いて、国境の警備を」


「「「はっ」」」


 さすがは騎士団とでも言うべきか、息の合ったお辞儀を見せた。

『リカルドの教育が行き届けているんだろうな』と思いつつ、私は赤髪を視界に入れる。


「アラン達は内部に紛れ込んでいる敵の排除。生け捕りが好ましいが、最悪殺しても構わん」


「「「了解」」」


 刺客の特定は既に終わっている体で話を進める私に、『疾風』のメンバーは誰一人否を唱えなかった。

ということは、もう選別を終えているのだろう。


 前回の失敗を取り戻すために頑張っているのは知っていたが、まさかここまでとは。

やはり、生かして正解だったな。


 『自分の目に狂いはなかった』と褒め称え、頬を緩めた。

『任せてください』と自信ありげに笑うアラン達に頷き、私は前を向く。


「それぞれ自分の役割を果たし、私に貢献しろ。勝手に死ぬことは許さん。生きて、私の前に戻ってこい。いいな?」


「「「イザベラ皇帝陛下()の御意のままに」」」


 示し合わせかのように全員全く同じセリフを吐き、(こうべ)を垂れた。

どこか満ち足りたような表情を浮かべる彼らの前で、私はニヤリと笑う。


「必ず勝利をもぎ取ってくるから、いい子で待っていろ」

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