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答え《リカルド(メンヘラ) side》

◇◆◇◆


 再び変わった景色に少し驚きながら、私はイザベラ皇帝陛下へ視線を向ける。

まだ幼く未熟である筈の彼女が、やけに大きく見えた。

目の錯覚を覚えるほどに。


 ラッセル領の件といい、スラムの件といい……イザベラ皇帝陛下は問題の根本をしっかり理解し、見事に解決された。

何かに依存せずとも、自分達の足で立っていられるように……その方法と手段を与えたんだ。

その場凌ぎの策しか思いつかなかった私とは、大違いである。


 己の浅慮を恥じるように俯き、私は強く手を握り締める。

胸の奥からフツフツと湧き上がる怒りを抑える中、イザベラ皇帝陛下は自室のテラスに出た。

かと思えば、『ちょっと来い』とこちらを手招きする。

促されるまま私もテラスに出ると、イザベラ皇帝陛下の視線の先を追うように城下を眺めた。

暫し会話のない時間が続き、風の音に耳を傾ける。

このなんてことのない一時(ひととき)が、何故かとても心地よく感じた。


「貴様は────自分の目で見て、この国をどうしたいと思った?」


 夕日に染まった街並みを見つめながら、イザベラ皇帝陛下は問い掛ける。

『答えは見つかったか?』と。

特に急かすでもなく静かに返答を待つ彼女の前で、私は自身の手を見下ろした。

過去の後悔や今の感情を脳裏に思い浮かべ、ゆっくりと口を開く。


「もっと豊かに……誰もが平和に暮らせるような国にしたい、と思いました」


 『少なくとも、貧困に喘ぐ姿は見たくない』と言い、そっと眉尻を下げる。

今までずっと見えていなかった……いや、見ようとしてこなかった帝国の闇を胸に、グッと手を握り締めた。


「では、貴様はそのためにどうするべきだった?」


 ようやくこちらを向いたイザベラ皇帝陛下は、『自分の言葉で言え』と促す。

どこまでも厳しく……でも寛大な心を持つ彼女に、私は心を揺さぶられた。

己の過ちを認めたくない衝動に駆られながらも、黒い瞳を真っ直ぐ見つめ返す。


 過去との決別を果たすためにも、ちゃんと言わなくては。


 『甘えるな』と己を叱咤し、私はギシッと奥歯を噛み締めた。


「王を……主をきちんと選ぶべきだった」


 震える声で絞り出すように言うと、イザベラ皇帝陛下は首を縦に振る。


「ああ、そうだ。貴様は仕えるべき主君を間違えたんだ。王だからというだけで思考停止し、仕えているようでは英雄と呼べない。真の英雄になりたいのならば、きちんと見極めろ」


「はい」


 間髪容れずに頷く私は、『これからはもう間違えない』と意気込む。

『同じ轍を踏むような無様だけはしたくない』と願う中、イザベラ皇帝陛下はゆるりと口角を上げた。

かと思えば、テラスの手すりにそっと背中を預ける。


「それで、腹は決まったか?」


 一番最初……それこそ数ヶ月前から投げ掛けられていた質問を再度口にし、イザベラ皇帝陛下は腕を組んだ。

どことなく穏やかな雰囲気を放つ彼女に対し、私はコクンと迷わず頷く。

そして、一瞬の躊躇いもなく膝を折った。


「私────リカルド・ヴィール・ナイトレイはイザベラ・アルバートを真の主と定め、永遠(とわ)の忠誠を誓います」


 騎士の……いや主従の誓いを立て、私は(こうべ)を垂れる。


「仕事に復帰させてください。この国のため、私に出来ることがしたいんです」


 国への貢献を心から願い、私はイザベラ皇帝陛下の許可を求めた。

『私を上手に使ってください』と全てを委ねる中、彼女は笑いながら肩を叩いてくる。


「いいだろう。ちょうど、出番も回ってきたところだしな」


「えっ?」


 私はセリフの意図が分からず、反射的に顔を上げた。

『で、出番……?』と困惑する私に対し、イザベラ皇帝陛下は愉快げに目を細める。


「ついてこい、リカルド────初仕事を与えてやる」


 そう言って、彼女はもう何度目か分からない転移を使用した。

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