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無様

 『この出来では満足できない』と思いながら、私はイーサンの魂を持って一歩後ろへ下がる。

と同時に、彼の両腕を粉砕した。

バシャッと飛び散る血や肉を一瞥し、私はついでに横腹へ風穴を開ける。


「かはっ……!?」


 これでもかというほど吐血し、白目を剥くイーサンはポロリと涙を流した。

『もう勘弁してくれ……』とでも言うように。

絶望の二文字が頭を掠めているであろう彼の前で、私は魂を握り締める。


「イーサン、貴様に与える罰は────」


 そこで一度言葉を切ると、私は手に持った魂を前へ突き出した。


「────永遠の苦しみに耐えながら、帝国の行く末をじっと見守ることだ。自分の築き上げたものが変わっていく様を、指をくわえて見ているがいい」


 『貴様の痕跡など全て消し去ってくれる』と言い、私は魂を握る手に力を込める。

その途端、イーサンはパニックになって泣き叫んだ。

相変わらず何を言っているのかは分からないが、恐らく『許してくれ』と懇願しているのではないだろうか。


 魂に神経は通ってないから痛みなど感じない筈だが、やはり本能的に危機を察知したのだろうな。


 冷静にイーサンの状態を分析しつつ、私はついに魂へ亀裂を入れる。


「ぁあ……!」


 『待ってくれ!』とでも言うように身を乗り出すイーサンに、私はフッと笑みを漏らす。


「無様だな、イーサン・アダム・ヴァルテン」


 皇帝として君臨していた面影などないイーサンを嘲り、私は────パリンッと魂を握り潰した。

四方八方へ散っていく破片は、重力に従って落ちていき……やがて、炎のようにフッと消える。

その様を眺めながら、私はニヤニヤと口元を歪め────イーサンの生首を斬り落とした。

ボトンと床に落ちるソレを引っ掴み、


「さあ、仕上げに取り掛かるか」


 と、独り言を零す。

そして玉座の間へ向かうと、城内に居る全ての人間を目の前に転移させた。

ハッとしたように目を見開く彼らの前で、私は堂々と玉座に腰掛ける。

と同時に、イーサンの生首を投げ捨てた。


「「「ひっ……!」」」


 怯えたように小さな悲鳴を上げる彼らは、たじろぐ。

今にも腰を抜かしそうなほど動揺している彼らを前に、私はパチンッと指を鳴らした。

その瞬間、イーサンの盾になり負傷した戦士達が元気を取り戻す。

氷漬けにされた者なども同様に。


「さて、哀れな子羊達よ。見ての通り、貴様らの王は死んだ。よって────ヴァルテン帝国は今この瞬間より、私イザベラ・アルバートの支配下に置かれることになる」


 魔法で声量を大きくしつつ、私はアルバートの勝利を通告した。

案の定とでも言うべきか困惑気味の者達が多いが、王の生首を目の当たりにしたため敗北したことは理解しているようだ。

存外大人しい彼らを前に、私はおもむろに足を組む。


「貴様らには、四つの選択肢がある」


 そう言って、私は指を四本立てた。


「一つ目、自害。二つ目、国外逃亡。三つ目、玉砕覚悟で戦いを挑む。そして、四つ目────私の下につき、誠心誠意仕える」


 今ある選択肢を話し終え、私は少しばかり身を乗り出す。


「さあ、どうする?好きなものを選べ。私は何でも構わん。ただし、自分が下した決断にはしっかり責任を持ってもらうぞ」


 『無責任に放り出すことは許さん』と告げ、人々の出方を窺う。

すると、一人……また一人と膝を折った。

まるで忠誠を誓うかのように。


「わ、我々はイザベラ様の手足となり、仕えることを望みます」


 宰相と思しき文官の男性が、この場を代表して意向を示す。

恭しく(こうべ)を垂れる彼らの前で、私はスッと目を細めた。


「そうか。では、今この瞬間より貴様らは私の忠実なる下僕(しもべ)だ。いいな?」


「はい」


「じゃあ、早速仕事だ────ここに紛れ込んでいる皇族を全員連れてこい」


 本当に忠誠を誓っているのか確認の意味も込めて、私は皇族の捜索を……禊を言い渡した。

その途端、彼らはあからさまな動揺を示す。

やはりとでも言うべきか、ヴァルテンの血筋を使って反逆を企てていたらしい。


 私がそんな茶番を許すと思うか?馬鹿共め。


「なんだ?出来ないのか?貴様らの王は私なのに」


「「「っ……!」」」


 下を向いて歯軋りする彼らに、私は更なる追い討ちを掛ける。


「私の言葉、もう忘れたのか?自分が下した決断には責任を持て、と言ったよな?」


「い、今すぐ連れてきます……!」


 身の危険を感じたのか、宰相は慌てて立ち上がった。

かと思えば、アイコンタクトで他の者達に指示を出し、人混みに紛れていた皇族を連れてくる。


「おい……!離せ……!」


「誰に何をしているか、分かっているの……!?」


「ぶ、無礼だぞ……!」


「……」


 第一皇子、皇后、第二皇子、第三皇子の順番で私の前に皇族を並べ、侍女や文官は後ろへ下がった。

緊張した面持ちで事の行く末を見守るその大勢に対し、皇族共は睨みを利かせる。

たった一人、第三皇子を除いて。


 確か、こいつはパーティーの時もずっと黙りだったな。

私の婚約破棄や独立宣言を聞いても、一切顔色を変えなかったし。

まあ、目元が布で隠れているから感情の変化を読み取れなかっただけかもしれないが。


 『少なくとも、敵意は感じないんだなぁ』と思案しつつ、私は皇族を見下ろす。

すると、何故か辺りは静まり返った。

私の怒りを買うとでも思っているのか、第一皇子やエステルも大人しい。

────が、第二皇子のロイドだけが鋭い目付きでこちらを睨みつけていた。


「イザベラ、貴様!ギャレット一家のみならず、父上まで……!絶対に許さない!」


「別に貴様の許しなど、求めてないが」


「なっ……!?」


 『貴様の意向など、どうでもいい』と示したことに、ロイドは随分と驚いていた。

生まれた時から選ばれた人間で、常に人の輪の中に居たため、己の存在を軽んじられることがなかったのたろう。

鳩が豆鉄砲を食らったような顔で固まる彼を他所に、私は第一皇子とエステルへ視線を向けた。


「とりあえず────第一皇子とエステル、貴様らは処刑だ」

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