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カバンに突っ込む手にふと何かが触れて取り出した。以前コンビニで何の気なしに買ったアイスキャンデーが当たったときの当たり棒だった。
「あ、それ。初めて見た」
少年が身を乗り出してアオネの手元を見た。その目の輝きを見て、幼いころの自分のきっと同じような顔をしたのだろうと妙に懐かしくなった。
「あげようか?」
アオネは少年に当たり棒を差し出した。
「いいの?ありがとう」
少年は嬉しそうに受け取った。その笑顔を見ると、アイスキャンデー1本分以上の価値はあったな、とアオネは思った。
「明日はプールの前にお店に行ってみようかな。代り映えしない繰り返しが終わるみたい」
「繰り返し?」
アオネははっとして少年の顔を見る。もしかして、この少年は繰り返す夏の日について何か知っているのだろうか。
「お姉さんも気付いてるんでしょ。夜祭の日が繰り返してる」
少年は立ち上がる。いつの間にか空は夕焼けになっていて、夜に向けてゆっくりとしなだれるひまわりをオレンジに染めている。
「アイスのお礼に、繰り返しの終りについて教えてあげる」
ひまわり畑をバックに立つ少年の顔は影になって見えない。
「朝顔だよ。僕らはずっと朝を待ってる。朝を待って、朝顔が咲くのを見るとき、次の日が始まるんだよ」
「どうして知ってるの」
「僕は長いこと、朝を待ってるから。朝顔の観察日記をつけなくちゃいけないのに」
バスが来る。
少年は商店街のバス停で降りて行った。少年は降り際に手を振った。アオネは家に戻り、浴衣を着て夜祭に向かう。
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