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白い白衣の男性が、故人との永遠の別れを悼んでいるのだろうということは察せられた。アオネは自分は邪魔をしないように立ち去ろうと思った。
まだ日は高く、夜祭までは時間がある。こんな機会に都会ではあまり見られない、きれいな海を見ておきたかった。
都会で見る海は、たいていが工業地帯で、埋め立て地や大きなタンカーが視界に入って来る。少し淀んでいて、真っ青ではない。
崖の上の手すりにつかまり、ふるさとの町からの海を眺める。ウミネコが飛んでいる。視界は広く、空も海も夏らしく濃い青だった。白い入道雲がソフトクリームみたいに大きかった。
「これが夏だよね」
アオネはつぶやく。
ふわりと体が軽くなった。バランスを失った体は手すりを乗り越え、宙に浮いていた。日傘が風に飛ばされる。
「あっ」
アオネは底抜けの青の中に落ちていった。
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