031
アオネは畳にごろりと横になった。部屋に響く夏の音に身をゆだねて目を閉じると、自分が透明になって空気に溶けていくような気がする。時折、首振りの扇風機が生暖かい風をよこした。
小説の続きを読もうかとも思ったが、なんだか眠たくなってきて、抗うこともせずに目を閉じたままでいると、そのまま意識は薄らいでいった。
どれほど時間が経っただろうか。
急に騒がしい物音がしてアオネは目を覚ました。視界の焦点が合って、アオネは息をのんだ。目の前には黒々とした銃口が向けられていた。見ると、ギャングのような黒い目出し帽をかぶった、体格から見て若い男がいる。あおむけに寝転がっているアオネの体を跨ぐようにして立ち、アオネの額にまっすぐにピストルを構えている。
「観念しな」
男はアオネの想像よりもいくらか高めの声で言った。
「何なんですか、ここ他人んちですよ」
冷たい、気持ちの悪い汗が全身からどっと噴き出してくるのがわかる。心臓が早鐘を打ち始める。
「しゃべるな。お前には気の毒だと思うが、ここで死んでもらう」
男は撃鉄を起こす。重厚で物騒な金属音に、それがモデルガンなどではなく、本物だと嫌でも理解する。
「や、やめてください!」
アオネは体をひねるが、その瞬間、衝撃があった。視界がぶれる。撃たれたのだ、と少し遅れて気付く。
また衝撃が走る。また、もう一度。
あ、痛い。そう思った次の瞬間にはアオネの意識はぷっつりと途切れた。
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