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風に舞う花

いつもどおりソフィアの部屋を訪問しようとして自室を出たところで…記憶が途切れた。


気づけば縛られ口を塞がれ、冷たい床に放り出されていた。


あの島からどうやってここまで…

いや、金や未来の地位を目の前にぶら下げられて動く人間はいくらでもいる。そんなものは全て嘘で塗り固められた幻想でしかないのに。

ーーー兄上、一体あなたはどれだけの人間の心を踏みにじれば気が済むのだ。



笛がいたるところで鳴り響いた。

「とっとと片付けよう」

「ああ。しかしもう少しいたぶってやろう。今まで散々良い思いをした分、苦しんで苦しんで死ぬがいい」

ーーー兄上、どこまで愚かなのか。そんなことをしていたらすぐに誰かが来るぞ。なんとか時間稼ぎをしなければ。


そして…思いもかけぬ形で時間稼ぎをすることとなった。




ソフィア!!

下着姿で妖艶に微笑むソフィア。それは以前のソフィアそのものだった。


「ダメだ!」届かない叫びを発した。

それは2重の意味を持っていた。


コイツらの餌食になってはダメだ!

以前のソフィアに戻ってはダメだ!



助けに来た護衛に猿ぐつわを外されると、うずくまる彼女の名前を叫んだ。叫び続けた。


「ソフィア!!ソフィア!!ソフィア!!」


彼女が顔を上げ弱々しく微笑んだ。

「殿下」


それは紛れもなくシャルルが愛するソフィアだった。しかしそうわかった瞬間、さらなる怒りと悔しさが彼を襲った。


ーーーーーーーーーーーーー



「ソフィア…私は無力だ。

君は2度も私を救ってくれた。君の全てを賭けて。

だからソフィア、私にもチャンスをくれ。

私の全て、人生の全てを賭けて君を幸せにしたい。君を守りたい。守らせてくれ。

これから先……一生……」




「南川風花」

「………え?」

「南川風花、それが私の名前です」


ソフィア…風花は彼に全てを話した。

「信じられないと思いますが…私も今だに信じられないし…でも本当なんです」



「フウカ…」

「はい。信じられないですよね…」

「いや、むしろ辻褄が合う。全て納得がいく。おかしいと思っていたのだ。どうしてもわからないことが多すぎた。

医師にだけ話してもいいか?我々は真剣に君の経過観察をしていたのだ。

記憶をなくし人格まで変える毒などあり得ない。しかしそれがあるならそれはどんな毒で、兄上はどこで手に入れたのか…。

でも君の話はある意味全てを解決してくれたよ。

いや、もちろん正直、何がなんだかわからないが。」

シャルルが力なく笑った。




「これを。」

風花は先日ソフィアの家で見つけたものをシャルルに渡した。

それはソフィアの日記だった。

「ソフィアちゃんのことを知りたかったのです」



そこにはソフィアの苦悩が綿々と綴られていた。

彼女はシャルルの婚約者となったことに戸惑っていた。

どう振る舞えばいいのかわからない。

もっと可愛らしく彼に甘えることができたら、楽しく話すことができたら…サライヤのように…でも……


ソフィアはシャルルを愛してはいなかった。

婚約者として彼を愛さなければと思ってはいた。

彼と向き合わなければと思っていた。

しかし彼女には難しいことのようだった。

彼女は1人の男性に愛されることより、多くの男性に愛されることを望んでいた。


そして彼女はシャルルに愛されていないこともわかっていた。きっと永遠に愛されることはないと…。

「そうだ…俺は彼女を愛してはいなかった…」

独り言のようにシャルルが呟いた。


「殿下、最後のページを読んで」


それは遺書だった。

彼女は死のうとしていた。

彼女は家族に関しとても大きな問題を抱えていた。

加えて、シャルルとの婚約、そして自分自身の抱える問題。

様々なことが彼女を追い詰めていたようだ。



「もしかすると、彼女はあの日、死のうとして…いや、死んで、その時同時に死んだ私と…」

「入れ替わったのか?」

「入れ替わったのか、私が身体を乗っ取ったのか…わかりません。……でも、もし入れ替わったとしたら…」

「…………」

「わかりますよね?」

「…………」

「ある時突然私達は入れ替わった。もしそうなら逆もあり得る。ある時突然…元に戻る」

「…………」

「…………風花。風に舞う花という意味なんです、私の名前。まさに風に舞って、ある日またどこかへ…」

「ダメだ!」

シャルルが叫んだ。

その叫びに風花の何かが途切れた。

彼女はとめどなく溢れ出る涙を止めることができなくなってしまった。


「フウカ、フウカ」

彼が優しく彼女をそう呼びながら、彼女が落ち着くまで抱きしめてくれた。




「ということで、殿下、少々お金を貸してもらえませんか?」

涙を拭いながら彼女は切り出した。

「は?!」

「いや、街で暮らすにも先立つものがいりまして…必ず返します!」

「貸すわけないだろ、バカなのか」

「はぁ?!返すって言ってるじゃないですか、ケチですか?」

「ケチとかそういう話じゃない!なぜここを出ていくのだ?なぜそういう発想になるのだ!」

「だから言ってるじゃないですか!私は明日にも…1分後にもまたソフィアちゃんと入れ替わるかもしれないんですよ!そんな女をそばに置いておくんですか?」

「置く!」

「なんで?愛してないんでしょ?このまま離れた方がお互いの為じゃないですか!」

「イヤだ!」

「は?なんでわかんないの?」



また涙が溢れてきた。

「だから…愛してないんでしょ…2人とも…だったら…このままそばにいたら…戻った時に辛いじゃん…婚約解消のままでいいじゃん…私達は戻る…ことを…前提にこれから……の…こと…」

「愛してる!」

「愛してなかったってさっき言ったじゃん!」

「俺はフウカを愛してるんだ!ソフィアは愛せなかった。でもフウカは愛してる!」

シャルルが泣きじゃくる風花の口を塞いだ。


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