表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/11

最後に彼にできること

それから数日後、その夜もソフィアはシャルルが訪ねてきてくれるのを待っていた。

しかし彼は現れない。いつもならもうとっくに来ている頃だ。

どうしても来れない時(今まで一度だけあった。陛下に呼ばれた時だ)は必ず誰かがそれを伝えに来てくれる。

しかし今晩は誰も来ない。


何かイヤな感じがする。このままじっとしていられない。


部屋の扉を開けるといつもはいる護衛がいない。

ーーーー今日はなに?


ソフィアはたまらなく心がざわついてきた。

ーーーー行くしかない!

シャルルの部屋は知っている。何度か訪ねたことがある。

彼女は寝着に薄い上着を羽織った姿のまま廊下を歩き出した。どんどん鼓動が早くなる。歩くスピードもあがる。


あと少しで彼の部屋だ、というところで声をかけられた。

「ソフィア様?!」

彼の側近があまりの驚きに目を丸くしている。

「な、なにを?どうして?」

「殿下に会いに来たの。いつもなら部屋に来られる時間なのに今日はまだ…だから…」

彼の顔色が変わった。


「行かれてないのですか?」

「ええ」

「殿下はお部屋にいらっしゃいません。私もいま訪ねたのですが。護衛もいないので、てっきりあなたの部屋だと…

ソフィア様、1人で戻れますか?私は殿下を探さなければ」

「はい、大丈夫です」

「では、お気をつけて」

その後、彼が小さく「まさか…」と呟いたのをソフィアは聞き逃さなかった。

ーーーーまさか、なに?

ソフィアは心臓が掴まれたように苦しくなってきた。



ピーーーーーッ!

館内に非常を知らせる笛が鳴り響いた。護衛達が一気に動き出すのだろう。


ーーーー殿下、殿下…

身体に力が入らない。

ーーーーどうかどうか神様、彼に何事もありませんように。



ーーーー迷ったよね、これ、私。

ソフィアは気づけば知らない場所にいた。

部屋に戻るつもりが違う角を曲がり、違う階段を降りてしまったのだろう。

城内はまるで迷路のように廊下が続いている。

夜の城は暗い。そして…怖い。


そこは明らかに使われていないような埃っぽい廊下だった。窓すらない。

ーーーーいや、絶対違う。戻ろう。

その時だった。



ガンッ!!

目の前の部屋から音がした。

ボソボソと話す声も聞こえる。

そしてまた

ガンッ!!

「うっ!」

音の後に呻き声がした。


そっと両開きの扉を開けようとしたが鍵がかけられている。

しかし古い扉は建付けが悪くなっているのかほんのり明かりが漏れている。

目を細めて覗くと、倒れている身体と足が見えた。

そして、その身体が蹴られている。

ーーーーー殿下?!


顔が見えないので確信はない。でも…でも…あの服は…知ってる!


ソフィアは来た道を階段まで戻るとそこにスリッパを一足脱いだ。

そして少し部屋に近づくともう一足のスリッパ。

また少し近づいて上着を。

そして部屋の前で…彼女は寝着を脱いだ。


誰かに見つけてもらう為に。そしてもう1つの目的のために。





コンッコンッコンッ

「!!!!!!」

コンッコンッコンッ

「見てこい!」

中で男の声がした。何人かいるのか。

ソフィアは…しかし…妙に落ち着いていた。

覚悟はついている。

どうせもうすぐ全て終わる。最後に自分が彼にできること…



見られる。

ソフィアはニヤリとしながらその時を待った。


「うへ〜!」

中から覗いたのであろう、男が奇声を上げた。

そして扉が開いた。

舌なめずりしながら男がソフィアの上から下まで何度も視線を動かした。


そこには妖艶に微笑む下着姿のソフィアがいた。



「あら、いい男が集まって何をされているのですか?」

ソフィアはまったりした声を出した。


身体を縛られ、猿ぐつわをされ倒れているシャルルが目を剝いて驚いている。ソフィアは彼を見ないようにした。今は心を揺さぶられたくない。



「先程、少し薬を飲んだら急に身体が熱くて…」

そう言って下着姿の身体をよじり

「私も混ぜて下さいません?」

男達をねっとり見回した。



「おやおや、これは…我が弟の婚約者ソフィア様ではございませんか…相変わらずお美しい」

そう言うと奥にいた男がソフィアに近づいてきた。


シャルルが何か叫んでいる。それをもう一人の男が蹴り上げた。


ブチッ!

ソフィアはキレた。

ーーーー兄貴かよ!このクズ!


「あら、嬉しい。では遊んで下さるのですか?」

ソフィアは部屋に入りながら下着の肩紐を片方ずらした。



「ふっ、シャルル、お前の目の前でお前の婚約者をかわいがるのも一興だな。心配するな、優しくしてやるよ。そこで寝っ転がってゆっくり見物でもしてろ」

男は大笑いするとソフィアにキスをしようとした。


「あら!だめよ、キスはシャルルのものよ。……キスだけは」

ソフィアはニヤリと笑い男の肩に手をあてた。


ソフィアは男が何かしようとすればするほど落ち着きを取り戻し、何も動じなくなっている自分に気づいた。とにかく今は時間を稼ぐんだ!



「ゆっくり楽しみましょう」

「へへへへへ」

男の薄気味悪い笑いが部屋に響いた。


そして男はついに彼女の下着に手をかけた…

その時だった。


バァンッ!!

扉が叩き壊され数人の護衛らが走り込んできた。


ーーーー助かった!

ソフィアはその場にしゃがみ込んだ。


猿ぐつわを外されたシャルルが狂ったようにソフィアの名前を叫ぶ。

ソフィアは少し顔を上げ、彼に微笑んだ。

「殿下…」



「離せ!俺は第一王子だぞ!離せ!」

男が暴れている。

「なぜだ!なぜ弟のお前が国王なのだ!なぜ俺じゃないのだ!母が側妃だからか!それだけでなぜお前なのだ!」

「あんたがそういう人間だからでしょ!!」

その場にいる全員が驚いて止まった。そして全員がゆっくりソフィアを見た。


「あんたがそういう人間だから国王になれないのよ!

シャルルだって努力してるの!親のせいにするんじゃないわよ!そしてシャルルのせいにもしないで!このクズ!

「悔しかったらちゃんと生きればよかったじゃない!シャルルが羨ましいと思うくらいの人生を送ればよかったのよ!

「世の中には今この瞬間も何も食べれずに空腹で座り込んでる人間がいるの!

「恵まれてんのにナめたこと言ってんじゃないわよ!

「まぁもう全て手遅れだろうけどね、ご愁傷様!どクズがっ!」


ソフィアの脳裏に街で見たボロ布を纏った人々が蘇った。そして本来ならそちら側にいるであろう南川風花も。




静寂を破る恐ろしいまでの乾いた笑い声が響いた。

「ハハハハハハ!その通りだ。兄上…ロデルコ・グランファン・カサヴェテウス、我が名の元、貴様を処刑に処す」


シャルルはそう言うとソフィアを抱き上げ部屋を後にした。



「殿下!これを!」

「なんだ?」

振り向いた王太子の目を見て、声をかけた護衛が震えるあがった。

「ヒッ!……ソ、ソフィア様の…ソフィア様が…目…目印に床に置いていかれたお召し物…」

シャルルは腕の中のソフィアを一瞥した

「捨てておけ」


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ