前、セカイにて。
黒い稲妻。うねり狂う黒雲が広がる空。
雨も降らないのに、湿度も高く霧が広がる大地。
そのほとんどが、森に覆われている。
全体的に薄暗く、海は見えない。
遠くの方に見える黒光りする山脈が、不気味な世界観を醸し出している。
その森の中心に浮かぶ台地。
その台地におどろおどろしい城が高く聳え立っている。
どのような構造で成り立っているのかわからないが、そこにあるのが当然と言わんばかりに堂々とした雰囲気を感じる。
その城の主は、城の頂上の部屋に居た。
浮かぶ台地の下の大地、下界が一望できる眺めの良い部屋だ。
窓ガラスといったようなものはなく、ただ壁を繰り抜いただけの窓、もとい穴だ。
城の主の男は、岩で出来た椅子から立ち上がった。
拍子に全体的に艶めいた黒髪だが、赤く染まった前髪が揺れた。
そこから覗く金色の瞳が窓の外の景色を一瞥する。
そのまま目の前に跪く老婆に視線を落とした。
「報告を……」
男が冷たく言い放つ。
「現在、王魔十二戦が対応しておりまする」
慣れた様子で老婆が答える。
金色の瞳に見下ろされるだけで、威圧感を相当感じる筈だが、長い付き合いなのかそこに何か感情が入り乱れることはない。
「そうか……ならば良い」
男は踵を返してまた椅子に座った。
纏っている金刺繍入りの黒のローブが翻る。
首から下げている、金の首飾りが音を鳴らして揺れた。
装飾は凝っており、6本の線が十字に交錯し、それぞれの線の端に淡く光が灯っている。全部で十二色の色が殺風景で薄暗い部屋によく映えている。
インスタグラムなら、よく映えそうだが残念。
当然イイねも貰えないだろう。
「して、魔王様。この後のご指示をお願いいたしまする」
老婆が目の前の男に指示を仰ぐ。
「特にはない。あ奴らが対応してるのであればなおさらだ」
魔王と呼ばれた男は、そっと眼を閉じ、老婆へ去れと右手を払う仕草をした。
老婆は何故か嬉しそうに嗤い、一礼してその場から煙となって消えた。
一人残った部屋で、魔王は首飾りを握り一人呟いた。
「これで最後か。あの未開の地を支配し、我の世となるまで……」
全てが順調だと、満足そうに口の端を歪め、より深く椅子に体を預けた。
「ようやくだな……」
そう呟き、意識が闇の底に落ちていく。
睡眠など必要のない魔王にとっては、意識が落ちていくことはおかしなことだったが、そんな事を気にする間も無く気を失っていった。