天才な姉は美少女王子に溺愛され、そして俺達は……
※「悪役令嬢は悪役令嬢となる婚約を受け入れる」と「攻略対象者は可愛い悪役令嬢を溺愛する」の続き&悪役令嬢の弟視点です。先に上記をお読み頂いてからの閲覧をお願いします。
「しばらくファニーをこの屋敷から出さないで欲しい」
ある日突然、どこからどう見ても深窓の令嬢にしか見えない美少女な王子に呼び出されて、そう言われた。
この美少女王子は我が国の第三王子で、我が家の長女で俺の姉でもあるステファニー姉様の婚約者だ。
2人が学園に通うようになってから、毎日送り迎えしているので我が家にこの美少女王子が来ることは日常だ。
だが、こうして俺と妹ミュリエルが呼び出されるのは大変珍しかった。
何せこの美少女王子はステファニー姉様しか見えていないと言うくらいにステファニー姉様を溺愛しているからだ。
だけど、軟禁紛いのことをして欲しいと言われたのは流石に初めてだった。
「どう致しますか? クロードお兄様」
兎に角危ないからと詳しいことを話すことなく帰って行った美少女王子を見送った後、ミュリエルが困惑を隠さずにそう言ってきた。
「どうって……聞くしかないだろう」
王子というだけではない。
あの美少女王子はステファニー姉様と共に、俺とミュリエルの恩人でもあるのだ。
だけど、もしステファニー姉様に危害が加わるようなら、恩があっても無条件で聞くわけにはいかない。
「まずはヨアン殿下に事情を知らないか聞いてみることにしよう」
「それが良いでしょうね。私はステファニーお姉様の様子を見てまいります」
「ああ、よろしく頼む」
我が家は伯爵家。
分かりやすい特徴もなければ、伯爵家としての格が格段に優れているわけでも劣っているわけでもない平凡な家だ。
しかし、否だからか、俺達の両親は身分不相応なまでの権力欲を有していた。
そして産まれてすぐに神童となったステファニー姉様を産んだことで、その欲が増大した。
ステファニー姉様は天才だ。
社交に優れ、政治感覚に優れ、民を思う正しき治世を行うと幼い頃から期待される程に王子として優れていたあの美少女王子の婚約者として片腕になれているくらいに天才だ。
ステファニー姉様が開発した発明品で各地を救っている話を聞く度にその凄さを実感する。
だから、そんな凄くて優秀なステファニー姉様の次に産まれてきたのが平凡な俺とミュリエルであったことが両親には溜まらなく恥だったらしい。
物心付く前から俺とミュリエルは散々ステファニー姉様と比べられ、罵倒されながら育った。
今ならあんな凄いステファニー姉様と比べないで欲しいと言えるのだが、あの頃は自分達が人として欠陥品であると思い込まされていた。
体罰は当たり前で、食事を抜かれたりと貴族の子息として劣悪な環境で育てられた。
自分一人だった時はただただ俺はダメな人間なんだとそう思っていた。
でもミュリエルが産まれ、ミュリエルも同じように虐げられるのを見て、俺はステファニー姉様を憎むようになっていった。
ステファニー姉様さえ居なければという逆恨みの気持ちと、助けてくれないステファニー姉様の無関心さへの悲しみや寂しさが混じり混じって、憎しみとなったのだ。
そうしているうちに、ステファニー姉様の婚約者候補としてあの美少女王子が我が家に訪問してくるようになった。
いつ来るか分からないということで、俺とミュリエルは初めて平穏な日々を迎えるようになった。
両親が変なところを見せて、あの美少女王子とステファニー姉様の婚約がなくなることを恐れたのだ。
だから仲良し家族のような演技は求められたけど、きちんとした寝床で寝られたし、食事を抜かれることもなくなった。何より体罰を与えられることがなくなったのが嬉しかった。
ずっと屋敷に居てくれれば良いのにと本気で思っていた。
だけど、ステファニー姉様が婚約を受け入れたことで状況は一変した。
いや、前より最悪になったと言って良い。
まず、美少女王子が我が家に訪れることがなくなった。
ステファニー姉様が王妃教育の為に王宮に赴くことになったからだ。
だからわざわざ美少女王子が我が家に来る理由がなくなった。
これにより両親は家の中でも演技をする理由がなくなった。
次に王子の婚約者が家族に居るという理由で教育が苛烈なものになったのだ。
当然、求められるレベルが高すぎて、俺もミュリエルも全くついていけなかった。
となれば体罰を始めとした過剰な躾がこれまで以上に降りかかってきた。
俺達にとってみれば教育というのはただあらゆる痛みや辛さに耐える為の時間だった。
そうしていたある日、美少女王子が我が家を訪れた。
何故か両親だけでなく俺とミュリエルも呼ばれ、その場に美少女王子と我が家の家族一同が揃った。
「私の可愛い婚約者殿から聞いたんだけど、そちらのクロード殿とミュリエル嬢はもう教育を行っているのだろう?」
「はい、貴族の当然の義務でございます故、勿論でございます」
「なら申し分ない。是非とも2人も私の可愛い婚約者と一緒に城に来てくれないかな」
「はい?」
「私の弟は遊びまわっていて教育を大人しく受けられないんだ。だから同じ年頃の子等が傍に居てくれれば互いに切磋琢磨してくれると思うんだ。そちらとしても王族の教育が共に受けられるんだ。悪い話ではないだろう?」
何を言っているのか理解できなかったが、一刻後には俺とミュリエルは美少女王子とステファニー姉様と共に馬車に乗り、王城へ向かっていた。
そうして、美少女王子の弟君であるヨアン第四王子殿下にお目見えしたのだ。
それから毎日、俺とミュリエルはヨアン殿下と王宮で遊びまくった。
初めて生きているのが楽しいと思えた。
それからかなり経ってからようやく理解した。
俺とミュリエルの現状をどうにかする為にわざわざ友人となるという言い訳を使って、ステファニー姉様と美少女王子が俺達をあの家から救い出してくれたのだと。
ステファニー姉様は決してそれを口にしたりしない。
今でもステファニー姉様は俺達とあまり話をしたりしないし、俺達に関心を見せたりしない。お世辞にも仲が良いとは言えないのだ。
だけど、何か不味いことになりそうな時は俺達の知らないうちに手を回してくれている。
ヨアン殿下がポロリと口を滑らさなければ知りえなかったくらいに、ステファニー姉様は見ていないようで見ているし、何もしていないようで色々してくれている。
それを知ってからは、俺とミュリエルはステファニー姉様を深く慕っている。
だからと言って、色々とお忙しいステファニー姉様にご迷惑をお掛けするようなことはしていないが、ステファニー姉様の為なら何でもしたいとそう思っている。
例え直接的に俺達を助ける行動をしてくれるのが美少女王子であっても、ステファニー姉様が働きかけてくれなければあのステファニー姉様命な美少女王子が動くわけがないことを知っているからだ。
勿論美少女王子にも感謝はしているし、慕ってもいる。
ステファニー姉様をあそこまで愛してくれ、大切にしてくれているのだ。悪い感情など抱きようもない。
少し、いや、かなりくっつきすぎだと思うし、甘すぎるとは思うけど、ステファニー姉様が嬉しがっているのでそこは良い。
でも、愛しすぎるが故にステファニー姉様の幸せをそっちのけにして軟禁などと言い出しているのなら話は別だ。
「ステファニー義姉様は家から出してないよな?」
手紙を出した翌日、ヨアン殿下がやってきて、真っ先にそう言ってきた。
どうやら本当に何かが起こっているらしい。
「出していませんが、ヨアン殿下。何かあったのですか?」
「ステファニーお姉様に危険が迫っているということですか?」
「あー……どこから話したものかな……。んー、ほら、今フレデリック兄さんとステファニー義姉様は学園に通っているだろう? その学園の学生であるアニエス・モルメク嬢が牢屋に入っているんだ」
アニエス・モルメク嬢。
その名前には聞き覚えがあった。
ステファニー姉様が入学して半年したくらいだったか、美少女王子が俺とミュリエルをわざわざ呼び出して、その名前を告げてきたのだ。
もし接触があったらステファニー姉様に近づけず、最速で知らせるようにと。
「まさか、ステファニーお姉様にその方が何かなさったのですか!?」
「ミュリエル、落ち着け。まだ何も起こっていない。起こっていたら、フレデリック兄さんがステファニー義姉様と離れるはずがないだろう」
「……それもそうですわね」
ミュリエルは幼い頃辛かったことは覚えていても、詳しいことは覚えていない。
まだミュリエルが2歳の頃にステファニー姉様が手を打ってくれたのだから当然だ。
だけど、俺がミュリエルにどれだけ酷い環境に居たのか、ステファニー姉様が俺達にどれだけのことをしてきてくれたのかを何度も話したお陰か、俺以上にステファニー姉様を敬愛しているのだ。
勿論俺も敬愛しているが、ミュリエルのあまりの熱意に圧倒されてしまうことが時々ある。
「アニエス・モルメク嬢の爪牙に掛かりかけていたのはフレデリック兄さんの側近衆さ。フレデリック兄さんとステファニー義姉様に届く前にフレデリック兄さんがアニエス・モルメク嬢の計画に気付いて暴いているのが今だ」
「相変わらずフレデリック殿下は優秀ですわね。流石ステファニーお姉様の婚約者ですわ」
「フレデリック殿下が優秀なのは昔からだから良いとして、それならステファニー姉様を家から出すなという理由は何ですか? 犯人は既に捕まっているというのに」
「あー、ここからは本当に他言無用で頼むぞ」
高々一学生が起こそうとした犯罪だ。
周りを見渡し、小声になるヨアン殿下に疑問を抱く。
「クリストファー兄さんが関わっている可能性がある」
第一王子、クリストファー殿下。
正妃の嫡男なのにも関わらず、昔からフレデリック殿下を王太子に望む声に押され、存在自体を忘れかけている人もいるくらいパッとしない方。
だけど、昔から正妃側の人達はフレデリック殿下を害そうと躍起だったはずだ。
今更驚くことでもない。
「一介の学生が第一王子と渡りを付けられたのは称賛に値しますが、そこまで気にすることですか?」
「それだけならな。でも今回は反乱組織が作られていた可能性が浮上した」
「!! つまり……」
「ああ。アニエス・モルメク嬢はクリストファー兄さんを旗印にした反乱を企んだ疑いで捕まっている」
思った以上に大事だった。
「そのアニエス・モルメク嬢は何か言っているのですか?」
「俺も良く分かってないんだけどな、あのご令嬢はどうやらフレデリック兄さんを手に入れる為にこんな大々的なことをしでかそうとしたらしい」
「はい? 何をどうしたらそういうことになるのですか?」
「分かってないんだ。ただ多分反乱の混乱に託けて、ステファニー義姉様を殺害するのが目的だったのではないかと言うのが今のところの見方だな。だからステファニー義姉様を外に出したくないんだ」
「なるほど。そういう理由でしたか」
「でも変ね。それならフレデリック殿下はステファニーお姉様を傍に置きそうなものだけれど」
「クリストファー兄さんが関わっている疑いがあるんだ。城の奴らが信用できないんだろう」
「あ、そう言うことですか。だから我が家で匿って欲しいんですね。ようやく理解しました」
ステファニー姉様は元々活発な方ではない。
意外にフットワークが軽いので、助けを求められたら簡単に地方に赴いたりするのだが、普段はじっと座って本を読んでいるか、勉強しているか、美少女王子が援助して建てられた研究室に籠っているかのどちらかだ。
だから家から出ないで欲しいという要望を告げても、何も思っていないようだった。
問題はあの美少女王子がどれだけステファニー姉様に会いに来れるかだろう。
何せ美少女王子の溺愛に負けず劣らずステファニー姉様も実は美少女王子が大好きだからだ。
「フレデリック殿下はどうなさっているのですか?」
「忙しくしてるさ。ああ、勿論どんなに忙しくても一日に一回はステファニー義姉様に会いに来るだろうから、そこは気にする必要はないさ」
「良かったわ。それならステファニーお姉様は問題ないわね」
「ああ、そうだな。だが、反乱組織か……。捜査は長引きそうだな……」
「フレデリック兄さんならあっさり終わらせそうな気もするけどな」
それは言えている。
あの人は優秀だし、何よりステファニー姉様の為なら不可能も可能にしてみせるだろう。
クリストファー殿下の気持ちも分からないではないのだ。
あまりに優秀な人が兄妹に居ると、普通のやり方ではどうしようもないところはある。
俺とミュリエルも結局ヨアン殿下に匿って貰っているところがあるのだ。
ヨアン殿下が居るから、両親は俺達に手を出せない。
幼い頃あれだけ大きく見えた両親だけど、俺達がヨアン殿下に、ステファニー姉様が美少女王子に庇護されたことで家庭内での権力を失った。
今はもう領地の別宅に引っ込み、アルノー家の当主はステファニー姉様が片手間に行っているくらいだ。そうなるように、あのステファニー姉様命な美少女王子が追い込んだ結果でもあるのだが。
俺達にとって、ステファニー姉様は姉であると同時に保護者でもあった。
直接的に何かされたわけではないけど、俺達はステファニー姉様の背中を見て育ったと言ってもいい。
だから、クリストファー殿下には同情するけど、ステファニー姉様に危害を加える気なら、こちらも容赦はしない。
俺達程度には何も出来ないだろうけど、この命と引き換えにしてでもステファニー姉様を守ってみせる。
その日の夜、いつも通り笑顔を浮かべた美少女王子がやってきた。
「俺の可愛いファニー。今日もいつも以上に可愛いね」
深窓の令嬢にしか見えない美少女王子がひょいっとステファニー姉様をお姫様抱っこするのを見て、あの折れそうなくらいに細い腕のどこにそんな力があるのか、いつも疑問に思う。
ソファーに座り、ステファニー姉様を自らの膝の上に乗せて、抱きしめながら顔中にキスをし、可愛いと言いまくっているところにお邪魔するのは悪いとは思うが、終わるのを待っていたら帰られてしまう。
「フレデリック殿下、お話し中のところ申し訳ありません。少しよろしいでしょうか」
「大丈夫。来週には終わるよ。君達は気にする必要はない。ファニーをここで守ることが君達の仕事だ」
ステファニー姉様に向けた甘い声ではなく、王子として威厳のある声でそうきっぱりと告げてくる。
俺達がヨアン殿下から事情を聞いたことも、俺達がステファニー姉様の為に動きたいことも全て分かっているのだろう。
「リック様、ご無理をなされておられませんか?」
「心配してくれているのかい、俺の可愛いファニー。嬉しいな。でも大丈夫だよ。俺は指示をしているだけだからね。ファニーが心配するような現場に行ったりはしていないよ。ファニーを悲しませたくないからね」
「……なら、大丈夫ですね。でも、睡眠はきちんと取って下さいね」
「勿論さ。睡眠不足は思考の弊害だからね、俺はきちんと自分の役割を分かっているよ」
「はい」
ああ、やっぱりステファニー姉様の視線はいつだって美少女王子に釘付けだ。
俺達にあんな愛情あふれた瞳も幸せそうな笑みも向けてくれたことはない。
大切にして貰っていることは分かっているけど、ただそれだけだ。
それが悔しくて、そして安心する。
俺にとってステファニー姉様は決して手の届かない人だからこそ、比べないで済んでいるのだから。
ただ憧れて、尊敬するだけで居られているのだから。
結局、美少女王子は俺達に宣言した通り一週間ほどで事態を収束させた。
反乱組織は全員捕まったらしい。
「内々的な決定だが、お前達にも影響はあるから教えておく。
フレデリック兄さんの立太子が正式に決まったよ」
収束後、ヨアン殿下がやってきて、そう告げた。
つまり、ステファニー姉様は次期王妃となることが決定したようだ。
「それは本当ですか?」
「ああ、事実だ。陛下が今回のことを重くみたらしい。反乱組織を見つけ出し、事前に壊滅させたことを功績に早々にフレデリック兄さんを立太子することで混乱を収束させる狙いみたいだ」
「つまり、立太子の宣言は早々に行われる予定なのですね?」
「ああ。来月、ちょうど良いことに建国パーティーがあるからな、フレデリック兄さんは今大忙しだよ。多分すぐにステファニー義姉様もああなる」
あの美少女王子の美少女具合は確かに隣国などにも知られているけど、美少女が次期国王だなんて大丈夫なのだろうか。
能力的に問題ないことは十分分かっているが、見た目だけは本当に美少女だからな、あの王子。
いや、それよりも気になるのは正妃側の人達だ。
「クリストファー殿下とシルヴァン殿下はどうなさるのでしょう」
「クリストファー兄さんは今回の件の処罰も含めて、諸外国を回ることが決定している。成果を出せたら、そのまま外交官になる手筈だ。出せなくても、世界は広いことが分かれば十分反省に繋がるだろう。
シルヴァン兄さんは他国に留学だな。元々シルヴァン兄さん自体は王位に興味がないから、この機会に逃げたんだろ。後は他国で婿入り出来るところを見つければ万々歳ってところだろうな」
第二王子であるシルヴァン殿下は処罰を受ける必要はない。
しかし、俺も会ったことはあるが、あの人は美少女王子が王位に就けばいいと言うスタンスだったのは知っている。基本怠け者なのだ。
だからうまく逃げたなと思う。
「だからお前ら、早めに婚約しろよ」
「………………はい?」
この流れでなんで俺達の婚約の話になるんだ?
「気付いてないのか。次期王妃の実家だぞ? 縁談が山ほど来るに決まってるじゃないか。特にお前は跡取りなんだからな、ひっきりなしに来ると思うぞ」
き、気付かなかった。
まずい。これは本気でまずい。
何がまずいってうちは今代理でステファニー姉様が確かに当主をしているけど、正式にはあの父親が当主ということだ。
つまり、あっちに手を回して強引に婚約を結ぼうとされたら俺達は逆らえない。
勿論、ステファニー姉様の不興を買うようなやり方をしたら、美少女王子に消されるだけなのだけれど、そういうことをしでかす人もいないとは言えないのだ。
「ミュリエル、誰かいい人知らないか? お前自身の相手でも良い。早急に婚約しよう」
「そ、そう言われましても……ステファニーお姉様みたいな方を今から見つけられるかしら」
「ステファニー姉様みたいな人が他にも居るわけないだろ! 基準をステファニー姉様にしたら一生結婚出来ないよっ」
「それもそうですわね」
そもそもあんな天才を嫁にして上手くいくのは、あの美少女王子くらいぶっ飛んだ人じゃないと無理だ。
俺は平凡なんだ。平凡な男には平凡な女がお似合いなんだよ。
「ま、まあ、ミュリエルは相手が居なければ俺が相手になれば良いから、そこは心配しなくていいよ」
「ヨアン殿下。ミュリエルはやりませんよ」
もうそれを言いたかっただけだろう。
ヨアン殿下がミュリエルを好きなことくらい知っているけど、ミュリエルまで王子と結婚したら、我が家の権力が急に増大しすぎて、国内が混乱する。
ヨアン殿下には感謝しているし、友人だとも思っているけど、ミュリエルをそんな権力の渦に放り込む気はない。
絶対に却下だ。
一時しのぎなら悪くはない選択肢なんだけど、後から婚約解消する契約にしてもしらを切られそうだからな。
うん、絶対却下。
悩みに悩みまくっていたのだが、その日の夜、ステファニー姉様を訪問しに来た美少女王子が雑談するかのように俺達に声を掛けてきた。
「ああ、そうそう。クロード、ミュリエル嬢。これに目を通しておいてくれ」
「それは何ですか? リック様」
「ファニーは俺が貰うからな、その前に2人も身を固めるべきだろう?」
「ああ、手配して下さったのですね。ありがとうございます」
その言葉に急いでそれを見ると、俺達の婚約者候補の書類だった。
相も変わらず本当にこの美少女王子は優秀だ。
が、見逃せないものが一つあった。
「あの、フレデリック殿下。ミュリエルの書類の中に間違えてヨアン殿下が混じっておりますが……」
間違い、だよね?
そう言って下さい、お願いします。
「ああ、ヨアンがどうしてもって頼むものだからね。大丈夫だよ、代わりの条件はそこに書いてあるだろう?」
書いてある。
分家を興し、そこに婿入りし、辺境の小さな領地に越すことになると。
ヨアン殿下は体を動かす方が好きだから、全く苦にならないだろう。むしろ喜びそうだ。
だが、ミュリエルはわざわざこんな道を選ぶ必要はない。
「これはミュリエルの判断で決めていいのですよね?」
「勿論さ。時間がないとはいえ、愛のある関係を結べる方が良いに決まっているだろう。俺とファニーみたいにな」
それなら安心だ。
と思ったのに、結局ミュリエルが選んだのはヨアン殿下だった。
「ヨアンの馬鹿野郎!!」
思わず罵った俺は悪くない。
「安心しろ、クロード義兄さん。ミュリエルは俺が幸せにする!」
「義兄さん言うなっ! 姉妹2人共王族と結婚するとか有り得ないだろっ」
「そこでクロード義兄さんの婚約者にセシルなんてどうかな? 凄く良い子だぞ」
「第三王女を薦めるなっ! 良い子なことくらい知ってるよっ! そうじゃなくて、アルノー伯爵家の兄妹全員が王族と結婚するとか馬鹿かっ」
「でもあのフレデリック兄さんがわざわざ婚約者候補の一人として入れてるんだぞ。理由がなければ入れるわけないんだから、考慮するべきじゃないのか?」
「うっ……そ、それは……」
そう言えば、何で第三王女なんて人が俺の婚約者候補とされているんだろう。
あの美少女王子のことだ。絶対に理由があるはず。
第三王女は正妃の娘だ。だから正妃側との確執がないことを証明するという政治的な理由と考えられなくもない。
だけど、どう考えても兄妹全員が王族と結婚とか有り得ない……はずだ。
いや、俺は凡人だ。多分あの美少女王子には違うものが見えているんだろう。それが何かは分からないけど。
「フレデリック殿下、私の婚約者なのですが、何故セシル第三王女殿下が含まれているのでしょうか」
分からないので、もう直接聞いてみた。
因みに美少女王子はステファニー姉様をいつものように膝に乗せていちゃいちゃしている。それは良い。それは良いのだが、何故かヨアン殿下も美少女王子に付いてきて、すぐそこでミュリエルといちゃついている。
何だこれと言いたい。
そして王子達よ、君達もっと忙しいんじゃないのか? いや、忙しいのは美少女王子だけか。
「何故って、言ったじゃないか。愛のある関係を結べる方が良いと。俺は恋する者の味方だよ」
あれ?
美少女王子ってもっと政治面では冷たくて厳格なイメージがあったんだけど……これってもしかしなくてもそう言うこと?
悩みまくっていた俺の前に、翌朝セシル王女が現れた。
俺を見た瞬間、パッと花が開いたかのように笑みを浮かべたセシル王女に俺は……
本当はヒロイン視点を書こうかと思っていましたが、つまらないことこの上ない上に血生臭くなるので弟視点です。というかヒロイン屑すぎて分野が変わってしまうので、恋愛要素で覆ってみたら、ざまぁ要素が薄まり過ぎました。配分難しい。
結局三部作になってしまったけど、これにてシリーズ完結です。
追記
完結と書きましたが、ヒロイン視点書きました。
「ヒロインは美少女王子を手に入れたい」もよろしくお願いします。
↓にリンクを貼っておりますので、お読みになりたい方はそちらからどうぞ。