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第六十八話・ハンコください



 今回は不動産ネタです。ある駅前の便利な土地に目をつけた不動産業者がいました。その担当者をCとします。売らせてしかるべき業者に渡せたら相当な利益がでます。Cさんはそう思って登記簿謄本を取り寄せました。抵当権の設定もなし。よい兆候です。しかし、名義人が複数人いる。一つの土地を数人ほど共有名義で登記しています。あるあるな話ですし、全員が同じ名字なので相続によるものだと見当がつく。まとめればイケルかも。

 それでCは筆頭者に連絡を取りました。Dとします。Dも買い上げてくれる金額を聞いて売ることに決めました。そして同じく共有名義の兄弟数名を呼んで、実印と印鑑証明書が欲しいので協力してくれと告げました。しかし、揉めました。

 実印をつくにあたって、ハンコ代をもらうにはいいけれど、売るなら均等に分けるべきだといいます。兄弟四名とそれぞれに配偶者や子ども、子どもの配偶者が来て争いが増幅されます。Dは長男だが、長男意識が強くて以前から他の兄弟から辟易されていたらしい。「強欲」「自分だけズルイ」 となった。

 一応相続の手続きには不足ない。Dさんは相続後に固定資産税もきちんと支払っている。だがこうなると調停や裁判になる、しかしそれは世間体が悪いので嫌。ゆえに弁護士の介入も望まない。


 担当のCはその場にいましたが、Dが独り占めしようとしているなら、共有名義人が納得しないのは当たり前です。そこでハンコ代ぐらいは出すべきと助言すると、DがいきなりCに向かって怒り出しました。

「お前はどっちの味方だ。わしの味方ならハンコをもらうように努力すべきだろう。そもそも共有にしたのは、相続税がすごくかかるからだ。便宜上しただけでわしが事実上の当主だからこの土地はわしのものだ」

「ですから、ハンコ代やお気持ち代は慣習でも払う人が多いし、あとあとのつきあいもあるでしょうし」

 私はそこまで聞いて、Dさんが「そういう人」 なら解決しなかったでしょと聞きました。Cさんは断言した。

「はい。「そういう人」 でした。あの手の人は本当に疲れます。ぼくはその時、どんな荒れそうな議案でも平和に解決する助っ人営業も連れてきたのですが全然だめでした」

 多分どこの業者もDが死ぬまではダメだと思う。親族同士もこじれたまま、売れないまま。Dさんの子どもも似た感じなので、Dさんの孫の代待ちかと思います。そうなると、相続がもっとややこしくなる。もつれた糸に金銭がからむと誰かが折れないと永遠にそのまま。

 子孫に美田を残さずって真実ですよ。共有持分にすると不動産を動かす時に禍根が後世に残る。

 あと、「そういう人」 は、「そういう人だと当人は絶対に気づかない」 ものです。

 欲張りは治らない。Dさんは外部には某団体役員の人でそれなりの人望あり。内面と外面の使い分けをされて生きていると。私が憎んでいる叔母Jの生き様と重なるのでエッセイにしました。






 ※ 参考文献

① 共有不動産の修理や修繕 …… 「保存行為」 として各共有者が単独でつまり一人で決めてやるのはOK。

② 共有不動産を他人に貸す行為、つまり賃貸借契約の締結、解除 …… 「管理行為」 として共有持分権の過半数の同意が得られたら可能。

③ 共有不動産を売却したり増改築をする行為 …… 「変更行為」 として共有者全員の同意が必要。

 今回のエッセイは③になります。不動産は金額と共有名義人が多いほど話がややこしくなりますね。お金で人間の態度は買うことができる。ある程度の割り切りも必要ですが、自分さえよければよいという思考は治らない。私の叔母Jはその確信犯なので身をもって知っている。


 



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― 新着の感想 ―
[一言] 〉あと、「そういう人」 は、「そういう人だと当人は絶対に気づかない」 ものです。  コレは全く以て。寧ろ「自分は、そういう人ではない」と疑いなく思い込んでいたりもするで、身内だと苦労しま…
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