第五十三話・どなたにも分け隔てなく
今回は形の良い小型イラクサ譚です。
Oさんの夫はちょっとした肩書をもった人です。しかしOさんにそれをいうと嫌がります。Oさん自身、◎◎の奥様という立ち位置が嫌だとはっきり言います。そして最近知り合った私とも気さくに話をしてくれます。先日Oさんがめずらしく某所の某を非難していました。自由診療のところといえば、お察しですが、ちょっとしたトラブルを経験されました。説明不足と技術不足……Oさん自身も関係者なのである程度の内情はわかる。
「あそこは患者に対する情がない。説明不足を指摘すると開き直った。やり直しを希望するなら応じるが、上乗せの別料金が必要だとふっかけてきた。いくらでも患者が来るからって、不遜な態度をとってよいはずがない」
……と気を悪くしている。Oさんは温厚な人なので、よっぽどのことです。するとその場にいたPさんが、Oさんに提案した。
「じゃあ、ぼくがもっと良い先生を紹介してあげる」
「お願い」 と、Oさん。で、Oさん的には、そこがとてもよかったらしい。
「先生はもちろん受付事務の人に至るまでとても親切で丁寧で本当に行ってよかった。Pさんのおかげよ」
私はOさんにある言葉を言いかけてやめました。言いかけた言葉は以下のとおりです。
……Pさんは、あなたのご主人の名前を出したと思う……
でも言わない。繰り返しになるけど、Oさんはご主人の七光りが嫌いな人ですから、私がいうと機嫌を損じられる。まさに沈黙は金なり、平和なり。
Oさんは、先のトラブルの時でもご主人の名前を出したらよかったのに。でもそれをしないし、そういう意識がないからこそ、結婚数十年たっても未だにベタぼれされており、誕生日や各種祝い事にプレゼントや外食に誘われる。結婚後も結婚前の状態が長年続いているのはすごい。夫婦ケンカしたこともないそうだ……こういう理想の夫婦もあるのね。
Oさんの不興をかった某先生に対しては、Oさんは周囲に言いふらす人ではないので大丈夫だが、Pさんがせっせと広めている。その某先生も、どなたに対しても誠意ある対応をすれば間違いなかったのに……知らぬがほっとけ、どっとはらい。




