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第四十二話・内部告発



 ある騒動についての関係者の話。一応騒動は過去の話なので現在は解決とされています。だから仮定の話としてください。その関係者は私の年上の知人で、大きな組織にいた人。Dさんとします。すでに定年退職済。数年前から大病をされて長期入院をされていました。コロナ禍で見舞いもしませんでしたが、退院されて自宅療養をしていると聞き、電話で見舞いました。その時に、人恋しかったのか思わぬ長話になり、私がうっかり騒動の思い出話というか、本当にあんな感じでしたかと雑誌の内容に踏み込んだら……Dさんは違うぞと言いました。

 私はびっくり。しかもDさんは、騒動の元になった内部告発の人、Eさんとします……を裏切者扱いする。内部告発は損、パワハラされるなど、いろいろと不利なことがあると聞いていますが、Dさんの前職はその人よりも上の地位にいました。ということは、私は貴重な情報を握っている人とこうして電話で会話しているのか……。

 Dさんは怒っている。

「Eはあんなふうにマスコミにでて昔の話を、しかも解決済みの話をべらべら話した。なんだあいつは」

「真実は違うのですか。Eさんはうそを言っているのですか」

「嘘でもないが真実でもない。しかし、あれはあれで組織が回っていた。それをだな、Eの話をマスコミも取り上げるとは、守秘義務違反だろう。裏切りもいいところだ」

「……」

 Eさんの話をマスコミが取り上げたのは、世の中に知らせる価値があるからこそです。Dさんの怒りに対し、私は部外者ですし、ただ聞いているだけで終わりました。ちょっともやっとしたのは事実です。少しでも違うことがあるなら、いまからでも記事にした媒体に訂正を申し入れたらいいだけの話です。とりあえず、療養中の人を興奮させたのは私の落ち度。配慮が足りませんでした。Dさんの血圧があがるとマズイです。


 続きがあって、その翌日Dさんから電話がありました。

「昨日の話は忘れてくれ」 と念押しされました。

  

 Dさんの言い分は「長いものには巻かれろ」 という諺を思い出しました。私はマスコミに伝手はないし、解決済みのことを補足で公表しても誰の特にもならぬ。大丈夫ですよと言いました。

 なぜ私がこのイラクサにあげたのかと申しますと、内部告発者のEさんに対しての一種の羨望を感じたからです。それはなぜか。

 Dさんはじめ、人々の記憶に残ったからです。Eさんの現在は私は知りません。でも、確実にツメ跡はたてられた。そこが羨ましい。

 ……と書けばDさんの血圧はもっと上がってまた倒れてしまうかも……Dさんは、私がここでエッセイを書いていることを知りません。アマチュアだから人に広範囲で読まれて憶測されることもない。その辺は気楽ですし、なにかクレームをつけられても私はまったくの部外者なのでスルーはできる。ただし、Eさんへの重圧はハンパないだろう。

 内部告発者の苦悩には接したことはないが、すでに退職済みだが内部告発者を直接知っている上の役職の立場の人と話したという非常にめずらしい小粒のイラクサです。





 やや古い資料で恐縮ですが、内部告発は年間4000件あるといいます。告発による解雇、嫌がらせは約半数が経験する。この告発者に対する報復行為には罰則がない、専門の行政機関がない。補償もないそうです。根深い問題ですが、マスコミに取り上げられただけでも、進捗があったと私は考えます。ニュースは残るからです。

(参考、NHKクローズアップ現代、No3757、内部告発者、知られざる苦悩より)

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