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第四十一話・作家の肩書



 少し前の話ですが、ある資料が欲しくて取材旅行とまではいかなくても、某地まで足を延ばしたことがあります。その時に対応してくださった人の話です。先に書いておきますが、この人に関してはまったく悪いところはありません。私自身がイラクサです。

 かなり珍しい質問をしたらしく、その人が怪訝な顔になったが、すぐに期待に目を輝かせて逆に質問をしてきました。

「あの~もしかしてあなたは、プロの作家か、どこかのライターさんですか」 

 私はすぐに首をふって、とんでもないと否定しました。すると、態度が微妙に変わって返答がおざなりになりました。興味がなくなったのです。返答がめんどくさそう……。私もそのあたりには敏感ですので、この人とは縁がないと思って、お礼を述べて去りました。

 別の有名な資料館でも、受付の人から「どちらの出版社の人ですか」 と聞かれたこともあります。即座に否定すると苦笑いされました。これも私の性癖で私が悪いのですが、こういうことに興味を持つ一般人であることを恥じました。

 誰かが記事にして誰かが商業誌に乗せて、一読者として素直に読んでいたら、こんな目にあうことはない。私が私になりに解釈して文章にしたいと思うから、こんな目にあう。話は変わりますが、他人の思惑なぞ、どうでもいい人っていますね。彼らは他人から迷惑がられても、早く返事しろ、資料寄こせと言えるでしょう。他人の態度が気にならなく、平気で人を使う。そこのあたりが、羨ましかったりします。


 私がプロの著述業や研究者を名乗れるなら、最初から名乗る。名刺も聞かれる前に渡す。私がそんな本物であれば、その人の仕事が間接的にも文章という形で世に出ることなる。相手だって張り切って正確に誠実に心込めて笑顔で返答をしてくださるだろう。

 著述業でなくても真剣さをアピールすれば、ちゃんと返答はしてくださるだろう。けど、消極的な性格もあり、私はそこまではできない。資料集めに限らず、本職でも、かみ合わせがうまくいかない経験は多々あり、そこらあたりが私の人生の負の分部や他人の悪いところを垣間見てしまう原因だと思う。


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 作家になりたい人は大勢います。私はここにアップしているこのサイトですら、「小説家になろう」 です。作家になりたいから、なりましょうという呼びかけがそのままサイト名になっています。

 最初に登録するときは、このサイト名に気恥ずかしさもかなりあった。でも細々と続けていくうちに、また後から登録した人たちがプロになっていくのを見るうちに、私も……と思うようになりました。作家とちゃんと名乗ることができたら、もしくは私がその分野で名前を残していれば、欲しい資料もその関連者も取材対象者も取材拒否ラインを下げてくれるだろう。


 浅田次郎氏が直木賞取り立ての時に、嬉しさと大変さをアピールしたエッセイを読んだことがあります。勇気凛凛ルリの色のシリーズでしたが、この中に明太子トラブルの話がありまして、企業名も何も書いてないのに、週刊誌にクレームを書いたら、自宅宛に、明太子を扱う各社からおわびの品が贈られてきたという話。彼がもし直木賞作家でなかったら、週刊誌連載作家でなかったら、どこの企業も、そこまではしない。

 彼に限らずプロ作家がどこそこの資料を揃えてと一声あげたら、担当編集者が協力する話がざらにある。そういった話を読むにつけ、売れっ子作家の筆による権力の強さを垣間見る。

 今回は私の性癖で相手の態度で迷惑なのねと決めてしまう。はっきりとした態度に出られる前に忖度してしまう。そのために欲しい資料も結局集められず、ネット検索ですませて足りない部分は想像で書く。こういうところもダメで、私がプロになれない理由の一つだろう。

 作家の肩書は欲しいですかと聞かれたらそりゃ欲しいが、仮になれたら続けられるかと聞かれてもすぐに頷けない。結局、宝くじ感覚かと自己分析している。

 でも名前はどういう形であれ、残したい。例の叔母の不祥事が露見しても、雇用先のJAから徹底的に庇われるのを見て余計に強く思うようになった。祖父母のお金目当て、聴力の悪さによる勘違いで騒動を起こした悪人になっているので、そんな汚名を着たまま死にたくない。私の筆の力で今は勝者の叔母を倒したい。JAから横領を公表させたい。叔母は昭和十四年生まれだから、まだ生きているうちに早く。それも今の私の創作のモチベーションの一端を担っている。皮肉です。


 過日、二十年前ぐらいのエンタメ系文学の月刊誌「オール讀物」を見る機会があった。その連載作家の顔ぶれが今とほぼ変わってない。人気作家ほど名前が大きく書かれて読者にアピールする方式も変わってない。一流のエンタメ作家はその状態が日常になっている。読者に作品の続きを期待され続けるのが本物のプロだ。そこまでいかないと流行作家は名乗れぬ。

 私はまだまだ。でも書くことは好きなので死ぬまで細々とやっていくつもり。資料なしでも新しい分野に目を向けて書けるところまで書くから。そして今際の際にこのサイトと読者様に報告してお礼を言いましょう。




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