第三十三話・監視カメラが設置されていても、役立たない場合もある
副題に客商売のつらさと、書けばもう話の内容がわかると思います。
子供がバイトをしています。学業に差支えないように週に数回ですが、お金をもらうために働くことのむつかしさを日々実感しているようです。
食べ物を扱うお商売です。たいていは普通の客、お金を払ってその場で食べるか、お持ち帰りかの違いです。しかし少数ですがクレーマーがいる。メニューと違う、具が少ない、店員の態度が悪いなど。
しかもきれいに平らげてから言ってくる。このあたりは田舎なのに、そんなことをする人がいるのかと聞くと「いる」 と断言する。
先日は今まで一番ひどいのが来たらしい。どんな? と聞いたらまあ……呆れましたし、イラクサが採取できたので披露してみます。
テイクアウト、つまり持ち帰り品を作ったらすぐに発砲スチロール容器に入れる。そのあとビニール袋にいれてレジで渡す。それからお会計。いつものように客に向かって、ありがとうございましたという。
すると、その客がその場で中身を空けたという。それから「この盛り付けはダメ」 と叫んで中身を店のすみにあったごみ箱にこれみよがしに捨てた。六十歳前後の女性だったそうです。
「……それでどうなったの」
「店長が飛んできた。ぼくが怒られた。他のお客さんもいたので、もう一度作り直して、ビニールに入れる前に中身を確認させてから渡したらOKが出た」
子供はしょんぼりしており、代わりに私は怒る。
「……それっておかしくない? 嫌がらせだとしたら犯罪じゃないの」
「店長によると、ぼくがバイトはじめたばっかりだから、それでやられたみたい」
その女性は、常連客でもないが、月に何度か来る客らしい。私は店長の対応にもっと腹をたてる。
「あのねえ、お客様は神様だと言ったのは昔の話よ。それは完全なクレーマーにすぎないでしょう。それも作ってくれた人の目の前で、食べ物をゴミにすてるなんて」
「そうは思っても店長がそうしろっていうから。ぼくも頭に来たけど、アルバイトはその通りにするしかないよ。店長がすみませんとその人に言ったからぼくも一緒に頭を下げたよ」
我が子よ……そうやってあなたも人生の荒波をかぶって生きていくのね……もうここまで大きくなったら親の出番はない。大変だったねと労うしかない。
飲食店は人間の食にかかわるので、何かあればニュースになる。食中毒でも出せば死活問題だ。それとバイト前の誓約書で何があってもSNSにあげるなと一筆書かされたそうです。つまりバイト中の様子、店に不利益になることを一切出すなと。
そこはチェーン店ですし、そういった処置は当然ですが、いかに腹が立っても食べ物を捨てるような人間のために、何度も頭を下げる……飲食店は本当にクレーマー客に弱いと実感する。こういうことに耐えないとやっていけないのかと感じ入る。
私はお金を直接いただく仕事をした経験がない。学生時代でも。
しかし、すでに盛り付けた食べ物を、作った人がいる前で、それも他人が食べているその場で捨てるなんて……そういう人はこの世にいらないと思うのだけど、と、これだけは許せず、こちらにアップしました。出入り禁止にもなっていないので、今後も来るだろうし。
一応「防犯カメラはある」 そうです。
⇒ ⇒ ⇒ でもそのシーンがバッチリ撮影されていても、役に立たない。また、こういうことは公にならない。警察も呼ばない。お金のやり取りが目的でないクレーマーはやりたい放題だと思います。
 




