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第十九話・農家に嫁いだ私の罪


 私は専業農家に嫁ぎました。義父母が専業農家でした。義父が亡くなった現在、夫に当たる人は他に職を持っていますので兼業農家として後を継ぎました。

 嫁いだ当時は義父母にとっては「嫁が来る ⇒⇒⇒新しい働き手だ」 ということで期待されていたと思います。ところが私は農作業が未経験。実母は実家が農家だったものの、中卒で嫌々働かされたので農作業が大嫌い。母にとってこれがトラウマとなり、己は農家にだけは嫁ぐまいとサラリーマンと結婚した人間です。出自が農家であったにもかかわらず、農家を蔑視していたのは、母のコンプレックスゆえだからでしょう。

 だから母は農家の長男に嫁ぐ私をバカにしました。己は中卒なのに、夫が高卒であるのも許せなかったようです。一時は親子の縁を切ると言われましたが、結婚前には許され? ると、その反動で過度の介入があり、母は義父母の対して「この子には農作業をさせないでほしい」 と申し入れました。それを聞いた私は黙っていました。つまり、無言の承諾です。元々、虫類が嫌いで、私自身も農作業ができない分、パートで現金を稼ぐつもりでした。

 義父母もそれを受けてか、私に農作業の無理強いはしませんでした。でも、たまに手伝うとうれしそうにされるのです。私はムシだけは我慢できなかったので、変なのが出てくると「ぎゃー」 と叫んで家の中に引っ込んでしまう。義父母たち、いろいろと言いたいことがあったろうに……申し訳ないです。

 代々続いていた農家を継がなかったことで、いろいろな農家独特の習慣や因習は私の代で途絶えました。たとえば義父はお正月の煩雑な行事を嬉々としてやっていました。家中に祭られている神さまの順番など複雑な決まりがあります。それを、だんだんとやらなくなりました。

 別にええよ、どこでも、どの家もそうじゃけん、と義父は寂しそうに言いました。その上、私の子供たちは私以上に畑仕事を手伝わぬ。手伝うのは稲刈りや芋ほり収穫の時期ぐらい。

 私は都会から過疎の田舎に嫁いだが、子供たちは逆に田舎から都会に出たいという。小学校から複式学級で、それぞれ一長一短あれども貴重な経験をさせることができましたが、子供たちは別の感情を持っていたのだろう。先輩たちのように都会に出て生活したい、という夢を見ています。私は、都会と田舎と両方暮らしを知っているので、はっきり言える。過疎の田舎は若い人にとって、まったく魅力的でない。

 田舎が疎まれるのは、ありとあらゆる方面での選択肢が限られているからに他なりません。日常的な買い物のほか、仕事もそうですし、人間関係もそうです。都会であれば変な人間や出来事にあっても、避けることが田舎よりは容易にできる。これは大きい。狭い範囲の中で生きるのは魅力的ではない。都会暮らしは、田舎暮らしよりも自由度があがる。

 だからこそ都会に飽きた金持ちが田舎に別荘を求める現象を皮肉に感じる。自然だけは都会に負けないから。そして金の力で、独特の田舎システムに組み込まれずに人間関係も選べるから。

 私は子供の人生に介入する権利はありません。私の実母が過度に介入し、しかも虚栄心に満ちており、実の娘の私にすら学歴詐称をする女。私は、ああいうふうにだけはなるまい、と思っています。

 なにせ、母は農作業大嫌いといいつつも、夫(私から見て父) には己の実家の農作業を週末に倒れるまで手伝わせた人間です。お米と野菜が無料でもらえるのと、Jが巨額の相続税(←嘘だった)を支払ったというのでね……実母は私の反面教師ではあるけれど、この私もまた専業農家を継いできた嫁ぎ先のご先祖様たちから見たらとんでもない悪女に見えているだろうなと思っています。



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