第十二話・男の子を産むために……昔の迷信の話
著者注::特定の昔の地名が出ますが根拠なき因習であることから公表しています。
昔の家ではどこでも、女の子よりも男の子が尊重されていました。家督を継ぐのも男の子。兵隊さんになれるのも男の子。お国の役に立つとかで女の子よりも男の子が喜ばれていました。それがため、女の子ばかり産む女性は「女腹」といって嫁ぎ先の舅や姑からいじめられることもありました。今の若い人には信じられない話でしょうが、私はそういうのを知っている……今回はそれに関連した話。
私の母の実家での話。母の母、つまり祖母は、男の子がどうしても欲しかった。しかし、生まれてくるのは女の子ばかり。長女の母、次女のJ(例のクソ叔母)、そして三回目の出産でも女の子(末の叔母F)だとわかると祖母たちはがっかりしました。そして四人目。やっぱり女の子。やっぱり、がっかり。
昭和の戦前は現在のようにエコー検査なんてないので、出産するまで赤ちゃんの性別がわからない。
祖母は四回目の出産も女の子とわかると、あえてその子の名前を「いよ」 と名付けました。
「いよ」 といえば四国の昔の呼び名です。それをそのまま、つけた。ええと、四国の昔の名称をまず書いてみます。
……伊予、土佐、讃岐、阿波の四つ。
◎ 伊予は、愛媛県
◎ 土佐は、高知県
◎ 讃岐は、香川県
◎ 阿波は、徳島県
母方の親戚は全員四国出身ではありません。では、なぜ四国に因んだ名前を女の子につけたのか。
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……それは男の子が欲しい時は、その前に生まれた女の子に四国のどれかの名前をつけると、次に男の子が必ず生まれるという言い伝えがあったから。
そのかわりに、その女の子は早く死ぬ。せっかく生まれてきた女の子の命と引き換えです。そこまでしても女の子はいらないというわけです。
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事実、母の妹の「いよ」 ちゃんは二才になるかならぬかで肺炎で亡くなりました。言い伝え通りなら次は男の子が生まれるはず。しかし祖母は妊娠しない。祖母は言い伝えは嘘だったと諦めました。
結果、長女たる私の母、当時四才。以後は婿を取る「跡取り娘」 として育てられました。
しかしきっかり十年後に祖母は妊娠し、待望の男の子が生まれました。迷信通りになったとすれば「いよちゃんの死」 のおかげかもしれません。
長女の母から見たら十四才も年下の弟の誕生です。当時の母実家は極貧でして母は高校に行けず弟の世話をし、田畑を耕して暮らしました。青果市場を手伝いに行ったこともあったそうです。極貧の理由は千九百四十六年(昭和二十一年)にあった預金封鎖ですね。国債も全部紙切れです。もろに受けたそうです。機会あればその話もいずれ書きます。
母にしたら「私は跡取り、つまり婿取り娘として育てられたが、十四才の時に弟(叔父Gのこと)が生まれたおかげで年頃になったら早く嫁に行けと言われた」 といいます。母は二十四才で父に嫁ぎました。嫁ぎ先は、いろいろあって長男の父が追い出され、母の実家の土地が用意されそこに住まうことになりました。父の忸怩たる心はいかばかりか。でも母も無残なことをほざいていました。
「ほんまやったら私が実家で婿を取り、嫁には行ってなかったのに」 と愚痴をいう。父はいいように扱われて気の毒でした。
で。その母の実家ですが、叔母Jが高卒後にJAに勤務するようになってから、急激にお金持ちになりました。元は叔母JのJAからの横領から……このあたりは前のシリーズでも書いたので省きます。
現在それを知っているのはJA上層部とJの妹のF(母から見て末妹)、そして私。
叔母Fがそのことを暴露しなければ私はこんなに苦しまないです。親族内での話で終わるからです。
JA本部の偉い人は昔の話だからと公表も拒否しました……それにも怒っている私は年老いた母の愚痴を下記のようにあしらいます。
「誰にも言えぬ手段で私腹を肥やした例のJの汚い手から援助してほしいの? Jは未婚だったので祖父母の死後は同居の長男の叔父と分けたが、それでもなお土地の事で二人はケンカばかりしていた。叔父は六十才で亡くなったが、Jは不都合なことはすべて亡くなった叔父に罪を着せた。組合員をだまくらかし、母の通帳や実印を好きなように駆使して貯め込んだ汚いお金で今更一体なにをしたい?」
バカバカしい。私にJの横領を告げた末叔母Fも頭がおかしい。あとで知らぬ存ぜぬ聞き間違いと主張する……ワタシ、ナニモ、ユウテヘン……と……もう母の実家全員が汚らわしいです。
」」」」」」」」」
話を戻します。
四国の名前を女児につけて次に生まれる男児を期待すると言うのはどういういわれか。調べたがわからなかった。民俗学的な話ではなく、家で内々に伝わる話かと思います。
母の実家の祖先は根来衆の僧兵で豊臣家との戦いで負けて山から下りてきた残兵です。少人数でこの地で開墾して農民として代々暮らしていた……古いことは古く、地元の人には苗字でそれと分かるようになっている。
出産にまつわる言い伝えを作ったのはだれか。母の実家や祖先とは四国とのつながりは一切ない。ただ本家の宗主が亡くなったときに四国の老舗銀行の通帳に数億の記帳があったという。数億というお金は過去被差別部落に関与したもので同和利権で儲けられる立場の人から誘われて乗ったと自慢していたもの。その人も元農協関係者なので部落利権ある人に便宜を図ったのでしょう。貯蓄先が四国の銀行というのが、これまた何かありますね。私の知らぬ何かが。
本来なら夢のある話なので、祖先のつながりから縁を繋いで調べまくるところだが、叔母Jの悪行が世に知られぬまま葬られ、私は祖父母の遺産目当てにJを虐めたことになっているので、もう関わりたくない。この言い伝えはここに書くだけでおしまいにします。
不思議な話だが、母の実家まわりには他に三軒これをした家があって、三軒とも叶っているという。うち一人は早世せず逆に長寿だったらしい。だから祖母もチャレンジしたと思う。せっかく生まれてきた、いよちゃんはかわいそうだったが……。
追記、名前だけですがイヨ、トサ、サヌキで登場させた童話があります。雪女の学校の話。よかったら読んでくださいね。もちろんイヨちゃんが主人公です。活躍させたかったので。
https://ncode.syosetu.com/n7791el/




