1話:古龍と暮らす
何話目か分かりやすいよう実験的に表示してみます。
白いエンシェントドラゴンが子供(とおまけ扱いの少女)を拾ってから長い時間が経った。具体的には、二百年と少し。人間の世界では大帝国が崩壊し、群雄割拠の時代が訪れた後に幾つかの王国ができて安定するという大変動が起きていたのだが、ドラゴンにとっては騒がしい日がちょっと続いたというくらいの時間感覚だった。
つまるところ、龍の暮らしに変化はなかった。エンシェントドラゴンが暮らす龍の里ではのどかな生活が続いていただけである。
「はい。リーシアさん、今日とってきた獲物です」
「あら、ありがとう。ヴィーくん」
青年が黒髪の女性に荷物を渡す。どちらとも外見は人間であるが、龍の住処での光景である。別に龍だっていつもあの巨体で生きている訳ではない。文化的に生きるには人間の姿という物は便利なので、結構な割合で人間の姿をとっているのだ。
「でも、良かったの? ヴィーくんは明日、里から出立でしょう? 今日くらいゆっくりしても良かったんじゃないの?」
「実際に俺を育ててくれたのはほとんどリーシアさんじゃないですか。これくらいしなきゃ申し訳ないですよ」
外見年齢二十代に見える女性も龍としての実年齢はかなりのものであり、ヴィーくんと呼ばれている青年も外見そのままの年齢ではない。外見で判断するような者がいられないのが龍の里だった。
「ヴィットリオさま、リーシアさま、こちらにおられましたか」
そこにやってきたのは使用人の服を着た少女であった。白いドラゴンに拾われた少女が何年か成長した外見である。
「フランちゃんじゃない。どうしたの? また、あのバカが何かした?」
「私の口からは何も……」
リーシアの言葉に少女は目を泳がせた。それを見てリーシアは深くため息を吐く。
「あの子がヴィーくんとフランちゃんを拾って来た時は、やっと龍として責任感を持ってくれたと思ったんだけどねぇ。フランちゃんには迷惑かけっぱなしで……。本当にフランちゃんが眷属になってお世話してくれなきゃどうなっていたか……」
「あの、気にしないでください。あの方のお陰で暗殺者から逃れられたのです。あの方が来てくださったから、生きていられるのです。それに、私たちにとっては、優しい姉のような方ですから」
実際のところ、二人は白いエンシェントドラゴンに拾われた子供と少女であった。少女は白いドラゴンの眷属となって長命を得て、赤ん坊であったヴィットリオは子育て中であったリーシアの母乳を与えられたことで龍に近い生き物に変わっていた。
「ほら、やっぱりお母さんのところだったじゃない」
「そうね。やっぱり来た方が早かったわね」
リーシアに瓜二つな娘が、白いドレスを着た銀髪の女性を連れてやってきた。リーシアの娘は十代後半くらいの外見で、リーシアより二回り胸が大きかった。銀髪の女性はころころと楽しそうに笑うが、彼女を見たリーシアは露骨に顔をしかめた。
「ビアンカ、あなた今度は何をする気なの? 二人とも明日のために休ませてあげなさいよ」
「二人を拾って来たのは私よ。ちゃんと明日のために準備をしたから、その説明をしようとしているだけなんだから」
心外だと言いたげなビアンカ。彼女こそ昔に二人を拾った白いエンシェントドラゴン本人だった。けれど、それを聞いていたフランがボソッと呟いた。
「……しばらく会えないから、何十年かぶりに一緒に寝たいとおっしゃっていたじゃないですか」
「あはは。さ、説明してあげるから、シアも一緒にね?」
聞いて目を吊り上げかけた親友をごまかす様に、親友の家に乗り込んでいくビアンカだった。
おねしょたが書きたくなったのです。あと、重い愛。