閑話 龍VS冒険者
それは都市を破壊することの出来る災害認定の龍であった。その中でも非常に凶暴な炎を得意とする炎龍の上位版、単なる冒険者では壁にすらならない魔物だった。しかしそんな龍でも運が悪かったとしか言いようがない。冒険者ギルドのSランクパーティー二組に、Aランクパーティーが一つと非常に不利な戦いに持ち込まれていた。
Sランクパーティー月光は女性四人からなるパーティーで、リーダーの両手剣士、防御に長けた重戦士、回復役の大神官、後衛から放つ大魔法使いとで組んでいた。
もう一つのSランクパーティーは三賢者と呼ばれる女性三人のパーティーだった。岩ノ賢者、呪ノ賢者、火ノ賢者と属性はバラバラだが、凄まじいほどの連携が取れたパーティーだった。
一つだけしかないAランクパーティーは炎雷と呼ばれる男性と女性のパーティーで、雷の大剣士と炎ノ大魔法使いといった二人だけのパーティーだが、最もSランクに近いと言われている。
そんな彼等と敵対するのは神龍山に住まう豪炎龍、青い炎を操る規格外の強さを誇っている龍だった。背中から翼を生やし、飛竜と違い両腕があった。
口からは〈龍の息吹〉を吐き出し、敵を近づけさせないようにしていた。そうこの龍は何故か人間を恐れていたのだ。龍からすれば小さな命、餌に怯える必要がないのに、豪炎龍は何かに怯えていた。
重戦士の女が豪炎龍に跳び込み〈斬撃〉を放つが強靭な鱗には傷を付ける程度で、右からきたパンチを瞬時に判断し、盾でガードしていた。倒れないように地面に着地したが、ダメージは大きく次の攻撃を防げないかもしれなかった。
「うちが岩で防御するけん、一発どデカい魔法を打ち込めるか?」
「私も岩なのでガードに専念します!!」
月光と三賢者の岩ノ魔法を使う者は瞬時に、重戦士の状態を見て戦えない状態と判断した。そのためガードに専念しようと言ったが、雷ノ剣士が前に出て行き、邪魔をしていた。そんな雷ノ剣士を見て舌打ちするが、今は戦闘中で気をそらすことができない。そんな炎雷は貴族から冒険者になった者で、どちらも自分勝手な考え方をしていた。
冒険者ギルド最強の月光のリーダーはその失敗を補うように、豪炎龍の顔に一撃を叩き込んだ。左目に大きな傷を付けて互角の状態へと持ち込もうとしたのだ。
「……やる!!」
そう発したのは火ノ賢者である少女だった。少女は自分が足手纏いになることを理解して後衛へと回っていた。そんな少女が「やる」と言ったのは、少女が出せる最強の支援魔法を放とうとした為だった。それに必要な魔法使いは炎の攻撃で、邪魔に成りかねない炎雷を連れてきた意味だった。
それを聞いた、月光と三賢者は作戦へと決行した。呪ノ賢者は炎雷へ指示を出して無理やり後退させて、彼女が出せる本気の炎魔法が放てる準備をさせる。
〈岩の束縛〉、豪炎龍を大地に縛り付ける。下級魔法であるため効果は一瞬にも満たないが、それでも動きを止めることに成功した。
「〈死火〉」
黒い火種のような火球が豪炎龍へと直撃するが、何も起こることはなかった。しかしその火種は何をしようとも消えることはない。そこへ彼女の炎魔法、〈豪炎の柱〉を発動させた。普通地面から何本も生えて攻撃を仕掛ける魔法が、今回は一本にへと集中して巨大な――先端が尖った――柱が豪炎龍に当たった。
強化された魔法はその鱗を焼け焦がし、龍の皮膚が見えてきた。傷つけた傷は熱で焼けて血止めになり、出血は狙えないものの、このまま攻撃を仕掛けていれば勝利は間違いないだろう。
「〈加速〉〈電光石火〉〈渾身〉〈付与・雷〉」
それはあまりにも無謀過ぎる攻撃、突撃だった。いくら攻撃速度が速いとはいえ、周りから溢れ出る炎、空気を焦がす熱、小さな傷しかない身体に仕掛けるには早過ぎる攻撃だった。しかし彼は運と言わざるおえなかった。骨の兵が足を斬り、豪炎龍の意識が彼とは別の方向へと向いていたのだ。
“うおおお”と大きな声で叫びながら攻撃したら意味がない不意打ちの攻撃も意識するのが遅れた豪炎龍に直撃した。電撃が身体を走り、抵抗しようとするが、他からの攻撃を何度も受けてしまい失敗する。豪炎龍は力なく倒れ伏したところを月光のリーダーがトドメを刺した。
これで龍との戦いは終わった。
冒険者ギルドの二階で先程まで激戦を繰り広げていた冒険者達とギルドマスターが対面していた。その中で大きな声で他のパーティーを罵倒しているパーティーがあった。
「あれが私の本気だって、言ってるでしょう?そんな小っぽけな火であんなことが出来ると思ってるの?」
「何言うとんねん!!うちらのアメが支援魔法を放ったおかげで、あれが放てたんや!!」
「君達の手柄にしたいのが分かるが、やめてほしいね」
「そうよ!」
その時、ゴトンという大きな音を発した発生源に全員の目がいった。それをやったのは机を叩いた月光のリーダー、ルーシュ・シンカーだった。
「この際魔法なんてどうでも良いのよ。あなた達連携する気があるの?」
「ふん、お前達が連携してないだけだろ?俺のせいにしないでくれ!!」
「そうよ!レイヤは勇敢に立ち向かったのに邪魔をしてるのはそっちでしょ?」
「ええ加減せぇよ……」
一瞬だが、三賢者から圧倒的な威圧感が出たが、それもすぐに搔き消した。彼女達は異刻者、黄金時代を生き抜いた桁外れの存在を前にして炎雷は押されたが、またいつもの態度へと戻った。しかしそんな彼女達よりも個人で強いルーシュがキレていた。
それは勝手な行動をする彼らへの怒り、冒険者ギルド最強の個人は彼女を指す言葉で、彼女を敵にすればギルドが何個かが動き出せる権力すらも持っているため、あまり挑発すらされないが炎雷はさらに彼女の怒りに油を注ぎ込んだ。
「怖い、怖い。しかしよぉ〜。俺を誰だと思ってるんだ?こっちは伯爵家だぞ?」
「子爵風情が調子に乗らないでちょうだい!!化け物!!」
それは冒険者ギルド最強のルーシュの二つ名でもある言葉だった。それを聞いた月光はリーダー以外の全員が本気でキレた。それは三賢者も同じで、そな場に居たギルドマスターとルーシュ以外の全員が魔法を発動し、武器を持ち今にも一戦が繰り広げられそうな、そんな雰囲気になっていた。
「調子に乗らないほうが良いっすよ?さもないと姐さんの代わりに私が斬るっすよ?」
「賛成します」
「岩をぶつけて欲しいのかしら?」
「……骨一」
「……メラメラ?」
上から順に重戦士のマフラは全身が日焼けしており、元気っ子といった感じだが今の彼女はこの中で一番危険だろう。賛成と言ったのは、ミル・フォードという神官衣を着た聖女で訳あって今は月光に入っていた、その恩は計り知れない。岩を出している魔法使いはシナと言いルーシュとは長い付き合いで、彼女の嫌がることを知っている。だからこそ、彼女からすれば自分の事のように腹が立っていた。
骨一と言ったのはエミールで、横には長い髭を持った骸骨が立っていた。メラメラと訳の分からない事を言ったのは、この状況に疲れてこいつら全員燃やそうかと考えた二番目に危険な人物――アメだった。その横に座っているイタは魔法を視認されてはいないものの、いつでも戦闘できる準備には入っていた。
「すまんが、炎雷出て行ってくれんか?」
ギルドマスターはレイヤに対して何も言えない。これは伯爵という身分を恐れたのではなく、彼の親父、つまりは現伯爵に恩があったからだ。それでも月光や三賢者に嫌われない理由は、「もし、本当に困ったら言ってくれ。そしたら俺はあいつを殴る」と公言しているためだ。そんな公言すらも知らない炎雷は悪態を吐きながら、この場を出て行った。そうするとこの場の空気が一瞬重たくなるのを感じた。出て言ったのにも関わらず〈化け物〉という油を残していった二人への怒りだった。
「うちはルーシュはんのことを“化け物”とは思えへんわ」
そう言ったのはゲーム時代から、この異世界へと転移させれれたイタだった。それは何処にも侮蔑の意味や恐怖を感じられず、本当――ありのままの事を言っていたのがルーシュには分かった。しかし空気は重たいままで、次はギルドマスターが喋り出した。
「それは黄金時代を生き抜いたからか?」
黄金時代、それはゲーム時代の事を言っており、時代には三つの時代があった。黄金時代、暗黒時代、そして現代である。暗黒時代になくなったものが多いとされ、その時代の中では一番長いとされたいた。
「そうですよ!魔王や怪物達がいた時代とでは、天と地の差はありますよ」
「それは少し残念だわ」
「エミール……バカ」
今回は神龍山で起こったことを聞きに来たため、今回の豪炎龍との戦いは予想外の展開だったのだ。黄金の世代、異刻者と呼ばれる者達が今時空を超えてやって来る中で、初めの難関が神龍山である。異刻者達ですら、簡単に殺されてしまう程の龍が数体、同じ力を持ったものが十数体いる中で三賢者が本気で逃げて、その山から下山した。それでも残った恐怖で都市であるこの場所まで五日も掛かった。
話を戻そう。三賢者はあの山から降った“星降り”を知っているのだ。いや、知っているのではなく出来る者を知っていると言った方が正しいだろう。それこそ彼女らの師匠である。原初の魔王レイン、かつてフィールド全体を魔王大戦の場とし、環境を変え豪魔地帯へとさせた本物の化け物達だ。
「そう言えば、“十連星の魔王”も黄金時代にいたんだよな?」
「……いた」
「見たことってあるんっすか?」
「うちらは魔王全員を生で見た事であるで」
「まさに歴史の教科書と言われるだけはありますね。昔は蘇生を使える者も多かったと聞いていますよ」
「そうですね。アンデットなんかも、沢山いたんですが……」
「死者が多いとは……神への冒涜ですね」
今になって黄金時代に死んだ者が蘇るということが神龍山で起こっており、そこから何人もの人間は冒険者になったり、国に抱えられたり、犯罪を犯したりと様々なことを行なっているが“歴史の教科書”と呼ばれる理由があった。それは、魔法、歴史、異能、技などの情報で食べている者もいる。それで食っている理由もちゃんとある。この世界にも黄金世代に匹敵する人間がいるからだ。その人物の一人がルーシュだろう。レベル四十で異世界に来た者だって多くないだろうが、その人間は神龍山で死んでいるだろう。
世界は残酷な現実を突きつけてくるのだ。それは異刻者、黄金世代でも同じなのだ。弱い者は死んでいく、怯えなどの異能を持っていなければ逃げ切れないかもしれないのだ。
「うちらの師匠も、もしかしたら来とるかもしれんな!」
「師匠!!?お前らに師匠なんていたのか!?お前らSランク冒険者だろ!?」
「……ん?……凄い?」
「此処にいる月光なんかは師匠なんていない。というか、師匠を付けても教えられる側になっちまうからな」
「やっぱり会いたいですか?」
「うちは会いたくないわ〜」
「私もあまり良い記憶がないので、あまり会いたくないですね」
「……会ったら、言う」
そんな事をアメが言うと、イタとエミールの表情が青くなってくるのが簡単に分かった。それ程怖がる必要もないと思っていた月光は何も知らないからだ。三賢者の師匠はゲーム時代では会うというよりも、見つけた瞬間に襲いかかってきたので修行が死ぬか生きるかの違いだったのだ。その分、課金アイテムや遺跡級アイテムなんかを貰って超強化されていたりする。そんな彼女達でも魔王を一体を相手に出来るかというレベルだが、それも相性の問題があっての一体だった。相性が悪ければ簡単に殺されてしまうだろう。
その魔王とは、進撃の魔王ラースだろう。物理に特化した彼ならば、遠距離で攻撃して、耐性のない攻撃で攻めていけば手こずる程度で倒せるだろうと考えていた。
そんな黄金時代の話も終わり、例の件の話は情報交換――どんな龍がいたのか――などで終わらせて疲れた身体を癒すための休暇が、この都市での本当の目的だった。三日程の休暇だが、休みのないSランク冒険者としてはありがたいことだと言って会議は終わった。